第97話 モブキャラ、風紀委員長と戦う
「いよいよだな」
「えぇ、思いっきりボコしてやりなさい」
熱気に包まれた会場。
何も見えない待機室の中でさえ、多くの生徒たちの歓声が響いていた。
皆、この日を心待ちにしていた。
破教委員会と風紀委員会の代表同士による一騎打ちを。
破教委員会がイベントとして大々的に宣伝した結果、会場は想像以上の人だかりだ。
偉い立場というのも、悪くないものだ。
(今まで以上に緊張するな)
今まで俺の勝敗で何かが決まることはほとんどなかった。
命のやり取りは経験しているが、今回は “代表としての責任” が重くのしかかってくる。
関節をほぐしたり深呼吸をして気を紛らわせていると――
「ダーリンッ♪」
「ゼクス」
「おっと」
サーシャとリーンが抱きついてきた。
「癒してくれるのか? 嬉しいな」
「ダーリンなら絶対勝てるよ。あんなヤツ、ボコボコにしちゃえ」
「ゼクスは強い。だから大丈夫」
「……ありがとう」
なんて心強いんだ。
彼女たちの言葉が、胸の奥までスッと入り込んでくる。
「レアは何もしてくれないのか?」
「わたくし? 何を期待してますの」
「レアだから期待するんだろ?」
「はぁ……ほんとワガママね」
渋々といった様子でレアが身をかがめる。
「んっ……」
「ん……」
そっと唇を重ねてくれた。
「これで十分でしょ?」
「そんなことされたら、もっと欲しくなるだろ」
「ワガママ言わないの。さ、行きなさい」
背中を押されるようにしてバトルフィールドへ向かう。
最高の夜を迎えるためにも、ナターシアには絶対勝つ。
あと、マイクロビキニもだ。
「うおおおおおお!!」
「やれーー!!」
「どうなるんだー!?」
会場に近づくにつれ、音圧が増していく。
皆、期待に満ちた顔で叫んでいる。
「ゼクス様が負けるわけねぇだろ!!」
「ナターシア様が最強に決まってる!!」
「お前んとこの代表の方がザコだろ!!」
「うるせぇ!! ぶっ殺すぞコラ!!」
罵声と、何か揉めるような音も聞こえてくる。
あれだけ席を離せと注意したのに……まあ、この人数だ。どこかで衝突もするだろう。
頼むから大事にならないでくれよ。
「来ましたか」
「あぁ、待ちきれなくて時間前に来ちまった」
フィールド中央には、既に武器を構えたナターシアが立っていた。
背中には弓。手には鞭を。
慣らすように鞭をパチンと威嚇するように地面へ叩く。
(相変わらずアンバランスな武器だな)
鞭と弓という異質な組み合わせ。
最初に見た時は笑ったが、これらを自在に扱う姿こそが、彼女が風紀委員長たる所以だ。
「準備はいいですか?」
「いつでも」
俺もナイフを二本抜き、クラッシュビーンズも多めに仕込んだ。
準備は万端だ。
「はじめぇ!!」
審判の声とともに、同時に踏み込む。
「はぁっ!!」
まずは様子見でブーメランナイフを投げる。
不規則な軌道でナターシアへ迫る。
「ふんっ!!」
だが、鞭の一振りで正確にはたき落とされた。
あの瞬発力で、ここまでの精度……さすがだ。
「驚いてる暇はありませんよっ!!」
鞭が宙をしなり、こちらへ振り下ろされる。
俺はバク転して回避した。
――パァアアアン!!
「……まじか」
叩きつけた地面には、深い裂け目が刻まれている。
副委員長が使っていた鞭とは次元が違う。
まさに本家の火力だ。
「狙いやすいですね、貴方は」
そう言い放つと、ナターシアの手から鞭が消えた。
視線を移すと、いつの間にか弓を構えている。
持ち替えの速度がおかしい。
「閃光矢」
放たれた矢は、まさに閃光。凄まじい速度で迫る。
「魔力充填・光装剣!」
俺は刃に込めた魔力を解放し、矢の軌道に合わせて――
「ふんっ!!」
一刀両断した。
「あの弓をナイフで? クレイジーですね」
「避ける方が面倒でな。少し本気を出してみた」
「ふふっ、ウォーミングアップしている場合ですか?」
再び矢が雨のように降り注ぐ。
俺はナイフで切り払い、体術で回避する。
(あの動きが見たい……)
鞭から弓への超高速切り替え。
まるで手品のようだった。
恐らく――
「ふんっ!!」
多少の傷は覚悟して、一気に距離を詰める。
「……甘いですね」
至近距離。弓では不利なはず――だが、ナターシアは武器を“入れ替えるように”鞭を取り出し、そのまま攻撃を放ってきた。
「ぐっ!!」
鞭の衝撃を受け、俺は壁まで吹き飛ばされた。
「なるほどな……」
武器の入れ替えそのものが魔法だ。
ゲームの武器切り替えのように、瞬時に弓と鞭を使い分ける。
さらに、切り替えた瞬間から攻撃が“予約”されている。
「面白くなってきたじゃないか」
ナターシアは強い。
異なる武器を自在に扱う、規格外の能力。
さて――どうやって倒すか。
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m(_ _)m




