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スタートします。
まず捨て駒のお話ww
パンっと、乾いた銃声がした。
約五十年前、ローン・グレイという軍事連盟と騎士連合のフレーメル騎士団が東西に別れ、互いに主張を違えて衝突した。リシェール王国最大の内乱である。それからというもの国内で何度となく戦火が上がっている。この五十年の間に国一つ位余裕で作れるほどの犠牲者を生んできた。今度も何万といる兵士を引き連れて、連合側の大都市のど真ん中で衝突した。都市はもう壊滅寸前だった。王国のシンボルであった大きな時計塔も、見るも無残な姿になり、その面影はなくなり、ただ高いだけの塔になった。
バースはローン・グレイ軍で少佐の地位にいる兵士だった。バースはそこで小隊の指揮を執っていた。彼は頼りにされていた。騎士団とっても脅威だったと自負することが出来る。
そんな戦争の続くある夜のこと。バースの隊は次の攻撃に控えるため、都市にあった廃墟に身を潜めていた。バースは窓の外にちらちらと見える紅い火をみながら、階段に座っていた。足元では部下が気を紛らわせようと音を立てずに酒を引っ掛けている。
この大事なときに酒なんて、とも思うが、酒でも引っ掛けなければやっていられないというのも分かる。
だからバースはあえて注意はしなかった。
そんな時、まだ若い部下の一人が酔った勢いでフラフラとバースの隣に座った。彼はバースに酒瓶を突き出して勧めたが、バースはそれを押し戻した。
「あんたもいい気なもんだよなぁ」
いつもは大人しい彼が大声で言った。呂律も回っておらず、目が据わっている。彼の同期の仲間が恐々こちらを向いた。
バースは、酔った勢いで言ったのを相手するほど判別がないわけではないと思い、少し頭にきながらも押し黙り、素面で言ってみろというものだ、と心の中でつぶやいた。
「あんたさぁ。今の状況をかえようとか、思ったことある?俺は!戦争ばっかりしている、この世界が嫌で、変えるために軍にはいったわけ!少しくらい妥協してさあ!騎士団と手を組んで、仲良くやろうとか思わないの?」
バースもこれには驚いた。
自分にここまではっきりと意見する部下というのは珍しかったからだ。
「あんただったら少しくらい上に顔きくんだろ。少しぐらいあんたの力で何かを変えて見せろよ」
自分の立場もわきまえず、バースに食って掛かる様子を見て、彼の仲間は必死で謝り、彼を階段から引きずり落とそうとした。しかし、彼はそんな仲間を振り払い、バースに掴み掛かった。バースの顔に酒臭い息が拭きかかる。
「あんたがいる場所ならそれが出来るだろ!なのに、あんたはいつも何もしない!人が死ぬのを見ているだけだ!」
馬鹿なことを。
「放したまえ」
「嫌だ」
彼のその声は駄々をこねる幼子のようだった。
バースはその幼子の頬を拳で殴った。
彼は階段を勢い良く下まで転げ落ちた。手に持っていた酒瓶がガシャンと喧しい音を立てて割れ、彼に血を流させた。
酔った勢いとはいえ味方である彼が騎士団との和解を提案したのだ。
そんなことが許されるはずも、騎士団側が受け入れるはずもない。
この馬鹿にはそのことを分からせねばならない。
バースは頭の堅い男だった。昔からの伝統と考えに捕らわれて、部下の言うことなど聞き入れようともしていなかったのだ。
「軍則の第一条を唱えよ」
バースは、自らの血溜まりの中で立ちすくむ彼に言った。
「我々ローン・グレイは・・・正義と秩序を守り、民に最善を尽くすために存在する」
彼は見下すようなバースの視線に一瞬睨み返したが、三段階に受けた痛みで我に返り、つい今生意気な口を利いた人とは思えないほど、おどおどと言った。
「よろしい。では君は、このことを踏まえた上で君の言う騎士団との和解が、本当に民のためになると思うのか。いいかね、奴等は騎士団とは名ばかりで、実際は何も守っちゃあいないのだ。君が世界を変えたいと思うのならば、戦うのだよ。騎士団なんぞ根絶やしにして、我々の手で世界を変えるのだ」
「はい・・・出過ぎたことを言いました。申し訳ありません」
「分かればいい。救護班、彼に手当てを」
この日、これ以上バースに話しかけようとする者はいなかった。
それはバースに同調したわけではなく、ただバースに対する権力的な恐怖からだった。
翌日、バースの隊は予定通り前線で戦っていた。最新のエネルギーであるシクターを駆使した兵器を手に前へ前へと進んでいく。
目の前で仲間が死んでいく。今時珍しい歩兵の群れに、フレーメル騎士団が容赦なく死を空から振りかける。突如の爆弾の襲撃に、目の前に土が舞う。廃墟の合間を縫って目的の場所へ進もうとするが、その廃墟もまた障害へと変わる。降りかかるガラス片に、爆薬。
しかし、視界が赤で染まっても、ローン・グレイの勝利のためには進み続けるしかないのだ。
「進め!」
バースは叫んだ。途端、バースの視界がグニャリと歪んだ。体が前のめりになる。足に力が入らない。
地面がバースを引っ張った。頭が重い。目を開けることさえ辛かった。
膝が地面についたとき、やっと自分の胸から血が流れていることに気がついた。体が鉛のように重く、地面に打ち付けられた。
寒い。
バースは最期の力を振り絞り、自分の胸に穴を開けた人物を見ようとした。
まず、しっかりと立てられて煙を上げる銃が目に入った。
その銃を持っていたのはバースの部下だった。前日酔って文句を言った、あの部下だったのだ。流れ弾ではなく、きちんとバースの背中に照準を合わせて撃たれた弾だった。
「あんたはいつも『進め』しかいわねぇ。仲間が死ぬのもお構いなしか。仲間も大切に出来ねぇ奴が、どうやって世界を変えるというんだ」
酔った時と同じ口調だった。そんな彼の周りに、ほかの隊員も横に一列並んだ。
そうか。私に付いてこられる者など居なかったのだ。
私の崇高な考えは、お前らには難しすぎたか。
バースはそう言おうとしたが口が開かない。
後少しで終わったかもしれないのに。あと少しでこの都市は征圧できたかもしれないのに。
バースは薄れていく意識の中でそう思った。
あんまり意味のない話からスタートしてしまいました。
いつになったら、主要キャラ揃うでしょうか(汗