14 偶然の再開と必然なる襲撃
再三にわたる更新延滞、申し訳ありません。
これからは三日に一度は必ず更新することを誓います!
一也は困っていた。
その原因が綾乃の言った、
「どこに連れてってくれるのですか?」
という質問からだった。
そして、その質問の答えに困っているのは横で車の運転をしている一也以外に他ならない。
「もう決めてある」
と強がって言ってみたものの、どこに行こうか迷いに迷っているのだ。殺しの計画は一瞬で練り上げる一也も、女性をエスコートする行き先を決めるのにお手上げ状態なのである。行く先を決めぬまま進む車のハンドルを握りながら、一也は困り果てていたのだった。
一方、隣に座っている綾乃はそんな一也の考えなど知らず、これから行くであろう場所にただ胸躍らせていた。
屋敷にいたとき、宗雄の命令により綾乃は何十年と外に出してもらえなかった。二十歳になった今年になってやっと外出の許可がでた。その外出では宗雄から時間を決められていたので、屋敷から遠くへ行くことは出来なかった。その状況は今とて大きな変化はない。宗雄が一也になり、時間が今日一日と長くなっただけ・・・・・。
しかし、胸の高鳴りは時間が過ぎると共に大きくなり、それと共に暖かい何かが心の中に広がっていく。今、綾乃は確かに自由を感じていた。
そして隣に座っている一也のことを考える。
彼も同じものを感じているのだろうか。
そう考えると胸がまた小さく踊ったのだった。
「おい」
「はい?」
「昨日も言ったが、本当にどこでもいいのか?」
一也が言った。
「はい。一也さんが決めたところなら、どこでも構いません」
「わかった」
綾乃の答えを確認して、一也はアクセルを踏み込んで車を加速さした。
しばらくして、一也は車を止め、綾乃を降ろした。
「ここは?」
綾乃が好奇心旺盛な声で尋ねた。
「黙って付いて来い。来ればわかる」
そう言って手を引かれながら綾乃は一也と共に歩き出した。
いったいどこに連れてきたのだろう。綾乃は考え視覚以外の四つの感覚に意識を集中させた。
たくさんの音が聞こえる。小屋や車の中にいた時とは大違いだ。その音の中から聴こえてくる歌。どこかで聴いたことがある歌がなんだか懐かしい。微かに伝わってくる甘い香り。今、彼が扉を開けた。どこかの建物に入ったのね。冷たい風から解放されて身体が一気に温まるのがわかる。甘い香りがより強くなった。なんだかお腹が空いてきちゃいそう。
「椅子だ。座れ」
彼がそう言って椅子を引いてくれた。優しい人だ。ああ・・・、彼の手が離れてしまった。この感触、木製の椅子かしら。少し堅い。ん・・・誰かが横に来た。誰だろう?
綾乃の集中は次の一言で緩まった。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
この台詞を聞いた綾乃はここがどこかの飲食店だと理解し、そして急に緊張してしまった。外食など盲目になってから初めてだからだ。
「コーヒーをひとつ、それと・・・・」
一也がメニューを広げて考える。
「苺は好きか?」
「え?」
「苺だ。果物の苺」
「あ、はい」
「じゃあこれで」
店員にメニューの中のひとつを指で指し、注文を終えた。
「あの、ここって飲食店ですよね?」
綾乃が小さな声で一也に尋ねた。
「そうだ。・・・もしかして、嫌だったか?」
「そんなことありません。嬉しいです」
その言葉を聞いて一也はほっと一安心。何しろ思いつきで選んだので心配していたのだ。
ここは、あの駅前にある洋菓子専門店。困った一也は以前に美加が言った『クリスマスにはケーキを食べる』の言葉で思いつきここへ車を走らせたのだった。
注文した品が来るのにあまり時間はかからなかった。白と黒で色分けされた服を着たウエィトレスが一也にはコーヒー、綾乃の前には赤い苺のショートケーキが運ばれてきた。
「ごゆっくりどうぞ」
笑顔でそう言ってウエィトレスは軽く頭を下げた。その一言を聞いて、綾乃が一也のほうに顔を向けたままお礼の言葉を言う。
