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God Games†  作者: R1C2
1章 幼き剣士
11/22

11

 

 眩しさに目が覚めた。

昨日は首領と話し込んで、それから指定されたゲストルームで休んだ。

閉じたはずのカーテンが開いている。備え付けられた柱時計を見れば、まだ朝5時を過ぎたばかりだ。重役出勤に慣れた身体はまだ重い。

エリオットは引き寄せられるようにして窓に近づき、それをあけた。昨晩の嵐の影響で空気は湿っているが、コンクリートに残された水溜りが朝日に光ってキラキラと輝いた。

部屋の周りはまだ静かだが、少し離れた場所で人が既に活動している気配がある。

身体を弓形に反らして身体を伸ばし、無理矢理起こす。


カーテンはいつの間に開けられたんだろう。鍵もかかっているし、開けて入って来られれば気付かない筈がないんだが。


すると鼻に違和感を感じて手で軽く擦る。微かに甘い匂いが鼻を突いた。恐らくは、睡眠薬。

わざわざ盛らなくても逃げやしないのだが、どうやら信用はないらしい。


エリオットはテーブルに置いてあった着替えのシャツに袖を通した。上質のシルクだと質感で分かる。こうやって厚い待遇を受ければ受ける程、エリオットの中で靄がかかった。

昨日から思っていたが、このギルド、やけにリッチだ。今まで見てきたギルドなんて、居酒屋紛いの掘っ建て小屋が何でも屋よろしく依頼を受けているようなものだった。

これほどの設備を誇る大型ギルドならもっと所在地も公になっている筈だし、話題に上がる筈だ。エリオットは騎士団に所属しているからこそ名を知っていたが、きっと何もしていなければ知らなかっただろう。

何か裏があるか、強大なパトロンがいるか。


エリオットは思考を頭を振って払った。それと同時に段々と頭が冴えてくる。

集中しなければ。あと半日もすれば賭が始まる。

賭けの内容も昨日正式に決めた。正々堂々文字通り一対一の真剣勝負。真剣で戦い、一度でも身体を地面に付けた方が負け。

相手は、あのフォーダットだ。


エリオットは上着を引っ掛けてゲストルームを出た。

食堂の場所は昨夜首領に教わった。本当は部屋に運んでもらっても良かったのだが、ギルドの雰囲気は後学の為に味わっておきたい。

このギルドは特殊だ。

信用はならないが、利用価値はあるだろう。色々な可能性を試してみるのもいい。


そんなことを思いながら、エリオットはまたあの無駄に豪勢な廊下を通った。


エリオットは教えられた食堂に着いた。

此処は他と変わらなかった。木材を繋ぎ合わせたようなテーブルが幾つも並んでいる。

違うのは規模位だ。


「来たか餓鬼んちょ!」

「噂のエリオットか!!」

「なんだぁ?まだひよっこじゃねぇか!」

「言うな言うな!!可哀想だろう!」


一歩其処に踏み入れただけですぐに複数に絡まれた。

そいつらの座っている席を見ると既に酒瓶とつまみが並んでいる。

言っていることは悪いが、口調が嫌味ではない。ガハハハと豪快に笑う姿がただ楽しんでいるだけだということを物語っていた。


「酒臭いな。朝っぱらから煽っているのか?」

「堅いこと言いなさんな!俺ゃカイユラだ。よろしくな。直ぐにお前も同じ坑の狢になるんだから、堅いこと言うと嫌われるぜ」


エリオットが一番がたいの良い男に向かって顔をしかめれば、当のカイユラはまた豪快に笑った。

すると、奥から別の男が出てきてエリオットの前に阻む。その男は一見小奇麗な顔をしているが、どこか不真面目な装いをしている。


「おぅ、カイユラ!!随分な別嬪さん連れてんじゃねぇか!!」

「ダメだぜ、キキュタ!俺が先にみっけたんだ。今日は俺んとこの班で面倒見るぜ」

「ちぇ、カイユラ!!新人いびりすんなよ!」

「しねぇよ、バーカ!!」


会話を聞いて、ふと後から来た男の口調がどことなくディドリーに似ていると感じた。ニヤリと笑いながら喋るあたりが特に。

それから、あまり人に気を使わないようなところなんて、そっくりだ。


「僕はまだ、賭けに負けた訳じゃないんだが」

 さっきから聞いていれば、もうすぐ同じ穴の狢だの、新人だのと。同じギルド内の人間がエリオットの話を聞いていてもおかしくはないが、認識が既に新入りと認定されていることは心外だ。


