第82話 モブキャラ、風紀委員室に向かう
「ゼクスさまぁ♡ こっち見てぇ♡」
「アンタばっかずるいー! 私を見てよー!」
「俺は逃げない、だから慌てるな。ハハハハ!!」
聖教委員会――だった場所。
最奥にある事務室のような部屋で、俺は両サイドに美少女を抱えながら仕事をしていた。
(信者にこんな可愛い子がいるとは……ふふふ)
媚びたほうが有利だと判断したのか、最近は俺に積極的にアピールする女子生徒が増えている。
この甘ったるく、あざとい態度が妙な幸福感を与えてくれる。美少女に好かれている時ほど幸せな時間はない。
と、俺たちの背後から嫉妬深いオーラが迫る。
「ダーリンの隣はアタシのものなんだけど……殺されたい?」
「「ひ、ひぃぃいい!!」」
一瞬で二人を囲うようにシールドビットが展開された。
鋭く睨みつけるサーシャの姿に、二人は怯えきって部屋から逃げ出してしまう。
「あまり脅してやるな。大切な信者だ」
「ダーリンは可愛い子に甘すぎ!! もっとアタシのことも見てよ……」
「言われなくてもサーシャのことは常に見ている……今晩、ベッドに来るか?」
「いいの!? 行くー!!」
俺のサイド――ではなく、膝の上に乗っかるサーシャ。
少し子どもっぽくなったようだが、好かれているのは悪い気はしない。
(これでも軍事参謀なんだよな……)
破教委員会を設立するにあたって、俺たちは役職を決めた。
レアは副委員長。サーシャは軍事参謀。
そして俺は当然、委員長――破教委員会の代表だ。
「はいはい、イチャイチャはその程度にして仕事しなさい」
噂をしていたら、呆れたように息を吐く副委員長さまが部屋に入ってくる。
「二大委員会の動向はどうだ?」
「生徒会は割と大人しいわね。ただ、風紀委員会が少々騒がしいようで……」
「どうした?」
「ここを潰そうとしているみたい。特にゼクスを、ね」
あれから一ヶ月経ったというのに、まだそんなことを考えているのか。
俺としては、バランスよく立ち回っているつもりなんだがな。
寄付金は額を下げて下級クラスの支援という明確な目的を設定。
金額によるランク制を廃止し、成果に応じて立場が変わる制度に変更。
さらに信者を集めて定期的にデモ活動を行う――
これ、聖教委員会と変わらないだろ。
むしろ本来の目的を取り戻したと思うが。
「例の件で風紀委員会はメンツを潰されましたからねー。伯爵家に後れを取ったと、笑いものにされているそうですわ」
「風紀委員が情けないのが悪いな。もっと強いやつをよこせと言っとけ」
俺たちは学園内のサバイバルを生き抜くために動いている。
将来に繋がる実績と地位の向上――与えられた環境を最大限に活かしただけだ。
「あら、勘がいいじゃない」
「ん?」
「その強いやつが来るのよ。風紀委員長っていうね」
ほう、それはそれは。中々面白い相手のご登場ってわけだ。
◇◇◇
「なぁリーン。風紀委員長ってどんなやつなんだ?」
風紀委員室へ向かう途中、俺はリーンに尋ねた。
「一言で言えば合理的。とにかく無駄を嫌うし、効率的に動く人」
「……まさか歩き方まで指導する感じか?」
「それはないけど、仕事には物凄く厳しいよ」
まるで効率至上主義の企業みたいな思想だな。
俺はそういうタイプが苦手だ。
「わたくしは好きよ。無駄がないなんて素晴らしいじゃない」
「アタシは嫌だねー。もっと自由に生きたいよ」
ここでも価値観の違いが出る。サーシャは相性が悪そうだ。
「ゼクス……ありがとう」
「ん?」
「ウチが風紀委員会から解放されたのは、ゼクスのおかげ」
「気にすんな。リーンがいてくれるだけでいい」
「……えへへ」
頬を緩ませるリーン。
バルカンを潰したあと、俺たちはリーンを風紀委員会から正式に脱退させる手続きを進めた。
風紀委員会は彼女を残そうと必死だったが、レアの「決めたのは生徒会でしょ?」という正論に黙らされた。
そしてミホークを経由して会談を重ね、無事に退任。
今では俺たちの破教委員会に所属し、偵察部隊の隊長として活動している。
彼女は隠密行動が得意で、情報収集能力にも優れている。俺が自ら任命した。
「お、おいアイツ……」
「一年で聖教委員会を乗っ取ったって噂だぞ……」
「“公女好き”はどこまで行くんだ……」
だが俺の異名はいまだに“公女好き”のままだ。
聖教委員会をぶっ潰したんだから、もう少し恐れられる異名でもいいと思うんだが。
「なぁレア。俺はこのまま公女好きなのか?」
「一度広まった異名よ? 取り消すなんて無理よ、無理」
「……だよなぁ」
俺が悩めば悩むほど、レアは嬉しそうに笑う。
こっちは結構真面目に気にしてるんだが。
バルカンを倒した時に別の異名でも名乗っておけばよかったか?
あの時は作戦に集中していたし、余裕もなかったんだ。
信者からも“公女好き”と呼ばれている現状。
いつか絶対に変えてやる。
「着いた」
「おぉ……随分普通だな」
「聖教委員会が異常なだけですわ」
たどり着いたのは、ごく普通の教室だった。
ドアには『風紀委員室』と書かれている。
改めて、俺たちの施設がいかに異常だったかを思い知らされながら、俺はドアを軽く叩いた。
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