「ありがとうございます」
いま時、食事を運んできてもらっただけでウエィトレスにお礼を述べる者など皆無に等しい。案の定、相手は少し驚いたような表情で顔を上げて綾乃を見つめた。
その様子を見ていた一也は面倒なことになりそうだと思いながらも黙ってその様子を見ていた。
「あのぉ、失礼ですが目が悪いんですか?」
妙に間の抜けた声でウエィトレスは尋ねてきた。
見ればわかるだろ。
一也はそう言いたくなった。閉じたままの瞳、手を引かれて店内に入った様子、それらを見ていながらなんて場違いな質問をするんだと。
「はい、そうなんです。あ、でも気を使わないで下さい・・・・・、慣れてますから」
「そう、なんですか・・・」
そう言ってウエィトレスは頭を下げると、別のテーブルへと歩いていった。
「腹が立たないのか?」
「え?」
「さっきの女の言った一言だ」
一也はコーヒーを口に運びながら言った。
「盲目なのかと言われたことですか?」
「ああ、そうだ。腹が立つだろ?『そんなこと聞かないでよ』って・・・。ほっといて欲しいとか思うだろ普通」
思ったままのことを一也は言葉にしてみた。その言葉に対して綾乃がどのような反応をするか興味もあったからである。
「別に、なんとも思いません」
「本当か?」
「はい。気になりません。確かに、私は目が見えません。そのことですごく苦労したことなんてそれこそ数え切れないほどありました。
でも、この盲目の瞳だって私の一部です。私はこの目を、盲目になったことを受け入れてます。他の人より劣っているだなんて、思ったこともありません。だから・・・・気になりません」
「詭弁だな」
一也は綾乃の答えにそう言って一蹴した。
「・・・・そうかも、しれませんね」
「そうだろ?お前の言ってることただの強がりだ。弱い自分を正当化してるだけだ」
一也は静かにそう言って続けた。
「そんなの逃げてるだけだ。弱いから、自分に力がないから逃げているだけなんだよ」
言い終えて一也は綾乃から視線を外した。見ていられなかった。今こうして苛立っている自分に嫌気がさしてくるほどだった。
「さっさと食べろ。もう少しで移動する」
「はい」
そう言われて、綾乃は目の前においてあるケーキを食べ始めた。初めのうちは皿と手元のフォークを探すのに手間取っていたがすぐにその違和感はなくなった。
「とっても美味しいです」
綾乃が微笑みながらそう言った。
芳江は手が震えて止まらなかった。自分は今、夢の世界にいるのではないかと頬を抓ったが痛みはある。その痛みが芳江の震えをまた一段高くした。
三つ先のテーブルにいる綾乃が座ってケーキを上手に食べているのが見えた。
「こんなところで見つけるなんて・・・・」
この店に芳江が来たのは綾乃たちが来た時間よりも早く、数分前のことである。
今日は捜索範囲を広げようと、電車を乗り継ぎ屋敷のある街からここの駅へと降り立った。二人で捜索活動をすること数時間、休憩と軽い昼食を兼ねてこの洋菓子専門店へと足を運んだのであった。
一緒に来た真二は今さっきトイレに行って席を外した。一人になった芳江はため息と共に店内を見回した。綾乃を探し始めて三日が経とうとしていたが手掛かりと言えるものは何一つ得られていなかったのだ。
落ち込んでいた芳江の耳に店員の声が届いた。反射的にそちらの方へ視線を移す。
その視線の先で綾乃が見知らぬ男に手を引かれながら席へと歩いているのを見て、思わず声が出そうになった。
芳江は注文したアイスコーヒーを飲みながら動揺する心を落ち着かせた。
しばらくして、真二がトイレから戻ってきた。
「すいません。あまりの寒さに腹壊しちゃったみたいで」
腹を撫でて歩きながらそう言うのを、芳江が口の前を指で押さえて『静かにして』と伝える。まだわからないのか、真二が芳江の隣まで歩み寄り事情を訊く。
「どうしたんですか?」その声のボリュームは囁く程度に落ちていた。
「静かにしてよ!」
もちろん芳江も囁く程度の大きさ、つまり芳江と真二は『ヒソヒソ話』状態で話している。