「あぁ、その話な。お前可哀想だな。端っから勝算のない賭けさせられて」

 そう言いながらカイユラはビールの入ったジョッキを押し付けてくる。

「勝算がない、だと?」

眉間に皺を寄せて聞くと、とりあえず座れと空いている席に引き込まれた。

渡されたジョッキを冗談じゃないと押しのけ、隣にいた腰くらいまでしかない小さな男にそのまま渡すと男は喜んで受け取った。


「ああ、そう怒りなさんな。だが、そうだぜ。フォーダットさんが相手すんだろ?そりゃあ、無理ってもんだ」

そう断言するカイユラにエリオットは首をかしげる。

「何故だ?」

「何故ってなあ?」

カイユラが隣の男に聞けば、男も愛想良くうんうんと頷いてみせた。


「なんだ。言えないか?」

「いや、根拠があるわけじゃねぇんだ。だけどよ。フォーダットさんが負けるところなんざ想像できねえもんなあ?」

小柄な男はまたうんうんと頷いた。


「まさか、戦ったところを見たこともないなんて言うんじゃないだろうな?」

「あるさ。ある、けど…」

カイユラは一瞬口ごもった。それから何かを思い出すように遠くを見つめ、一度深く頷いた。それから自分のジョッキからビールを一気に飲み干し、またうんと頷いた。

「あれはきっと魔法だな。此処に迷い込んだモンスターが、一瞬にして、パッ…」


男達は揃って手の中の鳥を放つかのように、手をふわっと開いた。


「消えたのか?」

「ああ、フォーダットさんが何かしたのは分かったんだがなぁ…その何かが分からん。兎に角だ。あの人と戦うならそれ相応の覚悟が必要だぜ」


カイユラの周りで男達が神妙な顔をしてエリオットにそうだぞ、と声をかける。

ディドリーといい、こいつらやドンいい、それに団長までも、あのフォーダットとやらに絶大なる期待というか、傾倒というか。それがどこまで事実だかは知らないが、フォーダットにはやはり何かあるんだろう。ここまで人を惹きつける、何かが。

とにかく、それも今日には分かるはずなのだ。剣を合わせれば、その何かが。


「で?お前、何で騎士団なんかにいたんだ?」

カイユラは唐突に、なんでもないことを装ってそんなことを聞く。

その探るような口調にお前らには関係ないだろうとエリオットはだんまりを決め込んだ。


「いいけどよ。ここは訳ありばっかりだしな」

カイユラは誤魔化すように言った。

「まぁ、なんだ。辛気臭い話は止めにして、楽しくやろうぜ」

カイユラは一人でそう言って、今度は新しい紅茶の入ったカップをエリオットに渡した。そして自分のジョッキをエリオットのにチン、と軽く当てた。


それからはほとんどずっとエリオットは蚊帳の外で、カイユラは仲間の男達と豪快に酒を煽っていた。エリオットは渡された紅茶をちびちびやりながら、少しでもこのギルドの情報を集めようと折々交わされる会話に耳を傾けていた。

なにやらギルド内での行事らしい剣技大会の話から、どこどこのギルドが『白刃の輪廻』に吹っかけてきた闘争の話に当人の武勇伝まで様々な話が出てきたが、あまりエリオットの役に立ちそうな話は聞くことが出来なかった。

まだ、こいつらが自分を完璧に信用しているわけではない、という所か。まあ、それはお互い様でもあることだが。


「僕はそろそろ失礼する」

エリオットは席を立つと、男達はそろって驚いたようにこちらに眼を向けた。


「もう、か?」

「…そうだ。訓練場はどこだ?」

「こんな時間から鍛練か?だが、使うなら監督が必要だぜ」

「賭けは訓練場でやると聞いたからな。…しかし、監督か」

「ああ、俺がやってもいいぜ。今日はろくな仕事がねぇんだ」

カイユラが申し出る。ありがたいことではあるが、いまいちこの男の親切心がまっさらでない気がしてならない。


「なら、練習相手は俺がやってやる。一人より、練習相手がいたほうがいいだろう?」

そう言ってでてきたのはここの入り口で会ったキキュタという男だった。どこで話を聞いていたんだか、ニヤニヤ笑いを称えながらエリオットの肩をポンと叩く。

エリオットは失礼にならない程度にその手を肩から退け、正面からキキュタを見た。


腹の見えない男だ。自分に何の利益のない申し出をする理由が分からない。

しかし、キキュタを見るに何か思うところはあるのだろう。あまり好く相手ではないが面白い。

このギルドの実力を見る機会にもなる。


「その言葉、甘えさせてもらっても良いだろうか」

「おうとも!!」


そう言ったキキュタは何故か本当に嬉しそうだった。

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