第78話 モブキャラ、潜入する
「は、初めまして……バルカン様」
広々とした教会の中。
道中には眩いほどに輝く黄金や宝石類が並び、壁には高価そうな絵画まで飾られている。
趣味の悪い成金廊下を抜けた先、最奥で妙なオーラを纏う青年が待っていた。
「これはこれは! Aクラスのライトくんじゃないか! ずいぶん可愛らしくなったねぇ」
「あはは……色々ありまして」
バルカンも知っていたらしい。
それとも、女装姿のライトが妙に目立っていたのかも。
「大丈夫かなー、ライト……」
「大丈夫ですっ。ご主人様がここにいるんですから」
「相手があのバルカンだよー? 不安でいっぱいだよ……」
バルカンのいる場所を柱の陰からこっそり覗く俺たち三人。
俺とユイ、そして隠密魔法で姿を隠しているのがメディだ。
メディがいなければ、俺たちはバレていただろう。
(相変わらず変なオーラ出してやがる……)
常に笑顔を絶やさず、いかにも体育会系のような圧の強さ。
ライトも気圧されているのか、恐る恐る手を差し伸べていた。
リーダーとしてのカリスマ性は確かにある。
だが……正直、身内にはしたくないタイプだ。傍観しているくらいがちょうどいい。
「それで? 何故、我々聖教委員会のもとに来たのかな?」
「えっと、最近メンタルが安定していないので……何か心の拠り所になれる場所を……」
バルカンの信頼を得るために、「悩みを打ち明けろ」とアドバイスした。
心の拠り所、ねぇ……ユイで十分な気もするが、他にも必要なのか?
今度、一緒に遊びにでも誘ってみよう。
「ライト……!! そんなにしんどかったの……うっ、うっ……」
「あわわわ、落ち着いてください……!!」
そしてユイにも負のオーラが伝染。
これは片方が病んだら、もう片方も引きずられるパターンだな。
「なるほど……」
バルカンはうんうんと頷きながらライトの話を聞き、やがて立ち上がると、ライトの手を両手で包み込んだ。
「へっ……?」
「あいつ……!! 殺す!!」
「落ち着け、まだ手は出していない」
ユイの嫉妬心が爆発し、武器を構えて飛び出そうとするのを俺は無理やり止める。
頼む、早く魔法を使ってくれ……このままじゃユイが暴れかねない。
「なら、聖教委員会に入るべきだ。十分な寄付金を出せば、君の心が救われる施術を施そう!!」
すりすりと気味の悪い手つきでライトの手を撫でるバルカン。
ライトは呆然とその様子を見つめていた。
「大丈夫だ……私の目を見てごらん……」
「あ……」
言われるがままにライトが視線を合わせた瞬間、バルカンの緑の瞳が赤く染まった。
「あれは……!!」
人の意思を操る魔法。
対象の思考を書き換え、意のままに従わせる危険な術だ。
ただし、少しでも邪念が混じれば効果は発揮されない——扱いの難しい魔法でもある。
あの野郎、演説のときも使ってたな。
どうりで信者や一部の生徒が熱狂的なわけだ。
「まさかクラスメイトも操られてたの!?」
「かもな。無茶な寄付金や免罪符で何故運営できるかと思ってたが……」
奴の支配下にある限り、信者は無限に金を落とす。
羨ましいが、かなりえげつない集金方法だ。
「さて、ライトを助けに——」
踏み出した瞬間、バルカンの視線がこちらを向いた。
「……曲者がいるな」
「っ!?」
バレた!?
メディの隠密魔法を見破るとは……長居はできそうにない。
「えっ!?」
「ご主人様!!」
俺は飛び出し、バルカンの首元へナイフを突き出す。
だが刃が届く前に、バルカンはのけぞって回避した。
「甘いな」
同時にライトの身体を掴み、メディたちのほうへ投げる。
無事キャッチされたのを確認し、俺は再びバルカンに向き直った。
「どういうことかな?」
「なぁに、ただの検証だ」
洗脳魔法の存在は確認できた。
あとはこいつを倒して、聖教委員会という組織を壊滅させるだけだ。
だが、ただ潰すだけでは足りない。
信者ごと、俺たちの勢力に取り込む必要がある。
(間に合ってるといいが……)
レアたちが動いてくれている例の件。
あれさえ整えば——
「どちらにせよ、私の秘密を知った者を帰すわけにはいかないね」
「秘密? 女装にでも目覚めたか?」
「とぼけても無駄だよ……ゼクス・バーザム!!」
「っ!!」
ダンッ——床を踏み鳴らす音とともに、槍が眉間を狙って突き出された。
「ふんっ!!」
「なっ!?」
だが速さは大したことがない。
受け止めざま、俺は返しの蹴りをバルカンの腹に叩き込んだ。
(思ったほどの実力じゃない……か)
俺が強くなりすぎたのか。
デストレーダーなど強敵との戦いを経て、確実にフィジカルが上がっている。
「デバフが効かない? 何故だ……」
「あぁ、俺が全部無効化してるからな」
「な、なんだと……!?」
さらに、バルカンの得意魔法も俺の魔力充填によって打ち消されている。
過信は禁物だが、この様子なら多少強引に攻めても問題なさそうだ。
「くっ……まさかここまでとは……!」
だが倒すだけでは終われない。
目的は聖教委員会の崩壊と、新たな組織の立ち上げ。
そのために必要なピースは、
「力が欲しい?」
「なっ……お前は……!?」
今、現れた。




