表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
3章 モブキャラ、修行する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/99

第57話 モブキャラ、限界を超える

「まずは二人を……えっ」


 伯爵娘二人がいない。

 と、思ったら遠くの柱にスライム達が張り付けている。メディも一緒だ。

 流石レッド、仕事が早い。


「僕は強いよー? 舐めてると死んじゃうかも!!」


 後方から迫る人形。

 そいつをナイフで斬り倒した後、俺は足に力を込める。


「そこか」


 ギュンッ!!と加速し、召喚途中の人形を粉々に壊す。

 いくつもの魔法陣。それらが展開される場所はもう見破っている。


「へぇ、凄いじゃん」

「ずっと見ていたからな」


 魔力充填で強化した目が、魔力の痕跡を逃がさず捉える。

 一通り破壊した後、俺はすかさずジャババへと急接近し、ナイフを横に振り払った。


「ワンパターンだなぁ!! そんなんじゃ勝てないよ!!」


 ナイフが当たるよりも先にジャババの姿が消えた。

 人形は全て破壊したはず。なのに転移ができるって事は……


 足元に小さい人形?


(色んな所に隠してるのか……)


 仕組みがわかった。

 至る所にただの人形を設置し、自由に転移できるようにしていた。

 

 召喚人形と違って、ただの人形に魔力は存在しない。

 故に気配も感じなければ、石や木と同じオブジェクトとして脳が認識してしまう。


 考えたな。

 

「レッド、いけるか?」


 ならば全部見つければいい。

 レッドに話しかけると、身体をぐいんぐいん伸ばして指示を出し始める。

 すると、瓦礫と化した校舎跡から何匹かのスライムが戻ってきた。


「うっそ……スライムってこんな強かったっけ……」


 人形を見つけては、スライムの身体に吸収されていく。

 木の陰や土の中。更には瓦礫の中まで細かく。

 流石のジャババも困惑を隠せないようだった。


「舐めてたら死ぬぞ?」

「へぇー? 僕を怒らせたいのかなぁ?」


 煽り文句をそっくりそのまま返す。

 すかした態度を前にジャババの額にしわが寄り、気迫をさらに強めていった。


「これ、なーんだ?」

「魔装結晶だろ? 二本も出してどうした」

「ふふふ、僕はちょーっと特別なんだよねー」


 懐から取り出した二本の魔装結晶。

 何をするつもりだ? 一本無駄じゃないか。

 意図が見えない行動にどこか不穏な雰囲気を感じる。 


「”デュアルショック”……これが魔装結晶を更なるステージへと引き上げてくれる!!」


 そういうことか!!

 原作の”終盤”で解禁された戦術。

 ジャババは歓喜の声と共に、自らの身体へ二本の魔装結晶を刺し込んだ。


「あぁ、いい。この力……たまらなく幸せだぁ……」


 ……何か変わったのか?

 身体も大きくない。体色も変化していない。

 喋り方も普通だし、特に変な所は……


「さーて……試しに殺してみよっか!!」


 と、思っていたその時。

 踏み込む動作すらなく、ジャババはその場から姿を消す。

 再び姿を現した場所は……


「「「うわぁ!?」」」


 メディ達がいる柱の陰。

 ニヤリと口角をあげながら、剣を思いっきり振り上げる狂気的な姿。 


「この野郎!!」

「ちえっ、防がれたか」


 魔力充填した足で全速力で距離を詰め、ジャババの剣に割り込む形で防ぐ。


(速すぎる……!!)


 明らかに上昇した身体能力。

 なのに、ジャババからは変わった様子が一切見られない。

 過剰使用しているのに暴走しない異質さに、俺は焦りを覚える。


「けどかかってくれたねー? 嬉しいよぉ♪」

「ガッ……!!」


 慌てて飛び出して生まれた隙をジャババは逃さない。

 腹部に目掛けて刃を突き出し、そのまま肉へと深く刺しこんでいく。


(足が動かない!?)


 避けたいのに避けられない。

 鉛のように重い足。よく見ると影のようなものが俺の足元に絡みついている。

 こいつに邪魔されたのか……クソっ!!


「人形劇はここからだよ、アハハハッ!!」


 猛攻は続く。 

 目にも止まらぬ早さで人形が展開されていき、周囲を囲うように迫ってくる。


「くっ……!!」


 一撃が重すぎる。

 本来ならこの場を離れたいところだが、影がそうさせてくれない。


「僕は僕になる。みーんな僕になる。それが人形使いの本質なんだよ」


 影を突破するための時間。

 人形を防ぐための時間。

 

 何もかも足りない。

 俺がもう一人欲しいと思ってしまう。


 生傷が増える。回復が追い付かない。

 そして……いつの間にか俺の身体は宙を舞っていた。


「ゲ……ホッ……」

「ご主人様!!」

「「ゼクス様!!」」


 ガシャーン!! と壁に叩きつけられる。

 意識はまだある。遠くの方から、俺を心配する声も聞こえる。

 座るには早い……立つんだ。


(パターンは見切った。けど、)


