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プロローグ
二年前の四月、私はとある病院のベッドで目を覚ました。どうやら、事故が原因で長い間眠っていたらしい。混乱して、状況を把握するのに時間がかかる。事故以前の記憶は何一つとして思い出せなかった。かろうじて分かったことは、生まれた年と、名前くらいだった。
そこから推測するに、年齢は18歳。名前は、桜井みゆきだと思われる。確かな記憶ではない。
それから一週間後に退院をした。保険証どころか、スマホやカバンも持っていなかった。財布にいくらか入っていたので、しばらくはそれだけで生活することになる。外には桜が力強く咲いていた。それに対し私は、力無く桜の木に背中を預ける。花の香りに私の緊張感は少しほぐれた。
これからどうしよう――途方に暮れていると、目の前に一つの影がさした。
「どうしましたか?」
それが私と彼の出会いだった。明るい毎日を送っていたある日、彼が交通事故にあったと報告された。交通事故という言葉だけが頭を反芻し、視界を真っ黒に染め上げる。それまでの幸せな日々は、たった一つの出来事で一瞬にして崩れ去っていった――