第76話 モブキャラ、思いつく
「長話の間にスライムを召喚するとは……流石ですわね」
「というか、元からいた。監視用に何体か、普段から外に出してるんだよ」
「へー……」
レッドを含めた何体かが、どうしても外にいたいと駄々をこねたからな。
何もない空間じゃ飽きるのも仕方ない。だから、交代制でスライムたちを外に放している。
スライムたちにはそれぞれ自由に行動させているが、レッドに合図を送ればすぐに集合できるよう仕込んである。
そして……あの再生能力とスライム液だ。
(スライムの域を超えてるよな……やっぱリーンの呪いを吸収したせいか?)
リーンの呪いを吸収した個体が、なぜか再生能力を持つようになった。
身体を斬られても、分裂して元通り。
レッド曰く、コアを破壊されない限りは無限に蘇るらしい。
おまけにスライム液をはじめとした魔法攻撃も強化されていて、それが群れで襲いかかるのだから恐ろしい。
原作のスライム液なんて、ネバネバするだけだったのに。
それが接着剤並みに強力な張り付き効果を発揮するとは……
こいつら束になれば、ドラゴンでも倒せるんじゃ?
「ん?」
スライムたちの成長に感心していたとき、
遠くの方から、風を切るようなヒューンという音が聞こえた。
しかもどんどん大きくなっている。
「ダーーーーーリンッ!!」
「うぉっ!!」
流星のように俺たちの近くへ激突したのは……なんとサーシャだった。
涙目で俺を見た途端、勢いよく抱きついてくる。
「何があったんだ?」
「風紀委員を名乗る連中が襲ってきたの!! あいつらダーリンを殺すとかほざいたから、研究所ごと爆破して探しに来たの!!」
「爆破ぁ!? 相変わらず物騒なことが好きですわね……」
それだけ俺を愛してるってことか。探す手間が省けて助かった。
「後はメディだが……透明になれるし、その辺にいるかもな」
「まさか。どこでも現れるメイドさんですけど……」
「ご、ご主人さまぁああああああああ!!」
「……本当にいましたわね」
柱の影がヌルッと揺れたかと思えば、涙目のメディが姿を現し、俺に抱きついてきた。
ちなみにサーシャも抱きついたまま。美少女サンドイッチの完成だ。
「メイさんとメルさんは無事に逃げたらしいですが……黒ずくめの人たちに追われてぇ……!!」
「大変だったな。もう大丈夫だ」
「びぇええええええ!!」
とりあえず全員の無事は確認できた。
さて、問題はここからだ。
「どこに行こうかなー。風紀委員は俺たちを許さないだろうし」
「ですわねー。地獄の果てまで追ってきますわよ」
風紀委員はまだまだいる。
一応スライムたちに周囲を警戒させているが、特に反応はなし。
学外とはいえ、見つかるのは時間の問題だろう。
「ん……?」
「お、リーン。起きたか」
俺におんぶされていたリーンが目を覚ます。
魔法で意識を封じられていたので、魔力充填で無理やり解除してやった。
「ウチは……?」
「風紀委員に追われて逃亡中。今、隠れ家を探してるところだ」
「……ごめん、ウチのせいで」
「アンタのせいじゃないわよ。悪いのはイカれた価値観の風紀委員たちよ」
レアの励ましに、リーンの表情に少しだけ笑みが戻る。
さらに魔力を補充して体力を回復させた後、俺はリーンをゆっくり地面に降ろした。
「隠れ場所なら、知ってる」
「お、助かる」
思わぬラッキーだ。
この様子なら、風紀委員の手が及ばない場所だろう。
「汚いけどいい?」
「掃除すれば済むことですわ。ね、メイドさん?」
「はいっ!! 私におまかせください!!」
満場一致で決定。さっそく隠れ家へ向かうことにした。
道中はメディの隠密で、すいすい進めるはず。
正直、逃げ場所があればなんでもいい。
まずはそこで作戦会議だ。
◇◇◇
「ここ」
「あー……隠れ家というか」
「空き家、ですわね」
たどり着いたのは、スラム街の隣にある古びた家。
屋根も壁もボロボロで、至るところに蜘蛛の巣が張っている。
ギギギ……と建付けの悪いドアを開け、俺たちは恐る恐る中へ入った。
「ゲホゲホッ!! 研究所も大概だけど、ここもなかなかだねぇ」
「あまり管理されている様子はありませんし……最後に来たのは?」
「二日前」
「えっ」
意外と最近だった。
「ここにはちょくちょく来る。裏取引とか、風紀委員に見せられない物を管理するために」
「あー、つまりこの惨状は?」
「掃除嫌い」
「家主の怠慢でしたわね……」
深いため息をつくレア。
何だかんだで彼女は几帳面だからな。
以前、「メイドの仕事を奪わないでください!!」とメディに泣かれていたのを思い出す。
「久しぶりの大掃除!! がんばりますよー!!」
そんなメディにも、やりがいのある職場が見つかったようだ。
掃除は彼女に任せて、俺たちは作戦会議を始める。
「まず、風紀委員をどうしますの?」
「正面から戦えば物量で負ける。それより先に聖教委員会を潰したいが……」
「余計な障害が多いねぇ」
聖教委員会を倒すだけならまだしも、風紀委員まで相手となると話は別だ。
個々の力には限界がある。
となれば、できるだけ手間をかけずに聖教委員会を先に叩くしかない。
「リーンは知っていたのか? 風紀委員が学園全体のバランスを操作してたことを」
「歪んだバランスなのは知ってた。けど、ゼクスに手を出すとは思わなかった」
「思ってた以上に暴れすぎたみたいですわねー……公女好きさん♪」
そんな楽しそうに見るな。
俺はただ、悪役ヒロインたちを救済してただけだぞ。
(あいつらが言う“バランス”において、聖教委員会は絶対に必要……)
正義は生徒会と風紀委員会。
悪は聖教委員会。
だが倒すだけでは終わらない。
一生風紀委員会に邪魔をされていては、こっちも仕事にならない。
(悪役……)
ふと周りを見れば、悪役ヒロインが三人。
そして、俺たちが潰そうとしているのは“悪”の組織。
極論、聖教委員会はいなくてもいい。
同じ役割を果たせる新たな組織があれば、風紀委員会も黙るはずだ。
「……聖教委員会の代わりに、俺たちが“悪役”になる?」
「「「えっ」」」
なーんか面白そうなこと、思いついちゃった。
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