第98話 モブキャラ、風紀委員長と戦う②
「さて、まずはあれをなんとかしないとな……」
武器の切り替え。
完全に隙を潰したうえで魔法を“先行入力”する、イカれた性能だ。
これを突破しない限り勝ちはない。
「ふっ!!」
だが対策はもう考えてある。
俺は再び前へと飛び出し、ナイフを構える。
「何度やっても同じですよ!!」
大量の弓矢が襲い掛かってくる。
だが所詮は連射で、一発の威力は大したことがない。
軽く被弾しながらも前進を続け、少しずつナターシアへ距離を詰めていった。
「はぁっ!!」
一定の間合いに入った瞬間、弓が鞭に切り替わる。
長くしならせた鞭が俺へ一気に振り抜かれ――誰もがまた投げ飛ばされると思っただろう。
「もう読んでいるんだよ」
「なっ!?」
伸びた鞭を俺はガシッと掴み、そのまま引き寄せてナターシアの身体を宙へ浮かせた。
「ほら、お返しだ!!」
「ぁあああああああああっ!!」
ドォオオオオン!!
砂埃と衝撃音が場内を揺らす。
「まさか切り替えを見越したうえでの行動とは……やりますね」
「イレギュラーにはイレギュラーを。魔力充填に不可能はない」
「随分と魔法を信頼してますね……」
魔力で身体能力と視力を強化している。
動きがスローモーションのように見えれば、武器の攻撃も対処しやすい。
「白か……」
もちろん、スカートの中もバッチリ見えた。いい光景だ。
「し、白? ま、まさか!!」
「感謝する」
「試合中に何を見てるんですか!! この変態!!」
真っ赤な顔で跳ね起きるナターシア。
「こうなったら徹底的にやりますからね!!」
彼女が手を掲げると、空中に魔力の腕が出現した。
しかも弓を握っている。
「……まじか」
「デュアルウェポンは伊達じゃないって教えてあげますよ!!」
パチン、と鞭が地面を叩いた瞬間、魔力腕から弓矢が放たれる。
「はぁっ!!」
魔法の精度も性能も本体と全く同じ。
器用すぎるデュアルウェポンに“手”を増やすなんて、本当にチートだ。
「そこっ!!」
「ぐっ!!」
近づこうとすると鞭が阻む。
その間にも矢が飛んでくる。
完全に隙がなく、永久コンボのような状態だ。
ナターシアは中遠距離に長けている。
接近戦主体の俺には最悪の相性――絶体絶命だ。
「これでも……!」
牽制にクラッシュビーンズを投げるも、速度の遅さで簡単に見切られる。
ナターシアは指を鳴らし、
「えぇ……そんなのアリか」
「アリですよ。できるので」
魔力腕がもう二本追加された。
腕が合計六つ。千手観音でも作る気か。
「隙あり」
「っ!!」
魔力腕に足を掴まれる。力が強く、魔力充填でもすぐには抜けない。
もがく俺へナターシアが迫り――
「がぁあああああああっ!!」
魔力のこもった鋭い蹴りが命中し、身体が宙に浮く。
ガシャアアン!!
(なるほど……)
想像以上の強敵だ。
“負け”の二文字が一瞬よぎる。
原作からの強化が尋常じゃない。
「はぁ……はぁ……」
ただ、ナターシアも余裕ではない。
肩で息をし、視線は俺から外さない。
魔力腕の操作に相当集中力を使うのだろう。
脳裏の“負け”が掻き消えた。
「はぁあああああああ!!」
ナイフに魔力を込め光装剣へ。
俺は迫り、ナターシアは数々の腕で迎え撃つ。
攻撃が当たってもいい。
動き続けろ。勝機は必ずある。
「カハッ……!!」
ナターシアが血を吐いた。
無理な集中が限界に達している。
それでも攻撃を止めない――絶対に負けたくないという執念。
気迫に息を飲む。
「ならば……」
俺も死ぬ覚悟で行く。
隙を見つけ、遠くのポイントへ跳び――
「なっ……!?」
ピタリと静止した。
「何のつもりで……!!」
大きすぎる隙にナターシアが動揺し、全攻撃を一斉に放つ。
魔力腕、弓、鞭……
ありとあらゆる攻撃が俺へ迫るが――
「魔力神填」
すべて、神速の前に置き去りにされた。
「それが貴方の……!? でも、防げば……!!」
二つの魔力腕を防御に残していた彼女。
腕が俺の前にクロスしてガードを展開する。
「甘い」
その程度で魔力神填は止まらない。
巨大な腕を、俺はたったひと蹴りで粉砕した。
「ふんっ!!」
「ガッ……!!」
接近して、ナターシアの身体を思いきり打ち上げる。
天高く舞い、動かない。
俺は跳躍し、彼女の元へ迫る。
「一刀両断……!!」
光装剣がナターシアの腹部を切り裂いた。
(……動かないな)
二撃で戦闘不能。勝負は決した。
俺は彼女の身体を抱え、ゆっくりと着地する。
「……よっと」
こうして見ると可愛い。
襲いたくなるほどだが、それは全部終わってからだ。
「おーい、審判?」
「はっ!! しょ、勝者!! ゼクス・バーザム!!」
勝者宣言とともに場内が沸きあがる。
「……これは?」
「お、意外と早く目覚めたな」
治癒の魔力を流し込んでいると、ナターシアが目を開いた。
周囲を確認し、敗北を悟ると、俺の袖を強く掴んだ。
「……何故、殺さないのです」
「ん?」
寝起きとは思えない物騒な言葉。
「私は勝負に負けました。風紀委員長としてこの失態は大きすぎます。だから……殺してください」
死をもって責任を償う、か。
勝てると思っていたから余裕だったのだろう。
「……わかった」
ナイフを抜くと、彼女は目を閉じた。
覚悟を決めた顔だ。
「一刀両断」
俺は彼女を宙へ投げ、ナイフを振るう。
「……ん?」
落ちてきた身体を優しくキャッチ。
傷一つついていない。
短すぎる“無音の時間”に不安を覚えたのか、ナターシアが目を開く。
ハラッ……
「へっ?」
安心しろ。ちゃんと殺したぞ。
社会的にな。
「きゃあああああああああっ!?」
衣類がすべて斬り裂かれ、ナターシアは一糸まとわぬ姿に。
悲鳴を上げて身体を隠し、うずくまった。
面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。
m(_ _)m




