ABC物語 14
それから、
時間だけが、少しずつ進んだ。
特別な出来事は、起きなかった。
誰かが泣くことも、
誰かが声を荒げることもない。
教室は、
いつも通りの教室だった。
Aは席に座っている。
Bは隣にいる。
Cは少し後ろでノートを開いている。
周りから見れば、
ただのクラスメイトの配置。
何も問題がないように見える。
でも、
僕の席から見ると、
そこには“音のしない変化”があった。
Aは、
Cのほうを見なくなった。
見ない、というより、
視線が自然に避けている感じ。
意識しているのか、
無意識なのかは分からない。
Bは、
二人の間に何かあったことに、
気づき始めているようで、
でも、はっきりとは踏み込まない。
Aと話すとき、
Bは以前よりも少し慎重だ。
Cは、
前よりも人と距離を取るようになった。
笑う回数は減っていない。
でも、
笑いが終わるのが、少し早い。
【メモ:
三人とも、
前と同じ場所にいるのに、
前と同じ距離ではない】
昼休み。
三人が同じ教室にいる。
Aは窓のほうを向いている。
Bは机に肘をついて、友達と話している。
Cは本を読んでいる。
会話は交わらない。
でも、
誰も不自然なほど離れているわけでもない。
この距離が、
“普通”になりつつある。
【メモ:
違和感が、
日常になり始めている】
放課後。
Aは一人で帰る日が増えた。
Bは誰かと帰る日もあるし、
一人の日もある。
Cは、
少し遅れてから教室を出ることが多くなった。
三人が揃わない日が、
当たり前になる。
誰も、
それを不思議に思わなくなる。
周りから見れば、
ただのクラスの風景。
でも、
僕から見れば、
少しずつ、
削れていく関係の音が、
聞こえないだけで鳴っている。
【メモ:
壊れるわけじゃない
でも、少しずつ薄くなる】
たぶん、
このまま何も起きなければ、
三人の関係は、
静かに形を変えていく。
誰も、
悪者にならないまま。
僕の席から見えるのは、
普通に見える日常と、
その下で、
ゆっくりと変わっていく関係だけだ。
音はしない。
でも、
確かに、
何かが少しずつ動いている。




