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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
3章 モブキャラ、修行する

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第53話 モブキャラ、変化を知る

「「すっごく美味しい~!! さすがゼクス様のメイドさん!!」」

「遠慮せずどんどん食べてくださいねー!! 私が何でも作りますから!!」

「「はーい!!」」


 テーブルいっぱいに並べられた料理を、伯爵娘たちがモグモグと頬張る。

 相変わらず仲がいい。

 どこか庶民的な感性が、メディと相性抜群だ。


「しかし豪華な部屋を……いくらかけましたの?」

「パーッと派手に、という予定だったが……突然空きが出てな。意外と安かった」

「空き? あぁ……あの方ですわね」


 俺たちが来た時には、すでに部屋は派手な装飾で彩られていた。

 おそらくアリーシャが勝つ前提で準備していたのだろう。

 

 サーシャに圧勝し、大観衆に賞賛されながら、煌びやかなパーティで一日を終える。

 そんな計画を。


 だがその優雅なプランを、俺とサーシャが粉々に打ち砕いたわけだが。


「で? サーシャのお祝いに他の人間を招いてよかったの?」

「盛り上げ役はいた方がいいだろ。それに……本命はもうすぐ来る」

「ふぅん?」


 レアは制服ではなく、黒を基調にした豪華なドレス姿。

 シルクのスカートの隙間から、色気のある生足がちらちら覗く。

 本能的に視線を奪われる俺に対し、レアはわざとらしく前に踏み出して挑発してきた。


 性的なものに弱いとわかっていての行動か。

 欲のままにレアへ手を伸ばしかけたその時、


「ど、どうだい……?」


 コツン、とヒールの音。

 振り返ると、そこには真っ赤なドレスに身を包んだサーシャが立っていた。


「最高だ。やはりサーシャは美しい」

「わたくしより背が高いから、より映えますわねー」

「うぅ……」


 褒め言葉を浴びながら囲まれると、サーシャはわかりやすく頬を染めて顔を逸らす。

 社交界には慣れているはずなのに、緊張しているということは……

 親しい人間に見せるのが、かえって恥ずかしいのだろう。


「ゼ、ゼクス……」

「ん?」

「その……えっと……」


 口を開きかけては閉じ、言葉を探すサーシャ。


「実はプレゼントがあるんだ」

「えっ」


 その緊張をほぐそうと、俺は近くに置いていた箱を開け、中の品をサーシャへ手渡した。


「くまさん……」

「欲しかっただろ? 模擬戦を頑張ったご褒美だ」


 ほろ酔いしたようにボーっとぬいぐるみを見つめ、サーシャは無言でギュッと抱きしめる。

 乙女になった彼女の頭を、俺は優しく撫でた。

 撫でるたびに小さく声を漏らすのが、とても可愛らしい。


 ……と、もう一つのプレゼントも渡しておかないとな。


「レアにはこれだ」

「あら、綺麗なネックレス。悪くないセンスね」

「ベタ褒めされると思ってたんだけどなぁ」

「アクセサリー選びは奥が深いのよ。今度たっぷり教えてあげる♪」


 サーシャだけに渡すのは婚約者に失礼だと思った。

 とはいえ、レアが手放しで絶賛する姿は未だ見たことがない。

 何だかんだ喜んではくれるが、ハードルは高い。


「ゼクスは、アタシのこと好き?」

「好きとか通り越してる。愛してるぞ」

「っ……」


 サーシャは本当に素直で可愛らしい。

 比べるつもりはないが、やっぱり素直に喜んでくれるのは嬉しい。

 胸がぽかぽかする。


「……アタシも、プレゼントある」

「ほぉ」


 ついにサーシャから俺へのプレゼントか。

 最初は俺を避けていたのに、ここまで進展するとは。


「モテモテねぇ。頑張った甲斐がありましたわね」

「だな。今までの努力が報われたってもんだ」


 サーシャの懐から横長の箱が出てくる。

 武器ではない。純粋にサーシャからの感謝がこもった贈り物だ。


(かなり進展したな……)