「いい、落ち着いて聞くのよ」
「はい。・・・って、早く言ってくださいよ」
「お嬢様がそこにいるわ」
芳江は声をさらに小さくして言った。
「ほ、ほんとですか?」
真二もさらに声を小さくして聞き返す。声が震えていた。
「本当よ。私たちから三つ先のテーブル、その奥の席で男と一緒にケーキを食べてるわ」
その言葉に肯き、真二は自分の席に付くとそっと後ろを覗いた。
視線の先にいた綾乃はケーキを食べ終えてフォークを置くところだった。ケーキを全て食べ終えたその満足そうな笑みを浮かべた表情を見て、真二はほっと息を吐き出した。
「お嬢様、無事だったんですね!」
小さく押し殺した声で真二は言った。その言葉からは嬉しさと安心が感じ取れた。
「ええ、大丈夫よ。見る限りケガもしてないし、安心したわ。でも・・・・、向かいに座ってる男、顔は見えなかったけどあの人がお嬢様をさらったのかしら?」
「そうに決まってるじゃないですか!」
「でも、普通さらった人間と一緒に外出るなんてこと、すると思う?」
「それは・・・」
芳江の疑問に答えられず、真二は言葉を詰まらせた。
「でも、現にこうしてお嬢様と一緒に居るじゃないですか。それが何よりの証拠ですよ」
「それはそうだけどねぇ」
「きっとひどい拷問とかされてるんですよ・・・・」
真二は離れたテーブルに座っている綾乃のほうを見て囁く。
「見たところ怪我してるようには見えないけどねぇ」
「俺、二人の後を追かけてみます」
「ダメよ!真二君まで捕まっちゃうかもしれないじゃない」
「それでも行きます」
芳江の説得にも真二は首を横に振って聞かなかった。
「吉田さんは警察に連絡してください。場所は僕がケイタイで知らせますから」
「危険すぎるわ!」
「ここであきらめてどうするんですか!僕は大丈夫です。必ずお嬢様を連れ戻しますから」
真二は芳江を見つめそう言った。その目には強い決意の火が灯っていた。
一也は店内を見回し、警戒の視線を配った。離れているとはいえ、この中に一也を狙っている人物がいないとは限らないからである。
見回してみて、目に留まったのは一組。三つはなれた席に座る若い男と少し年配の女。何度も視線をこちらに向けては離し、間を置いて再び向けているのがわかった。
それを見て一也は気を張ったが、すぐにその二人が素人であることに気が付いた。盲目である綾乃を面白半分で見ているのだろうと思い緊張を解いた。
一也は視線を目の前にいる綾乃に戻した。ケーキを食べ終え黙って座っている。
手に持ったカップの残り少ないコーヒーを一気に飲み干し、一也は一息ついた。
店内に流れるゆったりとしたクラシック。
各テーブルに置かれた優しい色の花。
そのテーブルを囲むカップルや家族。
時折耳に届く明るい笑い声。
何度も外から見たこの空間。入ることなど、触れることなどないと思っていた光の中に、今一也はいる。
しかし、一也は自分がこの場にいることが苦痛に感じ始めていた。心から落ち着こうとしている自分に気が付いたからだ。
「もう出るぞ」
短くそう言うと返事を待たずに綾乃の手を引いて会計を済まして外に出た。
冷たい風が再び身体を包んだ。
「風が冷たいですね」
後ろで綾乃が言った。一也は、
「俺にはこっちのほうがいい」
小声で呟き、歩き出した。
ふと自分が綾乃の手を無意識のうちに握っていることに気が付いた。
柔らかな、小さな手。
意識していたわけではないが、今まで異性と手をつなぐ事などなかった一也にとってそれは初めて感じるものだった。車のドアを開けようと手を離す。
「あの・・・・」
綾乃の小さな声が一也の動きを止めた。
「少し、歩きませんか?」
その言葉に一也は少し考える。
「ダメですか?」
「いいだろう。歩くぞ」
あらゆる状況を想定して移動は車と決めていた一也だったが、断ってあとで文句が出るのを考えると嫌だった。そして、一也自身も冷たい風に当たって店内での気分を一掃したかった。しばらく、二人は無言で歩いた。ここでも一也が綾乃の手を引くことになった。街中を目的もなく歩いて周り、公園でベンチを見つければそこに腰を下ろし休憩し、特別何を話す訳ではなく二人はただ一緒に時間を過ごし、駐車してある場所に戻ってきた。
