ABC物語. 18
時間は、静かに、過ぎていった。
教室では、三人が並んで座っている。
声はある。笑い声もある。
でも、どこか軽く、空気に溶けていくような音。
Bは、いつも通り笑っている。
でも、机の端を指でなぞる動きに、
少し力が入っていないことに気づく。
Aは、窓の外を眺めることが多くなった。
目線は動いているけれど、
心は少し遠くにあるようだった。
Cは、ノートを広げて、ページに目を落としている。
笑顔は作るけれど、
その先には、
明日待つ別れのことが、
静かに影を落としている。
誰も言わない。
何も言わない。
明日、Cは転校する。
それだけのことを
でも、
その事実は、
目に見えないけれど、
確かに三人の間の空気を変えている。
音はない。
会話もあるけれど、
空気に溶けて、
届かないように消えていく。
笑い声の合間に、
微かに漂う虚しさ。
誰もその存在に触れず、
ただ流れていく。
僕の席から見えるのは、
表面上のいつも通りの三人と、
その下で静かに広がる、
音のない別れの予感。
明日、
Cはここにいない。
でも、今日のこの教室では、
まだ三人でいる。
声も笑いも、
音もなく、虚しさだけが少しだけ濃くなったまま。
放課後になった。
教室の空気は、いつもより少しだけ重い。
でも、声に出して表れるわけではない。
ただ、窓から入る光が、いつもより長く差し込むように見えるだけだった。
Aは席に座ったまま、ノートの上に手を置き、目線を窓の外に向ける。
Bは少しだけ机を片付け、何気なくAとCの顔を交互に見ている。
Cは静かに荷物をまとめながら、手を動かすことに集中しているようで、
でも時々、遠くの景色を眺める目があった。
三人の距離は、教室の中ではいつも通り。
隣同士に座ることも、並んで話すこともある。
でも、どこか音のしない膜のようなものが、間にかかっている。
言葉も笑顔も、軽く、空気に溶けていく。
Bは、何度もCの荷物を見つめる。
言葉には出さないけれど、
胸の奥で、何かを残しておきたい気持ちがわずかに震えている。
Aは、そんなBの気配に気づきながらも、
自分の気持ちを飲み込み、静かに視線を外す。
やがて、教室のチャイムが鳴った。
放課後の時間が、確実に動き出す。
Cは最後の整理を終え、
小さく荷物を肩にかけた。
振り返り、二人を見たその瞬間、
言葉にしない別れが、三人の胸の中で静かに鳴る。
Bは、口を開きかけて、
何か言おうとしたけれど、
言葉は空気に溶けて消えた。
Aも、ただCの方をじっと見つめるだけ。
胸の中で、
“これでいいのか”という小さな問いを何度も繰り返していた。
そして、Cは教室を出る。
振り返りもせず、でも確かに二人を意識している。
その背中に、
静かに、でも確実に、
今日までの時間が積み重なっていたことが見えるようだった。
BとAはしばらくその場に残る。
声は出さない。
笑顔もない。
ただ、目で見送るだけ。
僕の席から見えるのは、
表面的には何も変わらない教室の景色。
でも、
三人の間にあった微かな距離と、
音のない虚しさだけが、
確かに、濃く漂っている。
ドアが閉まる音も、
チャイムの余韻も、
誰かの声も届かない。
ただ、
静かに過ぎる放課後と、
別れの瞬間だけが、
教室に残ったままだった。




