第64話 モブキャラ、計画する
「ウチが風紀委員会にいるのは、呪われた存在に居場所を作るため。そうするように、生徒会長から指示された」
「生徒会長自ら?」
「君の存在意義は“裁き”だって」
やけに抽象的な言い方をする。
誰かを裁くことがリーンの存在する意味なのか?
……まあ、風紀委員という仕事を考えれば納得はできる。
「それに実力もあるし見た目も可愛い」
「言い切るねぇ……」
「リーンは二年のSクラスだぞ?」
「「「えっ」」」
そんなに驚くか?
平民出身だからAクラスくらいだと思っていたのかもしれない。
「そろそろ時間。またね」
小さく手を振りながら、リーンはその場を立ち去る。
その背中はどこか楽しげに見えた。
「平民からSクラス……凄い方ですわね」
「そんなにですかー? まあ、Sクラスに行けるだけでも凄いとは思いますが」
「学習環境も整っていませんのよ? 平民ならBクラスでも相当優秀な部類ですのに……」
確かに、魔力充填でやらかした件を含めても、彼女は決して恵まれた環境ではない。
どんな経緯で実力をつけたのかは不明。
だが、Sクラスにいるということは、マヤ先生が認めたということだ。
俺と戦ったときもそう。完璧な気配遮断で俺を欺いてみせた。
その気になれば、俺でも殺されるかもしれない。
◇◇◇
「ゼクス、ちょっといいかしら?」
「ん?」
退屈なお昼の授業も終わり、寮内でのんびりあくびをしていた時。
レアが真剣な表情でこちらにやってきた。
「貴方、あのリーンって人に興味があるのね?」
「あぁ。中々面白いやつだと思ってな」
「……やっぱり」
彼女も悪役ヒロインだ。
ならば、救うしかないだろう。
あと、普通に可愛いし。
「そろそろ自分の立場を理解した方がいいわよ」
「立場?」
「そう。貴方が生徒たちから何て呼ばれているか、知ってますの?」
「いや全く。他人の評価なんて気にしてない」
「わたくしと一緒ね、ふふっ♪」
レアらしい。嫌われても突き進む、その強い意志は本当に尊敬する。
で、俺がなんて呼ばれているか。
別に噂になるようなことをした覚えはない。
「俺の呼び名は?」
「“公女好きの怪物”ですって」
なるほど。そういう方向性で来たか。
俺は伯爵家の人間。
レアは侯爵家、そしてサーシャに至っては王家と縁のある公爵家の娘だ。
そんな二人と親しく一緒にいれば……
噂の一つや二つ、流れてもおかしくないか。
「貴方は C〜D の下級クラスからの支持が高いの。なぜかわかるかしら?」
「……格上を口説いているからか?」
「その通り。ゼクスが成り上がる姿に、平民や下級クラスが希望を見ているのよ」
「成り上がり、ねえ」
別に名を上げるつもりはないが、口説くための材料としてはそれなりの地位と力は欲しい。
下級クラスからの支持を集めているのは、正直想定外だった。
そういえば最近、下級クラスの近くでゴミ拾いをしていると、生徒たちから妙に尊敬の眼差しを向けられることが増えた。
好意を見せて油断させる作戦かと思っていたが……違うらしい。
「で、俺にどうしてほしい?」
「アピールしてほしいの。アリーシャみたいなイベントを開いて」
「……生徒会か?」
「よくわかってますわね」
レアが求めることは手に取るようにわかる。
これまでずっとスカーレット家のために動いてきたのだ。
「やっぱり生徒会に入れば、スカーレット家の立場は良くなるのか?」
「よくなる、どころじゃありませんわ。王族から絶大な信頼を得られると考えて」
「確かに、王に好かれて損はない」
生徒会は公家筋にとってぜひとも欲しい地位だ。
卒業後の足場を固めるうえでも、強力な経歴になる。
「平民出身や下級クラスからの支持は、生徒会や風紀委員会、聖教委員会ではなかなか得られないの。貴方が表に立って指揮すれば……」
「浮いている層を一気に取り込める」
「そういうこと♪」
つまり、レアは自分の弱点を補うために俺を利用しようとしているのだろう。
貴族としてのコネや地位はあるが、平民や落ちぶれた層との接点が薄い。
そこを、下級クラスに人気のある俺で補う算段だ。
「ゆくゆくはスカーレット家を王家と深い関係を持つ公爵家にまで育てたい。貴族社会では、権力がすべてなので」
彼女の怪しげな笑みからは、侯爵令嬢としての品格と野心がにじみ出ていた。
その凛としたオーラに、俺は思わず感心する。
「で、リーンは何の関係があるんだ?」
「あの子は平民出身だろ? それでいてSクラスで風紀委員にまで入っている」
「ああ、俺みたいに下級クラスから人気があるからか」
「そういうこと」
利用できるものは利用する、ということか。
骨の髄までしゃぶり尽くすつもりかもしれない。
「イベントにも絡めたいけど……立場上難しそうね」
「ふむ……」
確かに風紀委員が表だってイベントに出るとは考えにくい。
最悪、参加できなくても構わない程度の扱いだろう。
(死体はいいよ。何度触っても壊れないから)
リーンの死体に対する執着を思い出す。
「……うまくいけば、ワンチャン何とかなるかもしれない」
「ほんとですの?」
「ちょうど治療用の素材が必要だった。資金確保のために全力を尽くそう」
もしかしたら利用できるかも。
俺は椅子から立ち上がり、寮のドアへと向かった。
とりあえずリーンを探して話をしよう。
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