第58話 お姫様コンビ、ケリをつける
side:レア
「アハハハハッ!!」
「随分と楽しそうですわね……!!」
わたくしとサーシャの猛攻を軽やかに回避していく。
まるでステージに立つ踊り子のよう。
力強い戦術から一転した姿に、わたくし達も焦りを感じていた。
「氷結弾!!」
「そんなの効きませんよ!! はぁ!!」
牽制で放つ氷の弾。
それらを大剣のなぎ払いで粉々に砕いていく。
(ここは一旦距離を取ってから……)
弾丸を飛ばしながら、後方へ徐々に下がっていく。
スピードに極端な差はない。アリーシャの決定打となる魔法は近距離のみ。
サーシャと同じように、距離を保ちつつエリアを制圧する戦い方で追い詰めようとしたのだが、
「グランドウェーブ!!」
「「なっ!?」」
力強く振るわれた大剣から衝撃波の塊がビュン!!と飛んでくる。
慌てて右方向へ飛んで回避。
衝撃波が通り過ぎた地面がズタズタに引き裂かれていた。
「あんな事できたの?」
「アタシも初めて見た……」
「ってことは……」
新しい魔法。魔装結晶の影響かしら?
この短期間でものにしているなんて。
「魔装結晶が教えてくれたんですよ。私の中に秘められた可能性を」
「へぇ……」
そういえばザクネスも妙な魔法を使っていた。
魔装結晶は使用者に新たな魔法を授けるの?
以前よりも強くなったと気持ちよさそうに語り出すアリーシャ。
なんとも滑稽な姿だ。自分が強くなった経緯を理解していない。
「違法道具がないと開花しない才能なんて、大したことありませんわね」
「っ……!!」
魔装結晶なんて本当の強さではない。
違法行為に甘えてしまうとは、アリーシャの心の弱さが知れる。
「侯爵家如きが!!」
「公爵家の面汚しに言われたくありませんわ!!」
反発するように剣を振るい続ける。
強い言葉で反論し続けるも、形勢が逆転したわけではない。
むしろ追い込まれていた。
「一斉攻撃!!」
「くっ……!! サーシャ!!」
固まった状況をサーシャのシールドビットが切り開く。
わたくし達の間に差し込む形で飛ばされ、アリーシャの動きを阻害する。
「アンタは絶対に許さない。アタシが愛するダーリンを殺そうとした……地獄に行っても呪い殺してやる……!!」
「随分と変わって……私に勝って調子がいいみたいですね」
「あー……そう、かしらね……」
多分、ゼクスが原因だと思うけど。
ここまで狂気的な愛を向けるとは思わなかったわ。
「超加速!!」
シールドビットをメインシールドに集めた後、そのままブースターで上空へ飛び上がるサーシャ。
「私を見下すように飛び回って……ムカつきますね」
「よそ見してていいのかしらっ!!」
「くっ……どいつもこいつも、私の邪魔ばかりして……!!」
いくつもの氷の弾丸を放ち、アリーシャを後ろへ下げていく。
見苦しい嫉妬。
二つの障害がアリーシャの精神をより負の側面へと追い込む。
「クラウン家に相応しいのは私です!! この力で本当の勝利を手に入れてみせます!!」
爆発する思いに従うよう、アリーシャは更なる魔法を披露した。
「剣が……更に大きくなった……!?」
「確か超加速、でしたね?」
「まさか!!」
一回り大きくなる大剣。
それを投げ飛ばすと、アリーシャは宙へと舞い、
「っ!? そんな武器知らないよ!?」
大剣に両足を乗せ、上空へと急速に飛び上がった。
「いつまで自由にできると思いましたか!! はぁああああああ!!」
「ぐっ……!!」
勢いのままにサーシャに突っ込んでいく。
致命傷こそ盾で防いだが、大剣による重い一撃がサーシャの身体を地へ叩きつける。
「あぁ素晴らしい。天が私のものになったみたいです……ふふふ」
一方的にやられた空での戦いを制した。
その事実がアリーシャの心を更に高ぶらせる。
「一斉展開!!」
「遅い!!」
苦し紛れに展開したシールドビットが高速で駆け抜ける。
だが、空を飛ぶアリーシャには遠く及ばない。
完全に展開しきる前に、再び距離を詰められる。
「もう一度、底辺に落ちればいいんですよっ!!」
「がぁああああああああ!!」
そして、サーシャの胸元へ大剣が深く突き刺された。
「何ですか? そんな攻撃当たりませんよ?」
「……ちっ」
わたくしも攻撃し続けている。
なのに、一切当たらない。
あの大剣に乗り始めてから、アリーシャの速度が尋常ではない加速力を発揮している。
(どうすれば……)
正面で戦っても勝てない。
何か策を……閃いた。
「まだ飛べるわね?」
「……お姉様を殺すまで戦うよ」
「その意気。さ、行きますわよ!!」
これならアリーシャを止められるかも。
ふらつく足で立ち上がり、サーシャは再び上空へ飛び上がる。
「また同じ事を!! 何度も叩き落としてあげますよ!!」
「叩き落とされるのはお姉様の方だ!!」
シールドビットがアリーシャを通り過ぎる。
致命傷による影響か、攻撃の焦点が合っていないように見える。
何ともチグハグな挙動にアリーシャはさらに笑みを増していく。
「ふん……どこを狙って……」
弱っていく妹の姿にアリーシャが油断していた時、
「氷結槍」
「なっ!?」
通り過ぎたシールドビットから氷の槍が射出される。
「たまにはわたくしの方も見た方がいいですわよ?」
「ゲホッ……地上にいる貴方にできることなんて限られています!! どの道、私の方が……!!」
腹部に刺さった氷を力任せに抜く。
「いえ、貴方はもうおしまいですわ」
一発当てれば十分。
本当の勝利を確信したわたくしは思わず頬を緩める。
「ガッ!! な、何故!? 私の身体が……!?」
パキ……パキキ……
アリーシャの身体が徐々に凍り付いていく。
傷ついた腹部を中心に。
「たかが侯爵令嬢……誰かれ構わず舐めているから、わたくしに負けますのよ」
「そ、んな……ぐ、あああああああ!!」
氷の槍を刺した時。
傷口を通って、アリーシャの内部へ氷の破片をねじ込んだ。
欠片さえあれば、わたくしは氷を自由自在に操れる。
体内に入り込んだ氷が肥大化して、彼女の身体を凍り付かせたというわけだ。
「さてさて、遠慮なくどうぞ♪」
「や、め……!!」
もうアリーシャは動けない。
愚かな罪を重ね続ける彼女を、サーシャは鋭い視線で睨み付ける。
「シールドインパクトッ!!」
「があああああああああああ!!」
そして怒りの籠った盾の一撃が、アリーシャの身体にモロに入る。
とてつもない轟音を放ちながら地面に叩きつけられ、アリーシャはピクリとも動かなくなった。
「その首、もらっ……」
「待って。彼女は生かした方がいいですわ」
「なんで!! お姉様はゼクスを……」
「貴方に降りかかる面倒事。それを押し付ける相手としてぴったりですわ」
どうせ凍り付いて動けない。
アリーシャにはクラウン家としての地位があり、生きている限り逃れることはできない。
メンタルが不安定とはいえ優秀ではあるのだ。
実家でもそれなりに仕事をしてくれるだろう。
「死ぬよりも辛い現実があるって事をアリーシャには理解してもらいましょう……ふふっ♪」
都合よく利用できるかも。
公爵家という最高のエサを手に入れて、上機嫌になるわたくしがそこにいた。
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