第92話 モブキャラ、潜入する
「風紀委員に毒を盛られた? 大丈夫ですの?」
「二、三枚食べたけど、美味しかったぞ。毒があるのが残念なくらいだ」
「味の感想ではなく……というか、毒物を口にしないでくださいまし」
すぐに人を集め、今後の対策と犯人探しを含めた会議を開いた。
ちなみにクッキーの毒は魔力充填で無効化している。
確かに毒は入っていたが、簡単に耐性がついた。
もう少し強力な毒を使えばいいのに……舐められてるのか?
「アイツら殺していい? いいよね?」
「殺すのは犯人だけだ。もう少しでわかるから我慢してくれ」
「むぅ……」
俺のこととなると、サーシャはすぐに気を立てる。
最近また怪しげな兵器を作っているようだが……大丈夫か?
「返してよかったのかい?」
「リーンがスパイの後を追っている」
リーンの気配遮断能力はかなり高い。
メディに匹敵するほどだ。
風紀委員としての経験から、ヤツらの行動パターンも把握しているだろう。
いい結果を期待している。
「わたくしたちも狙われる側になりましたわねぇ。物騒なこと」
「なーに、その度に痛い目に遭わせればいいさ」
「……ふふっ、そうね」
怪しげな笑みを浮かべながら、自らの爪を眺めるレア。
恐ろしさと美しさが両立している――まさに彼女の魅力だ。
「……何?」
「ただのスキンシップだ」
「あっそ」
そして愛には逆らえない、可愛らしい一面も。
「ずーるーい!! アタシもダーリンとイチャイチャする!!」
「ほら、背中は空いてるから遠慮なく来い」
「はーい♡」
背中にギュッと抱きつくサーシャによって、美少女サンドイッチが完成した。
ナターシアとのタイマンが終わったら、みんなで仲良く楽しい夜を過ごそう――なんて考えていた時。
「ん?」
一体のスライムがぴょんぴょんと跳ねながら近づいてきた。
頭の部分には、一枚の手紙が貼り付けられている。
「へぇー……なるほど」
「どうしましたの?」
「リーンが居場所を見つけたってさ」
「早っ……さすがだね」
スパイが未熟だったのか、それともリーンが優れていたのか。
いずれにせよ、手紙に記された場所に俺を暗殺しようとした犯人がいるらしい。
「けど囲まれてるらしいな。風紀委員にバレるから下手に動けないそうだ」
「……どういうことかしら?」
「隠れ場所の周りに風紀委員がたくさんいる……ってことか?」
なるほど、と二人が頷く。
リーンが動けないということは、相手はそれなりに大きな組織かもしれない。
風紀委員の中にも派閥があるのか?
(むしろ今潰した方が都合がいいな)
ナターシアは俺とのタイマンに乗り気だった。
せこい手は使うだろうが、ここまで幼稚で悪意ある行動は取らないはずだ。
おそらくナターシアとは別の考えを持つ派閥が動いている。
そいつらを潰せば、ナターシアはより自由になり、俺たちへの依存も強まる。
ふふ、決まりだな。
「助けに行くぞ」
「「了解」」
ちょうど仕事も終わったところだ。
愚か者退治に専念できるな。
◇◇◇
「……ここにいますの?」
「みたいだな」
「まるで秘密基地だねぇ……」
スライムの道案内に従いながらたどり着いたのは、Dクラス近くの廃校舎だった。
見た目はボロいが、所々に手が入っており、誰かが居場所にしていることがわかる。
そして入口付近には、武器を構えた生徒が二人――ん?
「寝てる?」
「というか、気絶していますわね」
そっと近づいてつついてみても反応はない。
リーンがやったのか? こっそり潜入したかと思えば、意外と荒っぽい手も使うらしい。
見張りがいないことを確認して、俺たちは校舎の中へと潜入した。
「うわー……人多いなぁ」
施設内を多くの生徒が徘徊している。
明らかにDクラスではない品格と魔力を持つ者がゴロゴロと。
「なんだいここは……廃校舎にしては物が多すぎるよ」
「奥にある壺……西側で有名な陶芸作家の逸品ですわね。多分本物」
なぜこんな場所に壺が……というツッコミは置いておくとして。
武器や道具が山のように置かれ、あらゆる部屋が何かしらの用途で使われている。
出入りする生徒も多い。
まるで、戦争でも準備しているかのようだ。
「で、リーンはどこにいますの?」
「確かタルに隠れてるって……」
「タル? そんなのいっぱい……」
大量のタルが並ぶ中、辺りを見回すと――
「……あれね」
「……あれだね」
タルは一個しかない。
扉の横に妙に小ぎれいなタルが、ドンと存在感を放っている。
どうやって今までバレずにいたんだ……。
「さて、助けに――」
立ち上がろうとした瞬間、背後から不穏な気配を感じた。
「動くな」
首元にナイフの冷たい刃が突きつけられる。
ゆっくり振り返ると、黒ずくめのパーカーを着た男子生徒が立っていた。
「ここは風紀委員の隠れ家か? 相変わらずコソコソするのが好きみたいだな」
「貴様が何故ここにいる? さっさと始末してやる」
そう言って刃を突き立てようとした瞬間――
「ふんっ!!」
「ごほっ!?」
刃が届くより早く、サーシャの拳が男の腹にめり込んだ。
「き、さま……なにを……っ!?」
「黙れ、喋るな、存在するな」
サーシャは抵抗も無視して男を外へ引きずり出す。
俺たちも校舎の外へと続き、少し離れた場所で立ち止まると――
「許さない許さない許さない……」
「や、やめっ!!」
バキィ! ゴシャァ! ボコォ!
一方的な暴力。
殴って、蹴って、盾で押し潰す。
愛するダーリンを襲った不届き者を、この世から消すように――サーシャは本能のまま暴れ続けた。
「あー……殺すのは最後にしてくれ」
「情報が先よ……って聞いてないわね」
このままでは本当に殺しかねない。
俺たちはため息をつきながら、荒ぶるサーシャを止めに入った。
怒ってくれるのは嬉しいんだけどな。
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