第93話 モブキャラ、尋問する
「げほっ……」
「……やりすぎちゃった」
「あー、まぁ治せるから大丈夫だ」
全身をボコボコに殴られ、血まみれの風紀委員。
俺は彼の手を強く握り、魔力を注ぎ込む。
随分と酷い目に遭ったな……もっとも、俺の命を狙ったんだから自業自得だが。
「お、お前たち……風紀委員にこんなことをしてタダで……」
俺を睨みつける程度には回復したらしい。
が――
ジャキン!! ジャキン!!
「お行儀が悪いですわね」
「今度こそあの世に送ってやる」
「ひぃいいいいいい!!」
レアとサーシャに武器を突きつけられた風紀委員は、怯え、涙目のまま土下座した。
「さて、お話の時間だ。ここは何だ? 何をしている?」
「……言わなかったら?」
「殺す」
「……わかった」
諦めたようにため息をつき、風紀委員は語り出した。
「ここはパルテノ派閥の隠れ家だ。委員長に見つからないよう、あえてDクラス近くのスラムに作った」
「パルテノ?」
「風紀委員会の副委員長ですわね。まさか意外な大物が指揮を取っていたとは……」
やはり派閥か。
副委員長がこれほどの規模を動かしているということは、委員長と副委員長の間で派閥が分かれているということだ。
皆が皆、委員長を慕っているわけでもないようだ。
そして、これほどの組織を作る理由――単純だが、大体わかる。
「委員長の座を狙っているんだろ?」
「……」
風紀委員は静かに頷いた。
「なのに俺を狙うとはどういうことだ? 風紀委員とは敵対してるだけだぞ?」
「それは……俺も知らない」
「は?」
その瞬間、風紀委員の喉元をサーシャが掴み上げた。
「しらばっくれても無駄だよ!! とっとと全部吐きな!!」
「ゲホゲホッ!! ほ、ほんとに知らない!! ただそういう話を聞いただけなんだ!!」
「……どうやら本当みたいね」
俺の暗殺は、上層部だけが知る計画なのか?
ここまで来たら、副委員長本人に会うしかない。
この際、施設も派閥もまとめて潰してしまおう。
その方が後々都合がいいし、ナターシアにも恩を売れる。
「はぁ……はぁ……全部話したぞ……」
「あぁ、そうだな?」
「助けて……くれるんだよな?」
涙とツバでぐちゃぐちゃになった顔が、俺を見上げていた。
「十分救われただろ?」
「へ……?」
その醜い顔を見て、俺はニヤリと笑った。
「話してる間は生きていられた。それでいいじゃないか」
「やめろっ……!! 約束とちがっ……!!」
「俺を殺そうとしたんだろ? なら当然の裁きは受けてもらわないとな」
慌てて逃げようとした風紀委員の足を、レアの氷魔法が瞬時に凍りつかせた。
「うわぁ!?」
バランスを崩し、顔面から地面に倒れ込む。
その背後から、サーシャの盾が怒りと共に振り上げられ――
グシャッ!!
押し潰すように振り下ろされ、血肉と共に頭が弾け飛んだ。
「さっさと行こ、ダーリン♪」
「あぁ。リーンが待っている」
「そういえば忘れてましたわ……後で小言を言われないかしら」
まだタルの中に隠れているんだよな。
早く助けて、安心させてやろう。
俺たちは再び廃校舎の入口に戻り、中へと入る。
中は相変わらず人が多い。
そして――妙に目立つタルもそのままだ。
なんでバレてないんだよ。
「どうやって助けますの?」
「一人が囮、残りがリーンを助ける方向でいこう」
「囮って……誰がやるんだい?」
「囮なんだから、一番目立つやつがいいだろ。俺がやる」
「「えっ?」」
返事も待たず、俺は風紀委員たちのど真ん中へ飛び込む。
「オラァ!!」
「ぐほぉっ!?」
一番近くにいた風紀委員を、魔力充填と共に思い切り蹴り飛ばした。
「俺様は破教委員会の代表、ゼクス・バーザムだ!! 副委員長はどこにいやがる!?」
「なんだこいつ!?」
「敵襲ー!! 敵襲ー!!」
分かりやすい悪役ムーブをわざと大声で披露する。
俺のアホらしい行動に、連中は動揺しているようだった。
「ほんと後先考えないわね!!」
「そこがダーリンのいいところっ!!」
視線を集めている間に、遠くではレアたちがリーンのもとへ駆け寄っていく。
任せて問題なさそうだ。
「貴様、ゼクス・バーザムか!?」
「破教委員会の代表が何故こんな所に!?」
「襲ったのはお前らの方だろ? まぁいい」
敵の大将に問い詰めればいい。
だが――問題はその居場所だ。
どこに隠れている? 何をしている?
廃校舎だからか、やたら広い。
怪しい部屋なんていくらでもある。
(暴れるか)
大多数に囲まれた圧倒的不利な状況。
だがこれだけ目立って暴れれば、向こうから出てくるだろう。
それに――
「使わせてもらおうか、魔力神填を」
新たに覚えた魔法。
どれほど通じるか、この場で試させてもらおう。
「うらぁあああああああっ!!」
「はぁあああああああ!!」
剣を構えた生徒が二人、一気に襲いかかってくる。
「いくぞ……」
俺は深く息を吸い込み、全身に力を込めた。
同時に魔力を脚部へと集中させる。
魔力充填よりもさらに高密度の魔力が限界まで溜まり、熱が全身を駆け抜けた。
「ふんっ!!」
そして――一気に駆け出す。
ブォオオオオオオオオオン!!
「「「ぐぁあああああああああああっ!!」」」
ただ前へ走ったつもりだった。
だが――振り返ると、そこには誰もいない。
人も物もすべてが消え失せ、踏み込んだ一帯は灰と化していた。
そして地面は熱を帯び、黒く焦げている。
「あっつ……」
脚部から伝わる灼熱の痛み。
魔力神填のエネルギーに身体がまだ耐えきれていない。
まだ多用はできそうにないな。
魔力充填みたいに連発は無理だ。
しばらくは切り札として温存しておこう。
「なんだあれ……」
「今のが魔法かよ!?」
風紀委員たちは目の前の光景に圧倒され、ただ立ち尽くしていた。
――さぁて、もう少し遊んでやるか。
面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。
m(_ _)m




