第59話 モブキャラ、公爵家に行く
「ご主人様~!! 本当にありがとうございますぅ!!」
「「助かりましたー!! 流石はゼクス様!!」」
「無事ならいいんだ」
魔装結晶による副作用と怪我を治していく。
まさか三人が狙われるとは思わなかった。
護衛用にこっそりスライムを付けた方がいいかも。
今度、レッドに相談しよう。
「……こうなるとはな」
遠くを見れば、氷漬けになって気絶しているアリーシャの姿。
サーシャに挑み続けたあげく、禁じられた魔装結晶にまで手を出す姿。
サーシャの事ばかり考えていたが、その副産物でアリーシャが闇落ちしてしまうなんて。
(原作キャラにも一応注意した方がいいか)
俺が運命を変えすぎているからか、この世界全体に大きな変化が起きている。
深く干渉する予定はないが、気に掛ける程度に様子を探った方がよさそうだ。
「ダーーーリンッ♪」
「わぷっ」
俺の姿を見た途端、犬のように俺へ飛びつくサーシャ。
まだ魔力充填で回復しきっていないから、色んな部位が痛い。
「大丈夫だった? 痛い所は? ちゃんと殺せた?」
「あぁ。消し炭にしてやったよ」
「流石ダーリン♡ 誰にも止められないね♪」
ご褒美に口づけをかわす。
女の子とイチャイチャするだけで癒されるとは、俺は単純だ。
欲を言えば胸かお尻も触りたい……
と思っていたら、自ら手を掴んでお尻に誘導してくれた。
なんでわかったんだ?
「どうする?」
「そうだなぁ……ジャババはマヤ先生に渡したら喜びそうか」
「喜ぶの……ぐちゃぐちゃの死体を……?」
「魔装結晶を二本挿ししてたからな。特異な身体に興味はあるだろ」
マヤ先生が求める面白い話題としてピッタリだと思う。
とりあえず死体がこれ以上、壊れないよう氷漬けにしてもらった。
「アリーシャは実家に帰した方がいいか」
「そうね。このままDクラスまで落ちぶれても困りますわ」
「アタシからも説明するよ。まぁ、何かしら言ってくるとは思うけど」
クラウン家かぁ。嫌な予感しかしない。
期待していたアリーシャは二度も失態を犯し、
逆にスルーされていたサーシャは俺に狂気的な愛を向けている。
首輪をつけた次女の姿をどう思うのか……
「……はぁ」
「どうしましたの?」
「いや、アリーシャの事まで考えてなかったなって」
思わずため息を吐く。
なんかなー。全部が全部、俺の思い通りにならないってのは理解してるけど。
頭を悩ませる俺の顔を、レアの両手がガシッと固定する。
「貴方は全世界の人間を幸せにできると思ってますの?」
「……無理だな。というかやる気もない」
「ふふっ、都合よく考えましょ♪」
ま、目的は果たせているか。
レアの励ましで色々吹っ切れた。
「ねぇ、ダーリン」
「んー?」
「お姉様を実家に帰すならさ、ダーリンも一緒に来てよ」
「クラウン家か……連休だしちょうどいいな」
もう五月。この世界にもゴールデンウイークみたいな概念があるらしい。
特にやる事もないから実家に帰省しようと思っていたが。
クラウン家と話を付けるのにちょうどいい。
「わたくしも行きたいですわねー。……絶対こじれると思うので」
「あぁ……そうだな……」
「ん?」
逆にレアがいてくれないと困る。
自慢の娘達の変わり果てた姿を、俺だけでは説明しきれないから。
◇◇◇
「こっちがアタシのダーリン。で、さっき運ばれたのがお姉様なんだけど……」
「「……」」
少し日が経ってクラウン家。
ウチよりも質のいいソファに座りながら、顔合わせが始まったわけだが……
開幕からカオスな予感がしている。
「あばばばば……」
「エルナ!? しっかりしろ!!」
「お母様!? 大丈夫ですか!?」
あぁ、うん……そうなるよな……
アリーシャは死んだ目をしながらピクリとも動かない。
サーシャに至っては変な首輪をつけている。
外す事も提案したのだが、「むしろ顔合わせだから豪華にしたい!!」と、金色に輝く派手な首輪に変えてしまった。
