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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
5章 モブキャラ、風紀委員会と接触する

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第91話 モブキャラ、狙われる

「おっ?」


 それから三日後。

 魔力神填に大きな変化があった。


 使用しても血を吹き出さない。

 魔力が安定している感覚。

 もしや、これは……


「レッド! 岩を投げてくれ!」


 合図と同時に、巨大な岩が勢いよく迫ってくる。

 俺は冷静にそれを見つめ、拳に力を込めて突き出した。


 ――パァン!


「おお……」


 岩が砂のように粉々に砕け散った。

 空間に砂煙が舞い広がっていく。


 力は入れたが、本気ではない。

 それなのに、ここまでの破壊力とは。


「嘘でしょ……これが魔力神填……?」

「あぁ、成功だ」


 遂に完成した。

 時間もかかったし、神聖水もかなり消費した。

 だが、目標を達成できたのが何よりも大きい。


 確かな進歩に、思わずガッツポーズを決めてしまう。


「結局、神聖水は何本飲みましたの?」

「えっと……三本くらいかな?」

「貴重なものをガブガブと……王族が見たら卒倒しますわね」


 呆れた様子で空き瓶をつまむレア。

 量産できるとはいえ、三本は多いかもしれない。


 ただ、神聖水の生成速度は以前より明らかに早くなっていた。

 多分、慣れたからだろう。


 三本程度なら、一日もあれば余裕で作れる。

 ちなみにナターシアにも「一日一本飲め」と渡してある。

 効果の高さにドン引きしていたが……いい感じに依存しているはずだ。


「後は調整だけだな。自由に使えなきゃ意味がない」

「でしたら……」


 ふふっと笑いながら、レアが腰の剣を抜いた。


「わたくしと一戦、交えてみません?」

「名案だな」


 レアと戦うのも久しぶりだ。

 成長した彼女を相手にできると思うと、胸が高鳴る。


「終わったら戻りますわよ? まだ仕事が山積みですから」

「……だな」


 実のところ、ずっと修行していたわけじゃない。

 合間を縫っては戻り、委員会の実務を片付けていた。

 今は破教委員会の代表。学業に加え、組織の運営も任されている。

 ――仕事量はすさまじい。


 正直、レアたちがいなければ速攻で投げ出していた。

 座り仕事は、もう少し減らしたいところだ。


 ◇◇◇


「ふわぁ……」


 作業もひと段落し、ようやく休憩。

 今日はトラブルが少なかったおかげで、実務もスムーズに進んだ。


(昨日はひどかったなぁ)


 図書委員会に喧嘩を売った破教委員会のメンバーが暴走し、

 「蔵書を燃やしてやる」と脅しをかける騒ぎにまで発展した。

 自由に生きてきたつもりが、代表になった途端、悩みの種が増えた気がする。


 ちなみにレアとの模擬戦は、なんとか俺の勝利。

 氷魔法も体術も精度が上がっていて、気づけば本気になっていた。

 どれだけ傷ついても、魔力充填で回復できるのが救いだ。


(ま、それ以上の幸せがあるんだけどな)


 じっとリーンの方を見ると、不思議そうに首をかしげて視線を返してくる。

 俺が優しく手招きすると、駆け寄ってきた彼女を――


「わっ……」


 ぎゅっと抱きしめた。

 美少女へのハグこそ最高の癒し。これに勝る幸福はそうそうない。


「どうしたの?」

「仕事終わりのデザートだ。リーンは温かいな」

「ん……ゼクスのおかげ」


 そう言いながら、赤い両腕を嬉しそうに動かすリーン。


「色んな感触がわかる。色んな温かさがわかる。それが、すごく嬉しい」


 閉ざされた世界が広がり、生きがいを見つけた。

 今のリーンは本当に生き生きしている。


(ちゃんと効果が出て、何よりだ)


 体の色はまだ赤いままだが、それ以外に異常はない。

 触覚も体温もあり、触れたものを灰にすることもない。

 観察を続けていたが――どうやら完全に成功したようだ。


「し、失礼します」

「ん?」


 二人の時間を楽しんでいると、扉がノックされた。

 聞き覚えのない声。信者の一人か?

 「入っていいぞ」と声をかけると、扉が開き、一人の女子生徒が入ってきた。


「何かあったのか?」

「い、いえ……故郷のお菓子をもらったので、おすそ分けを……」


 怯えた様子で差し出されたのは、クッキーのようなお菓子。

 こんがり焼けた表面から、甘い香りが漂う。美味しそうだ。


 代表とはいえ同じ一年生なんだから、そんなにビクビクしなくていいのに。

 おまけに俺は伯爵なんだぞ?


「……ゼクス」

「ん?」


 リーンがクッキーを一枚取り、じっと観察する。

 匂いを嗅ぎ、クッキーを軽く舐めて――


「これ、毒」

「っ!!」

「ほぉ?」


 どうやら差し出されたクッキーに毒が仕込まれていたらしい。

 どれどれ、俺も匂いを、


「あー、なるほど」


 確かに、甘い香りの奥に薬のような匂いが混じっている。

 魔装結晶のカモフラージュに少し似ている匂いだ。

 これを即座に見抜くとは、さすがリーン。


「ち、ちが……私は、ただ……」

「問答無用」

「あがっ……!!」


 女子生徒が慌てて後ずさるが、リーンの影魔法がその身体を拘束した。


「誰の命令? それとも個人的な恨み?」

「それは……」

「言わないと殺す。言っても殺す」

「ひぃ……!!」


 首元にナイフを突きつけるリーン。

 ……それ、脅しというより死刑宣告では?


「生徒会、図書委員会、デストレーダー……」

「ん?」


 思いつく組織名を順に挙げていく。

 女子生徒からは一瞬たりとも目を離さずに。


「……風紀委員会」


 その言葉に、彼女の肩がわずかに震えた。


「風紀委員会のスパイか。決闘前に俺を弱らせるつもりだったんだな」

「姑息なうえに作戦にボロが多い。委員長の仕業じゃなさそう」

「余計な茶々をいれやがって……」


 委員長に勝ってほしいのか?

 手段を選ばないのは結構だが、もう少し上手くやれよ。

 

「ふむ……」

「「?」」


 それにしてもだ。

 クッキー、いい匂いだな。


「……あむあむ」

「えっ!?」

「ゼクス?」


 俺はクッキーを手に取り、そのまま口に放り込んだ。

 二人が驚いた顔でこちらを見ている。


「仕掛けたやつに伝えとけ。子供だましじゃ、俺は倒せねぇよってな」


 決闘の前に、まずは犯人探しだ。

 ナターシアとは、できるだけフェアに戦いたいからな。

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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