第54話 モブキャラ、結果を知る
「ふふふ……ダーリン♪」
「……ベッタリしてるわねぇ。貴方って本当に罪な男よ」
「罪だって? 俺を好きになるのは、むしろ救いだろ?」
やれやれと両腕を広げるレア。
あれからサーシャは、俺からまったく離れようとしなかった。
朝起きる時から寝る時まで。
気づけば俺たちの寮に引っ越してきて、部屋まで整えてしまっていた。
愛の行動力というのは、本当に恐ろしい。
「いいですよご主人様!! この調子でいろんな女の子を口説き回りましょう!!」
「メイドはもう少し止めることを覚えなさい!!」
「止めるより走らせた方がいいですって♪」
その通りだ、メディ。
俺は突っ走り続けて、多くの悪役ヒロインを虜にしたい。
今さら、止まるつもりはない。
「アタシ、ダーリンと出会えて幸せだよ。死んでも一緒にいようね♡」
「だったら死後の世界でもイチャイチャしようか。天使どもが呆れるくらいにな」
「んん〜♪ 最っ高♡」
情熱のままに頬へキスをしてくるサーシャからは、どこか狂気めいたオーラが漂っていた。
……なぜ、ここまで性格が変わったのだろうか。
愛されるのは幸せだが、まだどこか違和感が残る。
「で? サーシャは呼ばれたんだろ?」
「大事なお話だってさ」
「ほーん?」
大事な話? 派手に模擬戦をやった件か?
見当がつかないまま、俺たちは職員室へとたどり着き、挨拶と共に中へ入った。
「おぉ、よく来……何でお主らもいるんじゃ」
俺たち三人の顔を見て、マヤ先生が若干嫌そうな顔をする。
「愛するダーリンだからな」
「その変わり者の付き添いよ」
「私はメイドです!!」
「最後はいらんじゃろ!! もうよい……」
可愛い生徒を邪魔者扱いとは、先生もひどいものだ。
もっと喜んでもいいんだぞ?
……まあ約一名、生徒じゃないのは置いておこう。
「で? アタシに用ってのは……」
「なーに、簡単な話じゃよ」
ペンを放り投げたマヤ先生は、雑に掴んだ一枚の紙をサーシャへ手渡した。
「サーシャ・クラウン。今日からお主はSクラスじゃ」
「へっ!?」
紙とマヤ先生の顔を交互に見るサーシャ。
俺も驚いた。実力があるとはいえ、いきなりのSクラス昇格だなんて。
「ア、アタシが……嘘……」
「昨日の模擬戦、中々の活躍だった。空飛ぶ盾とは面白い発想をしよる」
「マヤ先生、あれを見てたんですか?」
「暇つぶしにな。Sクラス生徒のイベントじゃし、何か起きると思っておったが……」
もう一枚の紙を取り出したマヤ先生は、ふてくされた顔のままゴミ箱へ放り投げた。
「姉の方は期待はずれ。Bクラスに降格させて正解じゃった」
「「「えっ!?」」」
俺を除いた三人が驚きの声をあげる。
アリーシャがBクラス? マジか、姉はそういうルートを辿るのか。
「た、たった一度の試合でBクラスまで落ちるんですかぁ!?」
「Sクラスを舐めておるな? “圧倒的な力”と“貪欲な心”がない人間など、必要ないも同然よ」
「……Aクラスにすら留めて貰えませんのね。厳しい世界ですわ」
確かに原作でもSクラス維持は難しかった。
総合評価をSに保たないといけないし、A+になった時点で即降格。
しかもSになった瞬間、問題や試練の難易度も急上昇するから、上級者でも維持するのは至難の業だ。
「アリーシャじゃったか? あやつは油断しすぎじゃ。有利のつく盾持ちにあそこまで苦戦するとは……情けない」
確かにサーシャ相手に苦戦しすぎた。
俺がメタの張り方や立ち回りを伝授したとはいえ、アリーシャは感情的に動く場面が多かった気がする。
敢えてサーシャを苦しめるように剣を突き刺したり、
飛び回るサーシャを迷わず追いかけたり――
妹には負けないだろうという甘さも、降格に繋がったのだろう。
「……ちなみにもう降格は伝えておる」
「へぇ? どんな反応だった?」
「くく、かなり面白かったのう」
いたずらっ子のような笑みを浮かべて、マヤ先生は語り出す。
「ガキみたいに喚きながら剣を抜いてな。あまりにも行儀が悪いから、この拳で一発ぶん殴ってやった」
軽くシュッと拳を前に突き出しただけで、目の前のガラスにひびが入る。
その異様すぎる光景に、全員が身を固めた。
「魔力も込めてないのにくたばりおって。意識を失ってでも立ち上がれば、Aクラス入りも考えたのに」
「……恐ろしいですわね」
「マヤ先生は容赦を知らんからな」
原作だと絡んできたデストレーダーのメンバーをワンパンしてたし、
酷い時は校舎をまるごと破壊してたような……
拳一発で済んだアリーシャは、むしろラッキーだと思う。
「お主らも油断していると蹴落とされるぞ。覚悟しておけ」
威圧を込めた視線と空気に、全員の背筋が伸びる。
ふふっと俺たちの様子を面白そうに見守りながら、マヤ先生は綺麗な生足を組み替えた――
「……くまさん」
「へ?」
「くま?」
スカートの奥に見えた、真ん中に刺繍された可愛らしい熊柄。
なんとも子供っぽい下着を口にした瞬間、稲妻のような拳がすっ飛んできた。
ドカァアアアアアアアアアン!!
「……ちっ。すばしっこい奴じゃの」
周囲のテーブルが粉々に砕け散る。
これで魔力を込めてないとは、バケモノみたいな強さだ。
「避け続けたらマヤ先生の下着が見放題なのか? 最高だなぁ」
「このド変態が!! 今すぐブチ殺してやるから覚悟せぇ!!」
煽るように逃げると、鬼のような形相でマヤ先生が襲いかかってきた。
「……相変わらずね」
「ご主人様らしいですっ!!」
「ダーリンを殺す???」
なんともカオスな状況になってきた。
まあ、俺としては下着が見れたから満足なんだが。
「返事は?」
「……ごめんなさい」
ちなみにしっかり捕まって、しっかりボコされた。
骨も何本か折れたけど、魔力充填があるからすぐ元通り。
……正直、死ぬかと思ったけど。
「はっくしょん!!」
「どうしたメディ? 風邪でもひいたか?」
「なーんか朝から身体が重いんですよねぇ……」
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