第55話 モブキャラ、デストレーダーと再会する
「どう? 少しはセクハラも減るかしら?」
「俺が強くなれば好き放題できるってことだろ? 逆に燃えてきた」
「貴方の底知れない性欲は何なのよ……」
雑談しながら寮へ戻る。
マヤ先生に殴られた場所がまだズキズキする。
魔力充填で治したはずなのになぁ。
「流石ダーリン♪ アタシには遠慮しなくていいからね」
「誰であろうと遠慮するつもりはない……ぞっ」
「きゃっ♪」
反射的にサーシャのお尻を撫でる。
むっちりした感触がクセになる。
あれだけセクハラを嫌がってたのに、自ら求めるようになるとは。
本当に人は変わるんだな。
「相変わらずご主人様は楽しそうですねぇ」
「最初は何もなかったのにな」
「ふふっ、今ではこんなに賑やかです♪」
従者にすら嫌われていた頃が嘘のようだ。
レアに好かれ、
サーシャにも好かれ、
取り巻きまでいる。
理想のハーレム生活を満喫している。
悪役ヒロインたちも順調に攻略できて、毎日が楽しい。
「私も好き放題できて幸せ……」
メディが楽しそうに前に踏み出した瞬間、彼女の腹部に大剣が突き刺さった。
「あ……が……」
「メディ!!」
慌てて駆け寄り、魔力充填をしながらゆっくり剣を抜く。
攻撃はどこから来た!? 一瞬で飛んできたぞ!!
「この剣……」
豪奢な装飾、公爵家の家紋。
見覚えがある。
確か昨日……
「素晴らしい力ですね。私の価値を証明するように次から次へと破壊していく……」
抜いた大剣がまるで糸付きのように舞い、持ち主の元へ戻っていく。
そこに立っていたのは……降格と敗北を味わった、あの姉の姿。
「お姉様……!!」
「堕ちる所まで堕ちましたわね……!!」
校舎の上からあざ笑うように見下ろすアリーシャ。
たった一日で別人のようだ。
全身に紫の筋が走り、目は充血している。
肌を刺すような、強い殺気が周囲を包んでいた。
「堕ちる? むしろ羽ばたいている最中ですよ。あの子が与えてくれた、宝石の力で!!」
「「っ!!」」
胸の谷間から取り出したのは、禍々しい光を放つ魔装結晶。
お前がそれに手を出すのか!?
原作ではありえない展開の連続に、思わず息をのむ。
(……どっちが勝っても変わらないって、そういうことか)
ジャババの言葉の意味が、ようやく腑に落ちた。
俺は「サーシャが勝っても負けても、魔装結晶を使う」と予想していた。
だが、あいつの狙いはサーシャだけじゃなかった。
アリーシャも含まれていたんだ。
あれだけ叩きのめされた上で、あんな危険な力を与えられたら……溺れるのも当然か。
「しっかりしろ、メディ。今、治してやるからな」
「す……みません……」
「気にすんな。また落ち着いたらコスプレでもしてくれたらいい」
「ふふ……かしこまりました……」
冗談を交えながら傷を塞いでいく。
けど深いな……完治までは少しかかりそうだし、魔力消費が多すぎる。
っと、そうだ。
俺も“あれ”を持ってたんだった。
「サーシャ、これ使っていいか?」
「へ? 別に構わないけど……」
「ありがと」
「えっ!? 何をしてるのさ!?」
サーシャの制止を無視して、預かっていた魔装結晶を自分の身体に突き立てる。
……あー、来た来た。魔力が一気に回復する。
やっぱり便利なアイテムだ。
「な、何ともないの……?」
「ゼクスはね。わたくしもびっくりしましたわ」
そういや説明してなかったな。魔力充填の応用で副作用を無効化できるんだ。
まぁ、これでメディも助かったし、ひとまず解決。
……と思ったら。
「あーっはっはっはっ!! いいねぇ!! その調子でどんどん暴れちゃおう!!」
現実はそう甘くない。
アリーシャの隣に、渦を巻くような影が出現する。
そこから……あの小柄なフードの男が姿を現した。
「アイツは!! この前のデストレーダー!!」
「ジャババって呼んでくれよー。寂しいなー」
アリーシャの肩に手を置き、全体を見回すようにして笑うジャババ。
……なるほど。全部、最初からあいつの仕込みってわけか。
やっぱり、気に食わねぇな。
「氷結斬!!」
「おっとぉ! そっちのお嬢様は喧嘩っ早いねぇ」
「どんな手を使ったのかは知りません。が、死ぬ覚悟はできてますわね?」
「聞く耳なしかー。うんうん」
レアが間合いを詰め、剣を振るう。
刃は空を切っただけで、ジャババ達はひらりとかわしてゆっくり着地する。
「僕はただ渡しただけだよ? 弱虫みたいに泣いてたからさ。魔装結晶で救ってあげようと思って!」
「救う……?」
「どこが救済だ! ただ実験道具にしてるだけじゃないか!」
ジャババは非難を聞き流し続ける。
「魔装結晶は自分の意思で使わないと意味がない。だから心が弱い人間を狙っているのさ」
原作どおり、負の感情に反応して暴走を引き起こす魔装結晶。
狙いは”心の弱さ”だという説明に納得はできるが。
「ま、それだけじゃ集まらないから、僕が刺す時もあるけどね」
「え……?」
指を弾くと地面に二つの魔法陣が展開され……
「あ……あぁ……」
「うぅ……」
なんと伯爵娘二人が現れる。
自由奔放だった彼女たちが耐えがたい表情で頭を押さえている。
「他人が刺すと暴走しにくいんだよねー。胸とか触り放題なのはいいけどさ」
「いやっ……」
ジャババは舌なめずりし、一人の胸元を鷲掴みにして欲望を満たす。
「アリーシャちゃん、その二人も殺さないでね? 拷問して精神ぶっ壊して、魔装結晶の実験に使いたいからさぁ……ふふふ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが切れた。
「ジャババ、お前は何のために力を与える?」
「はぁ? そんなの決まってるじゃん」
普段より冷たく、鋭い声で問い詰める。
珍しく怒りが露わになっていた。
「弱者が救われる強い力を。誰もが強くなれる、誰もが成り上がれる!! 魔装結晶は夢がいっぱい詰まっているんだ!! 利用しない手はないよねぇ!?」
救済だと? そのために魔装結晶を無理やり使うのか?
副作用のない自分なら使ってもいい。
だが、関係ない人間を巻き込むのは話が違う。
「何が救いだ、バカバカしい」
「は?」
「お前のやってることは救済じゃない。本質も理解せず、ただ力を与えて遊ばせているだけ」
感情のままにナイフを抜き、ジャババへ突きつける。
「所詮はガキのおままごとだ。大人しく死ね」
悪役ヒロインの敵は俺の敵だ。
邪魔をするなら容赦はしない。
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