 魔力充填が追い付いていない。

 一つのステータスを特化させる魔力充填。

 それらが複雑かつ多様なジャババの攻撃に対応しきれていない。


 絶体絶命という四文字が頭に浮かび始めた時。


「応援なんかしちゃってー……そのうるさいお口、閉じちゃおっか」

「「「ひぃっ!!」」」


 ジャババの剣が三人に向けられる姿。


「……影や人形に殺される方が百倍マシだな」

「は?」


 瞬間、俺の中で”死”を背負う覚悟ができた。


「どうせお前はなにも出来ない。人形も魔法も無ければ、ただのガキでしかないんだよ」

「イライラするなぁ……!! じゃあお前から殺してやるよっ!!」


 煽り言葉に反応するよう、ジャババが俺に迫る。

 身体は影で動かない。ヤツにとって俺はただのデカい的。

 殺しがいのある絶好の相手だ。


 グサァ!!


「ぐっ……!!」


 心臓部に深く突き刺さる剣。

 鋭い痛みによって遠のく意識。


「ふふ、流石に逝ったでしょ」

「そ、んな……」


 今まで一番重い一撃だ。

 常人なら間違いなく死を覚悟する。


「……やっぱガキだな。お前」

「はっ!?」


 だが、俺にとってはチャンスだった。

 ニヤリと微笑んだ後、俺は血まみれの手を伸ばし、ジャババの右腕をガシッと掴む。


「は、離せぇ!!」

「あぁ、今すぐ離してやるよ」

「アァ……アァアアアア!!」


 言葉に反してグググ……ッと握る力を強くする。

 そして、


「ァアアアアアアアアアアッ!!」


 ブチィ!!と肉が引き裂かれる音。

 血肉を爆ぜさせながら、俺はジャババの右腕を握り潰した。


「なんで!? 心臓を刺されたのに……!!」

「人間意外と頑丈なんだよ」

「納得できるか!! バ、バケモノめ!!」


 簡単な話だ。

 魔力充填による回復能力を極限まで高めただけ。

 心臓に刺さった傷を回復し続け、瀕死の攻撃を耐えきって見せた。


「さぁ……覚悟しろ」


 俺の逆転劇。

 お前にたっぷり味あわせてやる。


◇◇◇


 side:ジャババ


(なんだよこいつ!! やってる事、無茶苦茶だよ!!)


 心臓を刺されても死なないの!?

 人間とは思えない光景を前に、僕は冷静さを欠いていた。


 落ち着け。まだ勝てる。

 右腕だって魔装結晶で修復できる。

 さっきみたいに影と人形を展開して追い詰めれば……


「え……」


 人形が出ない?

 いや、出てるけど壊れている。

 なんで!? 僕の構築能力に不具合が発生した!? 


 次から次へと起こるイレギュラー。

 焦りを重ねていく中、僕はとある事に気づいた。


(こいつの足……)


 よく見ると靴を履いていない。

 というか、こすれて消えているような。

 足元も血の跡で真っ赤に染まっているし、どこまで酷使したら……って


「ま……さか……」


 人体の限界を超えて走っている……?

 魔法陣の周辺を見れば、地面に謎の跡が深く刻まれていた。


(嘘だ嘘だ嘘だ!! 僕が、魔装結晶が負けるわけがない!!)


 ありえない仮説が僕の頭によぎってしまう。

 しかし、考えても状況が理解できない。


 ヤツは徐々に迫って来る。

 まるで獲物を追い続けるハンターのように。

 ギラついた瞳と何故か嬉しそうな表情に、全身が震え上がる。


「逃がさねぇ……」


 こいつはヤバい。

 本能がそう告げた時、僕はその場から逃げようと足を踏み込む。

 しかし、


「へ……?」


 何故か力が入らない。

 というかバランスが崩れて……?


「あぁ……ああああああああああああああああっ!!」


 足がない!? 僕の両足が消えている!?

 耐えがたい激痛と共に、僕は地面に倒れ込む。

 何が起きた……一体何をしたんだこいつは!? 


「か、影ぇ!!」


 逃げられないなら動かなくしてしまえばいい。

 残った左腕で魔法陣を展開し、ゼクスの両足を縛ろうとするも……

 

「縛るだけか?」


 歩いている。 

 ギリギリと締まる影の隙間から血を吹き出しながら、こいつは僕の方へと近づいてくる。


 なんでだよ!! 絶対おかしい!! 

 ドラゴンですら止まる影だぞ!? なんで人間が動けるんだ!?

 魔装結晶も使ってないのに!!


「ぎゃあああああああああああああ!!」


 そして残された左腕が……謎のブーメランによってあっけなく斬り裂かれた。


「なんなんだよ……お前はなんで動けるんだよぉ!!」


 涙まじりの罵声。

 最早、戦う気力すら失わている中で僕は問う。

 何故、戦うのかと。 


「お前がいると、レア達が不幸になる。ただ、それだけだ」


 全く理解できない。

 そう思っていた頃には、僕の首が斬り飛ばされていた。

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