第83話 モブキャラ、風紀委員長に出会う
「入れ」
扉が開くと、風紀委員の青年が高圧的な態度で中へと案内する。
「歓迎ムード……じゃなさそうだね」
「お茶の一つも出そうにないわね」
中で事務作業をしている生徒たちは無表情で、ただ黙々と目の前の仕事に取り組んでいた。
時々こちらに視線を向ける者もいるが、その目はとても冷ややかだ。
どうやら相当嫌われているらしい。
「安心して。風紀委員会はいつもこう」
「ずっとこれなの? マナーがなってませんわね……」
これが風紀委員会の日常か。
優秀なのは間違いないが、一緒に仕事をしたいとは思えない。
「こっちにいろ。余計なことはするな」
「おっと……」
目的の部屋まで案内されると、青年に乱暴に背中を押された。
レアたちにまで同じ扱いをしたので文句を言おうとしたが、バタン! と扉が閉まってしまう。
「なんですの!! 侯爵家に対する態度とは思えませんわ!!」
「ダーリンを雑に扱うなんて……ちょっとお仕置きしてくる」
「待って、待って」
苛立つ二人を、リーンがぴょんぴょん跳ねながらなだめようとする。
色々と思うところはあったが、リーンの可愛らしい仕草に怒りもどこかへ消えてしまった。
「ここまで酷いのか?」
「ん? あぁ……そういえば……」
リーンが珍しくため息をついたのを見て、ふと思い出す。
彼女が風紀委員会でどんな仕事をしていたのかを。
ざっくり言えば、雑用全般らしい。
偵察の任務もあるが、主な仕事は事務や応対、掃除など。
特に応対では、親切にしても相手に怖がられることが多かったとか。
多分、呪いのせいだ。
俺からすればリーンを雑用扱いにするなんて不満しかないが、本人いわく「割と楽しかった」らしい。
「リーン、お客様が来たらどうする?」
「丁重にもてなす。相手の地位に合わせて紅茶やお菓子を出して、不快に思われないように心がける」
「素晴らしい。言うことないわ」
「……風紀委員会が引き留めた理由はそれか」
便利な人材がいなくなると困る、ってことか。
散々人をこき使っておいて、いなくなるとわかったら反抗するなんて——まったく、人使いがなってない。
「別のことがやりたいと思ったら、いつでも言えよ。そうでなくてもヘルプで呼ぶかもしれんが」
「ん、ありがとう♪」
頭を撫でると、リーンは嬉しそうに首を振った。
できることが多いのはいいことだ。
リーンのような優秀な人材には、定期的に他の仕事も任せるのもいいかもしれない。
「失礼します!」
バァン!! と扉を蹴り開けて入ってきたのは、明らかに苛立ちを隠せない美少女だった。
ボサボサの青い長髪を揺らしながら、大量の資料を抱えたまま椅子にドサッと座る。
見たことがある。
会ったことはないが、彼女の顔は知っていた。
「……ナターシアか」
「私の名前を知っていましたか。説明が省けて助かります」
お前が風紀委員長とは驚きだ。
原作では聖教委員会の委員長だったというのに……運命とは恐ろしい。
「早速本題に入りましょう。さっさとふざけた委員会を解散しなさい。そしてリーンを返してください」
ブツブツと文句を言いながら、大量の資料を片付けていく。
まるで人に頼む態度ではない。
「ずいぶんと上から目線ですわね? そういう時は土下座して頼むのが筋ではなくて?」
「風紀委員会は二番目に偉いので。そちらに頭を下げる義理はありません」
「へぇ……でしたら交渉決裂ですわね」
あまりの無礼な態度に、レアですら額に青筋を立てている。
重く殺伐とした空気が流れる中、俺はリーンの肩をつついた。
「いつもこうなのか?」
「委員長はずっとこんな感じ。ウチにも冷たい」
中々クセの強い委員長様だ。
というか、原作より性格が変わってないか?
慈愛に満ちて弱き者を助ける姿——そんな彼女が今では、誰にも心を開かず淡々と仕事をこなすだけの存在になってしまった。
環境が人を変えるとは言うが、ここまでとは。
「まぁまぁ、お前らの言いたいこともわかる。知らない勢力を相手にするのが嫌なんだろ?」
「……貴方が未知数なんですよ、ゼクス・バーザム」
「ほほぉ?」
ペンを走らせていた手を止め、ナターシアはギロリとこちらを睨みつけた。
「下級クラスがすべて貴方の味方をしています。誰にもつかなかった連中が、今では知らない一年生を支持している。こんな恐ろしいことがありますか?」
「それがグランヴァルの理想だろ? カオスにあふれてて楽しいじゃないか」
「限度というものがあるんですよ!!」
バンッ!! とペンを机に叩きつけ、ナターシアは勢いよく立ち上がった。
「貴方たちがいると、非常に効率が悪くなるんです。バルカンは操りやすくて助かったのですが……」
「残念ね。私たちは自由にやりたいの」
「……随分と生意気ですね、レア・スカーレット」
すぐに冷静さを取り戻して会話を続けるあたり、さすがは風紀委員長。
だが限界も見えている。
目の下にはクマがあり、少しでも気を抜くと目を閉じてしまうほどだ。
トップとはいえ、明らかに疲労が溜まりすぎている。
なぜ、ここまで追い詰められているのか。
「風紀委員で一番強いのは?」
「圧倒的に委員長」
「……なるほどな」
グランヴァル学園は実力主義。強い者が上に立つ。
ナターシアは強すぎるが故に、誰よりも苦労しているのだ。
「その悩みを一発で解決する方法があるぞ」
「へぇ? なんですか?」
挑発するような俺の言葉に、ナターシアは苛立ちながら反応した。
「辞めればいいんだよ。お前が風紀委員会を」
「っ……!!」
その瞬間、ナターシアは歯ぎしりを強め、机の上のペンがかすかに震えた。
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