表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘のない人生〜完全版  作者: つなかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/16

第十章 手紙

夜は、静かに降りてきた。

 窓の外の街灯が、カーテン越しに淡い橙色の光を落とす。

 机の上には、白い便箋と封筒。

 横に置かれた万年筆が、まるで私の心を待っているようにそこにあった。


 ——今日は、書こう。

 逃げずに。飾らずに。


 胸の奥で小さく息を整える。

 静かな部屋の中で、時計の秒針だけが一定のリズムを刻んでいた。

 それが、まるで新しい命の鼓動と重なって聞こえた。


 便箋に名前を書く。

 「神谷蓮様」。

 その文字の形だけで、胸の奥が少し温かくなる。


 私は深呼吸をして、ペンを走らせた。


 > 『蓮へ。』

 >

 > あなたに出会ってから、私は少しずつ変わりました。

 > あなたの言葉の中にあった“嘘のない時間”という響きが、

 > 今も心の奥で生きています。

 >

 > 旅から帰って、身体の中に小さな命が宿っていることを知りました。

 > 驚きよりも、感謝の方が先にきました。

 > これは奇跡でも、偶然でもなく、

 > あの七日間の時間が“本物だった”という証だと思います。

 >

 > あなたに何かを求めるつもりはありません。

> ただ、この事実を伝えずにいることが、

 > それこそ私にとっての“嘘”になってしまう気がしたのです。

 >

 > どうか、私を責めないでください。

 > そして、私が自分自身を責めないように、

 > あなたのやさしい言葉を、心のどこかで覚えていてください。

>

> 『嘘の中では愛せない』——

 > あなたの言葉に救われました。

>

> ありがとう。

> そして、さようならではなく、

 > “またね”と書かせてください。

>

>                      紗季


 書き終えた瞬間、

 胸の奥で何かが静かに弾けた。

 涙は出なかった。

 ただ、肩の力が抜けて、息が深くなった。


 “伝えた”という事実が、

 それだけで心を軽くしていた。


 私は封筒を閉じ、

 丁寧に切手を貼った。

 窓の外を見ると、夜空に薄い月が浮かんでいる。

 雲が流れ、星がひとつだけ光っていた。


 靴を履いて外に出た。

 夜の空気は思っていたより冷たく、

 頬をすり抜ける風が心地よかった。


 ポストの赤が街灯に照らされて、

 少し滲んで見えた。


 手紙を差し入れる指先が震えた。

 でも、迷いはなかった。


 > カタン——。


 ポストの中に紙が落ちる音がした。

 その音が、まるで“ひとつの季節の終わり”を告げる鐘のように聞こえた。


 私は夜空を見上げた。

 風が髪を揺らし、街の灯りが遠くで瞬く。

 誰かの笑い声が、静かな通りの向こうから聞こえた。


 「大丈夫。」

 小さく呟く。

 「もう、嘘じゃない。」


 手をお腹に添えると、

 内側から微かに温もりが返ってきたような気がした。


 > ——あの日、あなたがくれた“真実”は、

 >  今、私の中で息をしている。


 部屋に戻ると、机の上には

 蓮からもらったペンダントが光っていた。

 雫のような形をした小さな金色のチャーム。

 その中央には、淡く光る白い石が埋め込まれている。


 手のひらで包み、

 そっと目を閉じた。


 > この命は、

 >  誰かに許されるために生まれたんじゃない。

 >  “愛から生まれた”という、その真実だけで十分だ。


 静かな夜。

 窓の外で風鈴が小さく鳴った。

 明日はきっと、また新しい朝が来る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