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God Games†  作者: R1C2
1章 幼き剣士
18/22

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暇だ。

どうしても暇だ。

フォーダットからはここに移住する為の準備を申し付けられた。荷物のまとめだ。しかし、寮に戻って荷物をとりに行ったわけでもないし、そもそも荷物なんてものはこの身以外にはろくに持ち合わせていない。だからもうどうしようもなく暇だった。騎士団に今から顔を出す気にならないのだからもうすることがない。


また、騎士団員の時に使っていた寮にいた時のような気分になった。壁紙のない白い壁に、家具もベッドしかない居住空間は虚しい気分にさせる。

貴族や要人などの下手に扱えない立場の囚人を入れる牢獄のようだ。


エリオットはベッドの上で剣を握り締め、蹲った。

すると空っぽな自室の外から群集の騒ぐ声が微かに聞こえてきた。

気になり、剣を腰ベルトに差し直すと部屋のドアを押し上げ外を窺った。部屋が面している廊下を人の波がホールの方に向けて激しく流れていた。

ちょうど其処にカイユラが通りかかり、エリオットはその腕を引いた。


「何事だ?」

「奇襲だよ。騎士団からのな。まったく、おめえさんの所為じゃねえのか?」


それだけ言うと、カイユラは波の方向に従って走っていった。


意外だ。騎士団が。僕一人の為だけに動くとは。団長がそんなにメリットの少ない行動をするとは思えないのに。

エリオットも慌ててカイユラの後を追った。


ホールに着くともう人で溢れ返っていた。いつもは大きく口を開いている門扉も硬く閉ざされ、詰め寄せたギルド員たちはそろって手に何かしらの武器を持ち、その門を見つめていた。

緊迫した空気が流れる。

ホールの正面に備え付けられた大きな時計がぼーんぼーんと鐘を鳴らす。

それを合図にしたかのように扉の向こうから巨人が叩くような破壊音が聞こえてきた。


エリオットはホールを見回した。

苦もなくフォーダットは見つかった。あの目立つ容貌で扉の正面先頭に立っていた。

首領を横に連れ、無表情に扉を見つめている。エリオットと戦ったときと同じように杖を地面につけたまま構えてはいない。

エリオットはそのフォーダットの横に付いた。


「エリオット、来たのですか。目標はあなたなのでしょうから、隠れていればいいのに」

「そんな臆病者みたいに無様な姿を見せられるか」


フォーダットは扉に目線を向けたまま小さく笑って頷いた。

断続的に外の破壊音が響く。


「来ますよ」

フォーダットが呟くと、特大の破壊音が鳴り響いた。


「副長が此処にお世話になっていると訊いた。返して貰おうか」

ホールの大門をぶち破り、騎士団の軍を引き連れ入ってきたのは想像通り、団長だった。

なんとも言えない複雑な表情を顔に貼り付けて、一直線にフォーダットを見つめた。


本当に。あの団長がわざわざこんなところに赴くなんて。

しかし団長はエリオットのことなど気がついていないようだった。


「警備隊、連れ出しなさい」

フォーダットは団長の顔も見ずに、今までの穏やかな笑みから一変、絶対零度の声を発した。

「フォーダット!」


呼び捨て。そのことにエリオットは少なからず驚いた。

団長が誰かを呼び捨てにするのは珍しい。余程親しい仲なのか。

団長のプライベートを詮索する気はないが、あまり本音を見せない団長の素顔というのは少し気になるところではある。


「警備隊」

フォーダットは繰り返した。

脇から出てきた警備隊は団長を取り押さえようとするが、団長はそれを振り払い、フォーダットの鼻先まできた。


「此方を見ろ」

フォーダットは何の表情も表さず、団長を一瞥した。

「あの時のことを許してくれとは言わん。話をして欲しい」

「貴方と話すことなど何もない!」

団長はその口調に目を見開いた。


「…失礼。お引き取り下さいませんか」

「フォーダット!」

「リュー…わかって下さい」


リュー。コシュリューか。団長の本名はコシュリュー・アルフレッド。

本名で呼ばれることを嫌い、誰に対しても、基本団長と呼ばせる人が、何故一介のギルド員が愛称で呼ぶ?