一也は車のドアを開ける前に洋菓子店の時と同じように辺りを見回した。
誰か見られてる・・・・・。
どこかで誰かが見ている。一也は確実にその視線を感じていた。
とにかくこの場から離れる。
一也はそう思って綾乃を車に乗せようと助手席のドアに手をかけた。綾乃の手を引きながらも警戒の目は休むことなく動き続けた。
視線は今も感じていた。そしてそこから放たれている殺意も一也は感じることができた。
辺りをもう一度見回した。これで三度目、しかしそれらしき人物はどこにも見当たらない。
一也は舌打ちした。山波組の連中ならばこう上手く隠れられるわけがない。相手をプロだと予想した。ならばとばかりに、一也は自分を相手の立場に置き換えた。同職者の自分ならどこにいるかと。
平日の昼過ぎ。人ごみは激しく、標的はプロ。
一也は視線を高く上げた。大通りを挟んで向かいに建っているビルの屋上に目を凝らし、その視線を止めた。車の陰に隠れてじっと様子を伺う。一瞬、小さな光が一也の目に飛び込んできた。それと同時に車の屋根に二回強い衝撃が叩きつけてきた。銃声だった。
「きゃっ!」
その衝撃音に綾乃は短い悲鳴を上げてその場に蹲った。
「中に入ってろ!」
一也はそう言って綾乃を車内に押し込んだ。一也の車は防弾仕様に強化されているのだ。
先ほどの衝撃音で辺りの人々も軽いパニック状態になっている。一也はその場から逃げ走る人をうまくすり抜けながら向かいのビルへと急いだ。
先ほどの狙撃で一也は相手がプロであることを確信し、それが誰なのかもわかった。
金子雄介。
「真昼間から仕掛けてくるとは噂通りイカれた奴だ」
一也は呟き、そして怒りを覚えた。
金子がリボルバー式の銃を使っていることから遠距離の狙撃よりも近距離のほうが得意なのは一也には明白だった。狙撃を得意とするならば、太陽と向き合うような位置取りはしない。望遠レンズに光が反射して居場所が相手にバレるからである。
なめられている。――一也はそう思うと金子への怒りが湧き上がった。
ビルに入った一也は一目散にエレベーターで最上階まで上がりそこから非常階段を駆け上った。軽く息が切れる。屋上へと続く扉が見えたところで足音が聞こえないよう歩き、銃を取り出した。扉の前に来て深い深呼吸をして息を整える。
扉を蹴り開け、素早く銃口を外へと向ける。屋上は縦長で端にある入り口からほとんどの場所が一望できた。通り沿いを一望できるであろう位置には一枚の毛布が敷かれており、狙撃用のライフルもそこに置かれていた。しかし、そこに人の姿はなかった。
どこにいる?一也は銃を構えたまま慎重に動き出した。
ライフルが置かれた場所まで歩き、置かれたままのライフルなどに目を落とした。
銃を置いたまま逃げたのか?それにしては・・・・・。
一也は辺りを見回し、そしてもう一度そこに残されたままのライフルなどに目を移した。毛布、ライフル以外に置いてあるものといえばライフルを入れてきたと思われる大きなトランクがひとつだけだった。標的の姿はどこにもない。
そのトランクを見た一也は、一気に入り口に向かって走り出した。
扉が開け放たれたままの入り口に飛び込むと同時に、一也の背中を強い衝撃が押し付け爆音が轟いた。トランクが爆発したのだ。黒煙が上がり青い空を濁した。
「よく見破ったね」
入り口で蹲る一也を見上げるように、階下へと続く階段の踊り場で金子雄介は立っていた。その手には銀色に光るリボルバーが握られている。
「くそ野郎が・・・・」
「うひゃひゃ、そう怒らないでよ。それとも昼間から花火っていうのが気に入らなかったのかな?」ニヤニヤと笑いながら金子が楽しげに言った。
「狙撃はフェイク、本当の狙いは俺をここまで誘き寄せて仕掛けた爆弾で始末する。それと同時に爆発で証拠となる物は全て木っ端微塵になり消えてなくなる」