アクセサリーにしても目立つ。
「……やっぱそうなるよな」
「……お二人からしたらたまったものではないわね」
一応、手紙でざっくりとした経緯は伝えてあるんだけどね。
それでも目の当りにしたら……気絶したくもなる。
「コホン……話を整理したい」
「あぁ、それは俺から……」
俺はこれまでの経緯を事細かに説明していく。
クラウン家の当主は頷きつつ、時々を頭を抱えるような仕草をしながら、俺の話を黙って聞き続けた。
そして話が終わった時。
深いため息と共に、当主の口がゆっくり開かれる。
「……なるほど。アリーシャがそのような事に」
「俺としても魔装結晶に手を出すとは思っていませんでした」
「私もだ……優秀かつ行動力もあって、クラウン家の当主としての品格があったのに」
期待の娘がこの有様ではな。
サーシャも認めていた部分だ。
未来の当主として順調に道を進んでいくはずだったのだが……
運命は変わってしまった。
「それで、サーシャの首輪は何だ?」
「アタシはダーリンのモノってこと♡」
「……扱いに差をつけた我々にも責任はある。ゼクスくんも気に病まないでくれ」
「はぁ」
意外と寛容だな。
アリーシャの事もあって、何かしら告げ口してくると思っていたが。
「育て方を間違えたな……まさか姉妹揃ってこんな有様になるとは……」
予想外の結末。両手で顔を覆い、頭をつっぷくさせる。
恐らく、クラウン家の将来について色々考えているのだろう。
サーシャも成長したとはいえ、色々癖が強いし受け入れるには少々時間がかかりそうだ。
「お久しぶりです、ヴィセフ公爵」
「スカーレット家の……伯爵家の息子と婚約を結ばれたと聞いたが……」
「えぇ。隣にいる彼がわたくしのパートナーですわ」
と、今まで静かだったレアが話し始めた。
「どうでしょう? ここはゼクスとサーシャ様が正式に婚約関係になるのは?」
「なっ!?」
なんとなく予想していた提案。
だが、レアから持ち出されるとは思ってもなかったらしい。
「今のクラウン家は、未来の当主候補二人が危うい状態。そこで関係の深いゼクスと婚約を結べば……」
「相手は伯爵家だぞ? 王族や公爵家からの印象が……」
「だからわたくしが来ましたの」
クラウン家が懸念している事。
それすらレアは見抜いており、代案を考えていた。
「アリーシャ様が魔装結晶を使用しましたわね? 公爵家の当主候補ですのに」
「っ……我々を脅すつもりか」
「いえいえ。わたくしは素晴らしいプレゼントをご用意しましたの」
「プレゼント……だと?」
ふふっと頬を上げるレア。
「もしバーザム家との婚約に前向きになってくだされば、スカーレット家として最大限支援を約束しますわ」
「なんと!? スカーレット家が後ろにつくとは……」
「クラウン家とは今後も仲良くさせていただきたいので……ね?」
上手い交渉だ。
スカーレット家は侯爵家としてかなりの権力を持っている。
地盤が危うくなりつつあるクラウン家を支援するとなれば……
「前向きに検討しよう。サーシャも気に入っているようだしな」
「「ありがとうございます」」
吊るされた蜘蛛の糸に迷わず手を掴んだ瞬間。
頭を下げた後、二人は扉を開けてどこかに行ってしまった。
「やったぁ!! これでダーリンのお嫁さん♡」
「だな……アリーシャに対して色々言ってたのに、いいのか?」
「それとこれとは別ですわ。後、サーシャが当主になる方がありがたいですし♪」
まさかアリーシャを引きずり落としたかった?
そこまで考えていたとは思えんが……
ま、婚約はほぼ成立した。
夢のハーレムライフにまた一歩近づいたな!!
次は……あの子かな?
「……ウチ、呼ばれた? 気のせい?」
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m(_ _)m




