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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
4章 モブキャラ、生徒会を目指す

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第60話 モブキャラ、新しい悪役ヒロインに出会う

「……ふわぁ」


 差し込む朝日と共に目を覚ます。

 同時に、手のひらに柔らかい感触が伝わってきた。

 無意識のまま揉み続けていると、長い赤髪に隠れた顔がこちらを覗き込んでくる。


「ダーリン、おはよ♡」

「ん? あぁ、サーシャか……」


 一糸まとわぬ姿。

 彼女は布団をめくり、自慢のスタイルを惜しげもなく晒す。

 相変わらず綺麗だな……前世の世界ならモデルでもやっていそうだ。


 軽くキスを交わした後、俺は上体を起こした。


「アタシ、まだちょっと眠いなぁ……」

「あぁ、わかった」


 サーシャはお尻を突き出して、くねくねと身体を動かす。

 一見意味のない仕草だが俺にはその意図がわかる。

 手を振り上げて、


「っ!! あぁ、いい……♡」


 パチン、と乾いた音が響く。

 サーシャの白い尻には真っ赤な手形が刻まれた。


 時々こうして叩かれたいらしい。

 しかも魔力充填で傷跡を消さないでと頼んでくる始末。

 最初こそ少し戸惑ったが、段々俺もノリノリになってきている。


「わたくし達を相手にしたのに、随分と元気そうですわね」

「魔力充填があるからな。精力もすぐ回復する」

「……こっちの身体が持ちませんわよ」


 声の主はレア。

 彼女もまた、何も身につけていない。


 寮に戻った俺たちは、やることをやってそのまま眠り込んでいた。


 二人を相手にするのはさすがに体力を削られる。

 だが魔力充填さえあれば、何度でも立ち上がれる。

 魔力の続く限り無限に。


 そんな俺を見て、レアは小さくため息をつきながら自室へ戻っていった。


 ◇◇◇


(一応、主人公の様子でも見ておくか)


 アリーシャの件もあって原作キャラの動向が気になる。

 全ヒロインを追う余裕はないが、せめて主人公だけは道を外れてほしくない。

 ……まぁ、ルートによってはデストレーダーと手を組む展開もあるんだけど。


「お、いたいた」


 Sクラスの一つ下、Aクラスの教室。

 人だかりの中に、目的の青年……ライトがいた。

 俺が軽く手を振ると、驚いたようにこちらへ歩いてくる。


「久しぶりだな、ライト。入学試験以来か?」

「え? 君は……あの時の……?」


 お、覚えてたか。

 あの時話しかけておいて正解だったな。


「学園生活、慣れてきたか?」

「う、うん……周りの圧がすごいけど、なんとか……」

「そうか」


 ライトの顔からは疲労が浮かんでいる。

 瞳もぼんやりしていて、まともに寝ていないのが見て取れる。

 ……やっぱり苦労してるな。


 Aクラスは蹴落とし合いが日常だ。

 勉強も実技も、奇襲や闇討ちも当たり前。

 Bクラスから喧嘩を売られることすらある。

 

「まぁ、気にすんな。ライトはライトの道を行け」

「俺の……道?」


 心が折れかけてるな。

 才能の塊なのに、もったいない。


「結局どうなろうと、自分で選んだ道が将来に繋がる。だから、迷っても自分のやることを信じて突き進め」

「……なるほど」


 他人は他人。自分は自分。

 芯さえ折れなきゃ、何度でも立ち上がれる。


(主人公には頑張ってもらわないとな……)


 ライトは本当に優秀だ。

 伸びしろも戦術理解も抜群。

 自信がなさげな雰囲気の中に、何でも受け入れるおおらかさも持ち合わせている。

 そこに惹かれるヒロインも多いわけだ。


「ライトー!! 早く行くよー!!」

「待ってよユイ!! それじゃ!!」


 元気な声に呼ばれて、ライトは教室の奥へ飲み込まれていく。


(あれは……)


 ユイ・ナビーユ。

 主人公の幼馴染で、原作ヒロインの一人。

 まさかAクラスにいるとは思わなかったな。


「あの人ってSクラスのゼクスだよね? 変なこと言われなかった?」

「ううん? “俺の道を行け”ってアドバイスしてくれた」

「えー!? それ期待されてるんだよー!!」

「そうなのかなぁ?」


 少し安心した。

 全員闇落ちルートに行くのかと思ってたが、ユイは変わらず彼を気にかけている。

 あの子がいるなら、しばらくは大丈夫だろう。


(……俺も戻るか)


