ABC物語 10
それからの日々は、
見た目だけなら、前よりも穏やかだった。
AとBとCは、
前ほど気まずくならずに話すようになったし、
三人で笑う場面も増えた。
教室の後ろ、窓際。
僕の席からは、
三人の輪が、少しずつ形を変えていくのが見えた。
昼休み。
AとCが、昨日のドラマの話で盛り上がっていた。
二人とも、同じ回を見ていたらしい。
「そこ、めっちゃ良かったよな」
Aが言うと、
Cは少し間を置いてから、うなずいた。
その横で、
Bは一拍遅れて笑った。
声は明るい。
いつもと変わらない笑い方。
でも、
AとCが笑った“あと”に、
Bの笑いが重なる。
ほんの一瞬のズレ。
たぶん、誰も気にしていない。
【メモ:
Bの笑い、少しだけ遅れる】
次の日。
授業の合間。
Aが、シャーペンの芯を切らして困っていた。
Cがすぐに予備を差し出した。
「ありがとう」
Aはそのまま受け取った。
Bは、カバンの中を探して、
同じものを見つけていたけれど、
出す前に、手を止めた。
それから、
何もなかったみたいに、
そのシャーペンをしまった。
【メモ:
B、差し出そうとしてやめた】
放課後。
三人で帰る日もあるし、
それぞれ別々に帰る日もある。
この日は、
校門の前まで三人で並んで歩いていた。
途中で、
AとCの会話が、自然と前に流れていった。
Bは、その少し後ろを歩く形になる。
距離は、
二歩分くらい。
遠くはない。
でも、近くもない。
Bは、
そのまま歩幅を合わせようとして、
一度だけ、足を速めた。
すぐに、元の速さに戻った。
【メモ:
B、距離を詰めようとしてやめた】
教室に戻る途中。
三人で並んでいるとき、
Bがふと、Cの方を見て言った。
「今日の委員会、どうだった?」
Cは少し考えてから、
短く答えた。
「特に、何も」
それだけの会話なのに、
Bは必要以上にうなずいて、
話題を続けようとした。
Aは、
その様子を見ていないふりをしていた。
【メモ:
B、会話をつなごうとしてる】
どれも、
大した出来事じゃない。
誰かが泣いたわけでもないし、
喧嘩をしたわけでもない。
ただ、
前よりも“頑張っている感じ”が、
Bから少しだけ見える。
無理をしている、
と断言できるほどじゃない。
でも、
無理をしていない、とも言い切れない。
【メモ:
Bは優しい
でも、その優しさは
少しだけ“力が入っている




