あの時の感情
ああ、こんなにも君が遠い――。
あの時、君の手を放していなかったらこんな感情を持たずに済んだのに。
この感情は何?
君を救えなかったことへの後悔?
何も出来なかった自分への怒り?
それとも――。
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「……手を、放して」
彼女が言う。
どうして、そんなことを言うの?
今ここで、僕が手を放したら君は――。
「離してよ!!」
「嫌だ……」
君の手を放したくない。
君と別れたくない。
君と、ずっと一緒にいたい。
でも、僕の手はそろそろ限界にだった。
こんなの、ドラマのワンシーンみたいじゃないか。
――ドラマだったら、ハッピーエンドだよね……?
「どうして私にそこまで構うの!? 早く手を放しなさいよ!!」
「君は分かってない……」
なんとかそれだけを絞り出すと、僕は彼女の目を見る。
悲しみと怒りに染まった、哀しい目。
僕は知ってる。
君の笑顔がとても可愛いこと。
そんな目をしていたら、可愛い顔が台無しじゃないか……。
「分かってないのはあなたの方よ! 手を離さないと、あなたも死んじゃうわよ!!」
そうなるのかもしれない。
――そうなってもいいかもしれない。
君と一緒にいれるのなら、それもいいかもしれない。
「……君となら、死んでもいい」
「な、何馬鹿なこと言ってるのよ! 手を――」
彼女の言葉は途中で消えた。
限界にまで近づいていた僕の手が、彼女の手を離してしまったから。
僕の目には、彼女がゆっくりと遠ざかっていた。
それは一瞬の永遠で。
彼女はこの世から消えた。