第67話 モブキャラ、宗教を知る
「呼び名? 性欲魔人でいいでしょ」
早速レアに聞いてみたが、さらに酷い答えが返ってきた。
「もっとかっこいいのがいいなぁ」
「えー? そこまで名前にこだわりありますの?」
「生徒会にも公女好きって言われたんだぞ? 気に入ってはいるが、氷結姫みたいなのが欲しくて……」
いくらなんでも性欲魔人はよくない。
ド変態みたいな称号が二つもあるなんて、誤解されるに決まってる。
……誤解、っていうより事実か?
ええい、とにかくかっこいい呼び名が欲しいんだ。
「そうね、だったら……」
後ろに手を組みながら、くるっと振り返るレア。
「貴方の恐ろしさを学園中に広めましょ。公女好きの怪物さん♪」
あざとく弄ぶような表情に、思わずドキッとした。
確かに、俺が何をしたかなんて周りの連中は知らないよな。
もう少し悪名高いことでもしてみるか?
例えばスライムじゃなくてドラゴンを引き連れたりとか。
「あ、ここは通らない方がいいわね……」
「ん?」
廊下を抜けて広いフィールドに出たとき、
レアはとある建物を見て、迷わず引き返した。
「あれって……」
「聖教委員会の施設よ。エルファリア教を主軸にした宗教委員会ね」
「あー、エルファリア教かぁ……」
嫌な思い出が蘇る。
廊下で少し嫌味を言っただけで詰め寄ってきたあの姿。
場を収めるためとはいえ、俺も免罪符とかいう変な紙を買わされたからなぁ。
ちなみにその免罪符は今も財布の中に入れてある。
何かに使えるかも、と思って。
「聖教委員会ってなんで成立してるんだ? エルファリア教ってグランヴァルじゃ流行ってないだろ」
「はっきり言ってしまえば……必要悪、というやつですわ」
「必要悪?」
いまいちピンときていない俺に、レアが説明する。
「宗教って、良くも悪くも対立が激しいの。特にエルファリア教は信者が過激で、何か不満があればすぐデモを起こすような連中」
「殺伐とした環境作りのために、“あえて”放置しているわけか」
「風紀委員会だけでなく、生徒会とも敵対していますからねー。そういう派閥は学園では珍しいのよ」
確かに宗教は身内に甘い分、外部にはやたらと否定的だ。
教えこそが全て。それ以外は敵。
信者同士の結束が強いから、派閥としても意志の統一がしやすい。
イエスマンばかりでは争いは生まれない。
反抗勢力があることで初めてバトルが生まれ、環境はより殺伐なものへと変化する。
必要悪という立場も、なんとなく理解できる。
(ここまで過激だったか……?)
しかし、原作勢の俺からしたら不可解な点も多い。
原作だとビラ配りする程度で「入りたい人は入ってね」くらいの温度感だったはず。
周囲からの評価も「ちょっと変わった組織」だったが、この世界では完全に過激宗教に成り下がっている。
まあ原作では貴重なMP回復アイテムを売ってくれる場所という認識だった。
メインストーリーにもほとんど関わらないし、リーンに敵対するような描写もなかった。
「なぁ、聖教委員会の代表って誰かわかるか?」
「確かミレイユ公爵家のバルカンでしたわね。わたくしも交流はありませんが」
「バルカン……誰だ?」
誰だそいつ。
本来の聖教委員会の代表はナターシアじゃないのか?
おしとやかで、常にニコニコしている聖女みたいな人――
それが俺の知らないキャラに置き換わっている。
かなり変な方向に向かってそうだな……。
「バルカンはお金が大好き。そしてウチが大嫌い」
「お、いたのかリーン」
気配もなくスッと姿を現すリーン。
「お金が好きなのか……あの免罪符とか?」
「それだけじゃない。信者に多額の献金を要求して、払えない者は問答無用でランクを下げる」
「ランク?」
「信者としての信頼度や格。払えば払うほど、バルカンから信頼され、手厚く保護されるの」
「お金に汚い組織ですわね……」
まるで配信者のサブスクみたいなものか。
上のプランに行けば行くほど、豪華な特典がもらえるってやつ。
「金で支配された組織に、信者がついていくのか?」
「一応、見返りはそれなりにある。バルカンが公爵家の人間だからってのも大きいけど……」
「けど?」
呼吸を挟んで、リーンが低く言う。
「彼には不思議なカリスマ性がある。正直、彼の顔はあまり見ない方がいい」
意味深な評価。
知らないキャラであることも含めて、バルカンという人間がますます謎に包まれていく。
(というか男だったのか……)
代表の性別まで変わっている。
これは完全に別キャラへ置き換えられたと考えていいだろう。
できれば関わりたくないが……リーンのことも含めて、何か仕掛けてきそうなんだよなぁ。
ま、その時に考えればいいか。
「それで? 素材は集まる?」
「スライム液は召喚獣で確保できるし、デバフ用の聖なるハーブを仕入れるお金も手に入った」
「聖なるハーブって、物に付与された魔法効果を下げる薬草のことでしたわね?」
「そうそう、ちょっと高いけどな」
フィールドロワイヤルが想定以上の収益を出してくれたおかげで、十分な量を確保できた。
スペシャルマッチに関しても、Bクラス以上の連中から「憂さ晴らしさせろ!」と要望が集まっている。
中でも一番驚いたのはブーロンからだった。
“俺様が出ればもっと盛り上がるぜぇ!”と自信満々だったが……いや、確かにSクラスが出たら盛り上がるだろうけどさ。
「期待外れ。ウチの呪いは聖なるハーブで無効化できない」
「無効化じゃない。ま、これだけだと呪いに打ち消されるから……」
強すぎる付与魔法に聖なるハーブを使っても、ただ魔法が消えるだけで、肝心の効果は発揮されない。
だからこそ一工夫するわけだ。
「後、必要なのはリザードマンのコアだ。ダンジョンに潜るぞ」
最後の鍵は、ダンジョンに眠っている。
また作業の始まりだ。もうひと踏ん張りしよう。
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