第85話 モブキャラ、昇天させる
「……いけない声が聞こえたわね」
「情けないメス豚みたいだった」
「リーンって結構辛辣なんだね……」
表情は変わらないのに、発言に毒がある。
リーンの新たな一面を知れた。
「お゛っ……ああ゛っ……これ゛っや゛ばいいいいっ♡」
「どうだ? この辺とか凝ってるだろ」
「ぐっ……い゛ぐっ……い゛ぐぅうううううう♡」
まるで情事の最中かと思うほど酷い声だった。
顔は崩れ、口元からヨダレを垂らし、荒い呼吸を繰り返しながらマッサージを受け続ける。
(思った以上に反応がいい……)
疲労やコリも酷いが、それ以上にナターシアが気持ちよさそうにしている。
第一段階としては上々の滑り出しだ。
「ゼクス、もっと続けてもらってもいいかしら?」
「え? 最初からそのつもりだが」
何か作戦でも思いついたのか?
コリがとれるまでやめるつもりはない。このまま続けさせてもらうことにした。
「だめ゛っ……これ゛い゛じょうは……♡」
「腰とかまだまだ凝ってるぞ? ほーら……」
「あ゛っ!! や゛ばっ……!」
余すことなく指を動かし、全身を揉みほぐす。
ナターシアの身体の揺れが強くなり、もはや書類に手をつける余裕すらない。
声も激しさを増していく一方で――
「お゛お゛お゛お゛お゛っ♡」
一番凝っている部分を押した瞬間、過去一の声を上げた。
チョロチョロ……チョロ……
「ん?」
水の音?
この部屋に水道なんてあったか?
音は正面から聞こえた。
まさかと思いつつ、ナターシアの正面へ回り込むと――
「「「う、うわぁ……」」」
完全に昇天したような顔で、ソファの上に盛大におもらしをしているナターシア。
その光景を、ドン引きの表情で見つめる三人がいた。
カシャッ!
「ふふっ……これで弱みは握ったわね」
レアは冷静に、その惨状を写真に収めた。
「最初から狙っていたのか?」
「あんまりにも気持ちよさそうでしたから。何か出るかなーと思いましたの♪」
「出るって……まさか漏らすとはねぇ……」
俺もここまでやらかすとは思わなかった。
確かに魔力充填マッサージは効果抜群だが、失禁レベルの快楽を与えるものではない。
「ソファに染みが……急いで掃除しますね!」
「このまま放置した方が晒しに……」
「ダメですよ!! 匂いやシミって中々取れないんですから!!」
掃除へのこだわりで押し切り、ソファや床、ナターシアの服までも丁寧に後処理していく。
慣れてるな……昔、バーザム家の誰かがやらかしたのか?
ちなみに俺ではない。
「……はぇ?」
着替えを終えたナターシアがようやく意識を取り戻す。
ぼんやりと周囲を見回し、正面の書類の山を見てハッと立ち上がる。
「わ、私のとしたことが!? 急いで書類を……」
「これ、なーんだ?」
レアが差し出した一枚の写真が、ナターシアの視界を覆う。
「きゃあああああああっ!? な、なんですかこれは!?」
「気持ちよさそうな風紀委員長様ですわ。面白いので、風紀委員会にバラまこうかと思って♪」
「脅しですか!! 私はそんなものに屈したりしません!!」
だが、顔は真っ赤で涙目。
表情から「やめてください」と訴えているようだった。
「……目的はなんですか?」
「わたくし達の支援を受けていただきたくて。風紀委員会を助けたい善意を、貴方がなかなか受け入れませんから♪」
「だからって……あ、身体すごく軽い……」
レアに食ってかかったナターシアが、自分の身体の変化に気づく。
マッサージの効果は本物だ。疲労も完全に抜けている。
「バラまくならバラまきなさい!! 恥ずかしい秘密の一つや二つ、知られたところで……!!」
この様子だと、そう簡単には折れそうにない。
流石は風紀委員長。写真の一枚や二枚で屈するほどヤワな心はしていない。
どう攻めようかと考えていたその時――
「これ、風紀委員長」
「「「「え?」」」」
リーンが例の写真を手に、風紀委員たちへ見せて回っていた。
仕事の手を止め、皆がナターシアの恥ずかしい姿に釘付けになる。
「リーン!?!?!? 貴方、何をしているのです!?」
「バラすならさっさとバラした方がいい。風紀委員長は精神的な脅しに強いから」
「行動が早ぇって……」
脅しになってない。
ただ弱みを握ったから即バラしただけだ。
まあ、交渉を続けても長引くだけだと思っていたけど。
「嘘だろ……あのナターシア様が……」
「忙しいんだろうなぁ」
「トイレする暇もないのか……可哀想に……」
「ううううううううう!!」
だが風紀委員たちの反応は意外だった。
失望するかと思いきや、哀れみと同情の声が多く上がる。
普段から忙しそうな風紀委員長を見ているからだろう。
何だかんだで信頼は厚いらしい。
「あ、そうだ」
ふと、俺は思いついた。
「可哀想な風紀委員長の力になりたいんだが……いいかー?」
「「「……賛成です」」」
「ちょっ!?」
追い詰められた風紀委員長を助けたい――
そう呼びかけると、風紀委員たちはあっさり賛同してくれた。
当初の想定とは違うが、目的は果たした。
結果オーライ、ってやつだ。
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