「よくわかってるじゃないか」
「随分と手の込んだやり方だな。噂と違うな。得意な方法じゃないし、お前の好きなやり方じゃないはずだ。それとも、そんなに俺を殺したいのか?」
「別におかしな事じゃないだろ」
楽しそうに言う金子を、何も言わずに一也は見据えていた。
「この世界でトップやってれば当然のこと、自然と恨みを買っちまう。もちろん僕も君に恨みがある一人だよ。仕事が減れば僕の楽しみも減ってしまうからね。僕はね、僕から仕事を取っていく君が邪魔で仕方ない。それに・・・」
「それに?」
「君も相当な数の殺しをしてるみたいだし、一度やり合ってみたかったんだ」
「俺は顔も見たくなかったがね」
「言うじゃないか。うひゃ、うひゃひゃ」
「・・・薬か?」
突然笑い出した金子に一也が言った。気味の悪い笑い声が非常階段の縦長の空間に反響する。
「いやだなぁ、薬じゃないよ。楽しくってさ、君みたいな一流の人間と殺し合えるんだ。こんなに楽しいことはない」
嬉しそうに顔を歪めて金子は言った。
「イカれてるな」
一也がそう言うと、金子の笑い声はさらに大きくなった。
その笑い声に一也の怒りはさらに大きくなった。
「うひゃ、うひゃひゃひゃひゃ・・・・・」
頭を抑え、肩を震わせ笑うその様は異常と呼ぶには十分だった。次第に収まってくその声の中、一也はひとつの質問を金子に投げかけた。
「誰から頼まれた?」
その質問に金子の笑い声はピタリと止んだ。
「誰からの依頼だ、と聞いているんだ」
「おいおいおい、そんなこと聞くなよ。君だってこの世界の人間じゃん。この世界でトップやってるんでしょ?なんでそんなこと聞いちゃうわけ?」
金子は先ほどとは一変して、怪訝な表情で金髪の長い髪を掻きながら言った。口調もまるで別人のようだった。
「もういいよ。あんたバカ過ぎ。死ねよ」
一也は手に持った銃を強く握り締めた。『殺してやろうか?』と一也は思った。馬鹿にされたことよりも金子の笑い方に腹が立っていた。今すぐ頭を撃ち抜きたい衝動に襲われたが、それを抑えてもう一度同じ質問を繰り返す。
「俺を殺すように依頼したのは誰だ?」
「うひゃ、うひゃひゃ」
再び笑い出す金子。
「答えろ」
手に持った銃を金子に向けた。それを見た金子は笑いながら、
「やってみろよ」
と、手に持ったリボルバーを一也に向けた。
「少し経てばマッポが来るぜ。それでもいいの――」
「お前を殺すのにそんなに時間はかからない」
金子の言葉を遮り、一也は冷たい、それでいて強い口調で言い放った。
「上等だよ」
二人の緊張が一気に高まっていく。お互い銃口を向け合ったまま動かい。
金子の笑い声も止まり、その場を静寂が支配した。
屋上へと続く入り口から爆発によって生まれた黒い煙が風に流され、一也の背後から流れ込んできた。
視界が狭まる。
しかし、一也は動かない。動けばそれがそのまま隙となってしまう。金子はそれを見逃さない。黒煙は止まることなく流れ込み、やがて一也の視界を完璧に遮断した。
静寂。
一也の耳に音が届く。
煙の向こうで金子が動いた。
瞬時に引き金を引き、それと同時に金子の立っている踊り場へと飛び込んだ。
発砲音が鳴り響く。
視界がないので着地に失敗した一也の身体に痛みが走る。
煙から飛び出すと同時に二発、金子のリボルバーの発砲音と入り混じり鳴り響く。煙から開放されさらに下の階段を見る。
そこに金子の姿はなかった。
それでも一也は緊張状態を崩さい。
「・・・・逃げたか」
数分後、銃を降ろして緊張を解いた。
金子の姿はすでになく、一也だけが黒煙の漂うその場に立っていた。
春日崎低の襲撃に続き、今回の狙撃。
二度にわたって受けた突然の襲撃。一也はその都度、金子に翻弄されては仕留めること出来ずに取り逃がしたのだ。
鋭い痛みが肩から伝わった。先ほどの着地に失敗したときに痛めたようだ。その痛みが自分自身を戒める。
俺は弱くなっている・・・・。
その漠然とした想いが、一也の心に深く突き刺さった。
次回更新は6月17日です。