ABC物語 9
放課後、教室にはまだ数人残っていた。
窓の外は少し暗くなり始めていて、
机の上には片付け忘れたプリントが散らばっている。
僕は席に座ったまま、
前の席に腰かけた友達の背中を見ていた。
「なあ」
振り返った友達が、
教室の奥のほうをちらっと見る。
「BとCが最初に話したときのこと、知りたい?」
急にそんなことを言われて、
僕は一瞬、言葉に詰まった。
「最初?」
「うん。
転校してきたばっかの頃のやつ」
僕は小さくうなずく。
あの二人が、最初から自然に一緒にいた気はしない。
でも、いつから並ぶようになったのかは、よく知らなかった。
「文化祭の委員会のときな」
友達は、
机の上の消しゴムを指で転がしながら話し始めた。
「Cが飾り作ってて、
Bは後ろで準備しててさ。
で、材料が床に落ちたんだ」
Cがしゃがみ、
Bがそれに気づく。
その場面が、
頭の中にぼんやり浮かぶ。
「B、拾って渡したんだけど、
二人とも何も言わなかった」
何も言わない時間。
気まずさとも違う、
ただの沈黙。
「そのとき、Cはさ、
Bにちょっと距離取ってた」
「距離?」
「避けられてるって思ったらしい」
友達の言葉に、
僕は教室の奥の席を見た。
Cはいつも落ち着いて見える。
そんなふうに誤解するタイプには見えないのに。
「でもな」
友達は、
そこで少し言葉を止めた。
「片付け終わったあと、
Bが急に変なこと言ったんだ」
「変なこと?」
「『これ、結構大変だね』って。
別に上手くもないし、
面白くもない」
たしかに、
Bらしい言い方だと思った。
「それ聞いて、
Cがちょっとだけ笑った」
ほんの一瞬の笑顔。
それだけで、
空気は変わる。
「そのあとから、
二人で作業してる時間、
少しずつ長くなってた」
長くなった、というのは、
たぶん、隣にいる時間のことだ。
【メモ:
拾う
沈黙
変な一言
少し笑う
並ぶ時間が伸びる