 微笑ましい二人を見送り、俺はSクラスの教室へ向かった。

 とりあえず最低限のアドバイスはできたし、また時間を見て様子を見に来よう。


 ——ただ、その言葉がライトを“妙な方向”に導くのは先の話。


「ん?」


 人の少ない広場に出たとき、俺はふと立ち止まった。


(今の気配……)


 背後に“誰か”の存在を感じる。

 振り返っても、そこには誰もいない。


 風で木々が揺れただけ……そう思いたいが、胸の奥がザワザワする。

 何気ない日常に何かが紛れている。

 まるで、俺を監視しているような……


 ビュンッ!


「っ!?」


 足元に突き刺さる矢。

 やはり敵か!


 俺はすぐさま飛び退き、近くの木陰へ身を潜めて周囲を観察する。

 敵影は見えない。矢以外に異変もない。


 デストレーダーの仕業か? あいつら、厄介な魔法をいくつも持ってるしな。

 まぁ、恨まれても仕方ないことをしてる自覚はある。


「ん?」


 矢の周囲に黒い”もや”が。

 粒子状の黒煙が矢を包み、地面をじわじわと黒く染めていく。


 ははーん。

 こいつの正体がわかったぞ。


「リーンだろ! 姿を見せてくれ!!」


 まさか三人目の悪役ヒロインと出会えるとはな。

 少し早い気もするが……まぁいい。


「……霊装・三連撃」

「っとぉ!」


 小さく呟かれた瞬間、虚空から黒い矢が三本、一直線に飛んできた。

 正体がバレてもなお、隠れる気はないらしい。

 らしいといえばらしい。


 俺は襲いかかる矢をギリギリまで引きつけ、前へと飛び出して回避する。


「まだ来るか……間違いないな」


 直線に飛んだ矢が、空中で軌道を変えて再び俺を狙う。

 魔力による誘導操作。

 逃がさないという執念を感じる。


 いいね。こういう厄介なタイプ、大好物だ。


「ふんっ!」


 ブゥンッ!

 俺は空中で光装剣を展開し、飛来する三本の矢を斬り払う。


 さて、問題は彼女の位置だ。

 矢の軌道から見て、俺の死角にいるのは間違いない。


 背後は校舎の壁。正面も違う。

 残るは左右のどちらか。


 右は開けたベンチエリア、左は木々の生い茂る森側。

 隠れるなら当然左だ。


 もし俺がスナイパーなら、どこに潜む?

 視界と遮蔽のバランスを考えれば——


「そこだっ!!」

「っ!?」


 俺は狙いを定め、左の木々に向けてクラッシュビーンズを投げ放つ。

 小さな弾が炸裂し、木々をまとめて吹き飛ばした。

 爆風が俺のいる場所まで押し寄せるほどの威力だ。


「……よくわかったね」


 空気が歪み、揺らめいた光の中に人影が現れる。

 黒いフードの少女が、地面に膝をついたまま姿を露わにした。


 太陽光に照らされた銀の髪が淡く輝く。

 小柄な体にフリルをあしらった衣装。

 無表情だが、くりっとした瞳はまるで人形のように愛らしい。


 リーン。

 この学園でも数少ない平民出身。

 そして風紀委員にして、悪役ヒロイン。


「狙われても逃げやすい場所は多い方がいい。だから真ん中にある三本の木……そのどれかに隠れてると思った」

「……でも、正確な位置まではわからない」

「簡単な話だ。全部爆破すればいい」


 指に挟んだクラッシュビーンズを軽く弾いてみせる。

 わずかに開いた口。驚いてるな。


「戦いこそがコミュニケーション。この奇襲も、リーンにとっては“挨拶”みたいなもんだろ?」

「そこまで知ってるの……何者?」

「生まれ変わった伯爵貴族だ」

「え?」


 お馴染みの反応。逆に安心する。


「風紀委員として、ゼクス・バーザムを見極めに来た」

「どうだ? 中々厄介だろ?」

「……面白い人」


 彼女も何かを抱えている。

 その厄介さが、後にデストレーダーと手を組む要因になるわけだが……

 ま、今はいい。


「そうだな。時間ができたら、お前の“呪い”も何とかしてやる」

「……どこまで知ってる?」


 リーンの瞳がわずかに揺れた。

 やっぱり面白い。

 この世界はまだまだ退屈しそうにない。

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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