第81話 モブキャラ、上を知る
「……まさか信者たちがお前たちに付くとは」
「ほんと、無茶苦茶ですわよねー。わたくしも計画がズレまくってますし」
露骨に頭を抱えながら、ため息を吐く風紀委員の姿。
今のところ、風紀委員からは敵意を感じなかった。
ただ静かに状況を見守り、適切な判断を下そうとしているだけのようだ。
さすがにバルカンが落ちれば、諦めるだろうか。
俺としては、このまま引き下がってもらえるとありがたい。
「さてと。お前たちの望んだ“バランス”を崩壊させた愚か者だ――好きにしろ」
「……この男に、組織を率いる技量はなかったか」
地面で伸びているバルカンを指差すと、影のように現れた風紀委員たちがその身体を回収していった。
「俺たちは二大委員会に刃向かう。この組織の規模だ、満足したろ?」
「満足はしない……だが、受け入れざるを得ないな」
彼らは、バルカン不在の組織に価値を見出していない様子だった。
苛立ちを隠さず、近くの柱を蹴り飛ばすと、深く息を吐く。
人間味があって面白いじゃないか。
不気味だった風紀委員会に、ほんの少し親近感が湧いた。
「ゼクス」
柱の影からリーンが姿を現した。
風紀委員たちは彼女を捕らえることなく、ただ静かにその様子を見守るだけだった。
「ウチは、風紀委員を辞める」
「なんだと……?」
青年は予想外の発言に、明らかに戸惑いの声を上げた。
「ゼクスと一緒にいる。ここにいる意味は、もうない」
「生徒会長の許可なしで抜けられると? わがままを言うな」
「その許可をもらえばいいんだろ? 案内しろ」
「……生徒会長は滅多に姿を見せない。基本は他の生徒会役員を通して手続きをする」
普段は隠れて生活しているのか? それとも、格が高すぎて一般人では会えないのか?
俺の知っている生徒会長は、誰からも慕われる気さくな人だったが……。
「あー……じゃあ、ミホークにでも頼むか」
「……ちっ、ヤツと既に知り合っていたか」
露骨な舌打ち。
イベント関係で何度もやり取りしているミホークなら、退任の手続きなど朝飯前だ。
「そんなにリーンが欲しいのか? 風紀委員会ってのは、案外大したことなさそうだな」
「優秀な人材を引き留めるのは当然だ。バランスの維持には、相応の力が求められる」
「くだらないバランス維持に人員を割くとは……面白くありませんわね」
ふふっと、レアが弄ぶように微笑む。
その均衡も、いっそ壊してやろうか。
破教委員会の存在意義は、「弱者の救済」と「二大組織への反抗」。
この二つを突き詰めた結果、もし委員会の勢力を弱めることになっても――構わない。
「それにしても、生徒会と風紀委員会は仲がいいのか?」
「正確には、直属の組織だ。生徒会の意向に従い、風紀委員会が動く」
「ふーん……都合のいいコマってわけか」
明らかに怒っている。手を強く握りしめ、わずかに敵意を向けてきた。
「アイリスが会長なら、もう少し穏便に進むと思うんだがなぁ」
原作の生徒会長であり、メインヒロインのアイリス。
揉め事の多いグランヴァル学園を安定させようと奮闘し続けた苦労人。
平和を願うアイリス派と、それを許さない派閥との対立――あの辺のストーリーは本当に面白かった。
「アイリス? それは誰だ?」
「ん?」
……生徒会長を知らない?
いや、これは聖教委員会の時と同じだ。
ルートの変化で、生徒会長が別人になっている。
「生徒会長の名前は?」
「ユフィス・エンドローム様だ」
その名を聞いた瞬間、俺の時間が止まった。
「ユフィスだと……? 本当に、その名前で合っているのか?」
「あ、あぁ……書類のサインにもそう書かれている」
嘘ではない。本当にユフィスが生徒会長――?
だが、それはありえない。
なぜなら――
「何がおかしいんですの?」
「……彼女は、すでに死んでいるはずだ」
「へっ!?」
原作開始時点で、彼女はすでに亡くなっていた。
(超重要人物だが……こっちではまだ生きているのか?)
ユフィス・エンドローム。
原作ではデストレーダーと学園を繋ぐ黒幕として、数々の悪行を重ねた。
レアとサーシャをデストレーダーに引き合わせ、
リーンの呪いを悪化させる原因を作った――。
この世界における“悪の種”を蒔き続けた彼女が、生きている?
原作の説明では、逆上したレアに殺されたはずなのに。
「ユフィスに会ったことある?」
「ありませんわよ。エンドローム家は王家直属の立場ですのよ?」
「……そっか」
原作で見られた接点もない、か。
まさか、デストレーダーが学園にいるのもユフィスの仕業?
この世界で、彼女は一体何をしている?
「やっぱり会いたいな、生徒会長」
「……まさか口説くつもりじゃないでしょうね」
「それ以外にあるか?」
「はぁ……愚かすぎて声が出ませんわ」
死人の顔を拝めるなんて、気にならないわけがない。
この世界は、まだまだ楽しませてくれそうだ。
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