やはり親しい仲なのであろう。若しくは親しかった、か。

エリオットは後者だろうと思った。

団長は兎も角、フォーダットのよそよそしさはとてもじゃないが親しげなそれではない。


「フォーダット。私は団長になったんだぞ。フォーダット!」

目の前であの団長が、いつでも冷静な団長が肩を上下させて、フォーダットに詰め寄っている。

回りも、状況も見えていない。

それだけで十分奇異にな光景だ。しかし、奇異なのはそれだけではないとフォーダットの顔を見れば瞭然だった。


「だから、なんだと?私が、たかだか団長になったという貴方の相手をしなければならないという理由はどこにあるんです?」

そう辛辣に言い放ったフォーダットにはいつもの温和な雰囲気は微塵もなく、ただ地を這う虫螻を見るような目で団長を射た。


「お前が…」

「まさかとは思いますが、あの時交わした約束がまだ有効だとでも?自惚れも甚だしい」

何か言おうとした言葉さえ遮られ、団長の心の内が抉られていく。


「冗談でも、考えて言うんですね。私は、貴方を許しませんよ。貴方が本当に罪を理解し、償おうとするまでは」

それでも団長は口を開こうとする。だが、フォーダットはまた少し眼光を強め、それを許さない。


「勘違いしているようだから言っておきます。貴方は、私が貴方を突き放した時以上に落ちぶれています。私は、ただ貴方が私を裏切ったからというだけで邪険にしているわけではありません。もっと分かり易く言いましょうか」

フォーダットはそこで間をおき、真正面から団長をきつく睨みつけた。


「私はもう、貴方の存在自体が疎ましく思えるようになってしまったんですよ」


2人の間に何があったのかは分からないが、団長がフォーダットの信頼を裏切ったのは分かった。そして、それを見かねたフォーダットが団長のそばを離れたということも。しかし気になるのは団長の執着だ。女の未練じみたものがある。

2人の間には、未だ緊迫した空気が流れている。というより、フォーダットのほうから一方的に険悪な空気が。


「対話を。『白刃の輪廻』元帥フォーダット・ジェクシア」


団長の言葉は最早懇願だった。常に貫いていた団長としての格調高い凛とした姿はそこにはなかった。仕事に疲れきったただ一人の男でしかない。


沈黙が落ちる。

しんとしたホールはいつもよりずっと寒く感じた。足をやわらかく包むカーペットが硬く感じる。


「フォーダットさん。此処は皆のギルドです。皆の居場所です。でも今、貴方に預けます!!」

誰かが、ギルド員の輪の中から叫んだ。

「フォーダットさん、『白刃の輪廻』は貴方の物だ!!」

ギルド員たちは口々にフォーダットの名を叫んだ。

それはやがて喧騒となり、怒号と変わった。今にもはちきれそうに武器を鳴らしフォーダットを称え、雄たけびを上げる。

『白刃の輪廻』への愛を騎士団に怒鳴った。


嗚呼、これが『白刃の輪廻』というものか…。


「皆さん…!リュー、分かりますか。この感動が、この喜びが…!!自分の居場所よりも私の名誉を優先してくれる!これが、仲間です。これが、私の『白刃の輪廻』です!!」


団長は冷めた目でフォーダットを見た。軽蔑するように『白刃の輪廻』を見回す。

エリオットにはその鋭い顔つきが、今にも泣きそうに見えた。


「総員、砲撃用意」

騎士団はザッと音を立てて抜刀する。


「野郎共、俺達は一つ。俺達は!!終わらぬ争いの輪廻を断ち切る!!お高く纏まったお坊ちゃん共の目に物を見せてやれ!!」

首領が叫ぶ。

「応!!!」

それに応じたギルド員たちは一斉に武器を掲げた。


「伐て」

何処までも冷やかな団長の声が響いた。


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