ABC物語 7
三人で話す時間は、確かに増えた。
それはBのおかげだった。
昼休みになると、
Bは自然な顔で二人に声をかける。
「一緒に行こ」
その言い方は軽い。
無理しているようには見えない。
でも、タイミングだけは不自然なくらい正確だった。
AとCが二人きりになりそうな瞬間。
会話が自然に続きそうな流れ。
そういう“間”を、Bはよく見ている。
そして、そのたびに、
三人になる。
Aは断らない。
むしろ少し安心したような顔をする。
Cも、特に嫌そうにはしない。
だから、表から見ると、
三人はうまくいっている。
【メモ:
Bは“三人の形”を作ろうとしている
たぶん、意識的】
でも、
うまくいっているように見えるのに、
三人の会話には、少しだけ段差がある。
話題を出すのは、だいたいB。
それにAとCが乗る形になる。
AとCの間には、
二人だけで自然に続く流れがあって、
そこにBが“橋”をかけているように見えた。
橋は、ちゃんと機能している。
でも、橋があるという事は川があるからで…
昼休み、
三人で歩いているとき。
AとCが並び、
Bは半歩後ろになることがあった。
Bはすぐに歩幅を合わせて、
三人が横に並ぶ形に戻す。
【メモ:並び方まで、Bは気にしている】
それは、優しさにも見える。
でも、
“形”を保とうとしている感じもした。
その週の終わり、
先生が言った。
「来週、席替えをします」
教室の空気が少し動いた。
誰が誰の隣になるか。
それだけのことで、
人の関係は、簡単に揺れる。
次の日、
くじ引きで席が決まった。
Aは、教室の中央。
Cは、窓際の前の方。
Bは、廊下側の後ろ。
三人は、
同じ“固まり”から、ばらけた。
偶然だ。
ただの席替えだ。
でも、
三人が同時に、
ほんの一瞬だけ黙ったのを、
僕は見た。
休み時間。
Bは、すぐにAのところへ行った。
前より少し遠い席なのに、
迷わず歩く。
Cのほうにも、
ちゃんと声をかける。
「あとで三人で話そう」
言い方は、いつも通り軽い。
でも、
言葉の端に、
少しだけ“急いでる感じ”が混じっていた。
Aは、
「うん」と答えたあと、
自分の新しい席を一度見た。
Cは、
「いいよ」と言って、
机の上の本を閉じた。
三人は、
前と同じように集まった。
でも、
前と同じ場所ではない。
【メモ:
席が変わると、
“集まる”には意志が必要になる】
その日から、
三人でいる時間は、
少しだけ“作られた時間”になった。
前は、
隣にいるから自然に話していた。
今は、
誰かが動かないと、
三人は揃わない。
Bは、
その“誰か”になっている。