 珍しく心臓が早鐘を打つ。

 熱っぽい視線で俺を見ながら、ゆっくりと包装を解いていくサーシャ。

 俺は盛大に喜ぶ準備をしていた。


「ど、どうぞ」

「「えっ」」


 だが、俺は思わず固まった。

 手渡されたのは……革製のゴツゴツした首輪。


「……どういう事かしら?」

「アタシの人生を変えてくれた……だから、アタシの全てを”ダーリン”に預けたいって……」

「ダ、ダーリン?」


 レアが引きつった顔をする。

 わかるぞ。情報量が多すぎて、俺ですら思考が止まっている。

 首輪? ダーリン? 全てを預けたい?


 ……待て。少し時間をくれ。


「アタシ、こんなに愛された事なかったんだ。皆、お姉様ばかり見てた。アタシに興味を持ってくれる人なんて一人もいなかった……」


 一方、サーシャは喜々として語り続ける。

 犬に付けるような首輪を、宝石のように優しく撫でながら。

 

「だから……」

「うおっ!?」


 未だ呆然と立ち尽くす俺を、サーシャが押し倒した。


「この人に全部変えられたい……ぐちゃぐちゃにされたい……♡」

「んっ……!?」


 襲いかかるように、深い口づけを交わす。


「はふっ……んんっ……じゅぱっ……♡」


 舌を絡ませ、

 激しい水音を響かせ、

 呼吸すら忘れるほど熱いキスが続く。


 気づけば、サーシャの瞳から光が消え、狂気を帯びた表情に変わっていた。


「……ナイフ」

「ん? これか?」


 吐息混じりに呟かれた単語。

 思考はぼんやりしたまま、深く考えずに腰の鞘からナイフを引き抜いた……

 その瞬間。


「は?」


 まるで大好物を前にしたかのように、サーシャの手がナイフへ伸びる。


「んっ!! あ、あぁ……♡」

「サーシャ!? 何をしているのですの!?」


 そして彼女は、ためらいもなくその刃を胸元へ突き立てた。


「ダーリンのナイフが、アタシの奥に……あはははっ♡」


 ドス黒い血が溢れ出す。

 呼吸は荒く、瞳は虚ろ……だが、その口元は笑っていた。


「……え、えーと?」

「ダメだよ……ダーリンからの痛み、もっと味わいたいのに……んんっ♡」


 ナイフを引き抜こうとすれば、逆に押し込もうとする始末。


 ヒロインの幸せを第一にしている俺でも、流石に受け入れきれなかった。


「……とりあえず治す」

「軽くでいいよ。アタシはダーリンの下僕だから♡」

「お酒も薬もやってない……これはどういう状況だ……」


 一旦、整理しよう。


 サーシャは俺が好き。

 とにかく愛されたい。

 ここまでは理解できる。


 だが首輪はなんだ? 

 ダーリンって? 

 あの自傷行為は……


(……まぁ、ヤンデレってやつだな)


 狂うほど愛してやまないがゆえ、感情が爆発している。

 そう解釈すれば……大体納得できる。


 とりあえずナイフを抜いて、傷口を塞ぐ。


「いいだろう……サーシャが望むなら、俺が叶えてやる」

「わぁっ……♪」


 軽く咳払いしたあと、例の首輪を彼女の首に取り付けた。


「えへへ……ダーリンの物になっちゃった」

「あぁ。これでサーシャは一生一緒だ」

「ん~~~~♡ すっごく幸せ……♡」


 首元を撫でたあと、勢いよく抱きついてくる。

 愛されたいと願ったのは俺の方だ。

 多少の驚きはあれど、これも形のひとつ。


 そう思った矢先、


「アタシを捨てないでね。じゃないと……」

「ぐっ!?」


 突然、サーシャが俺の首を絞め始めた。


「ダーリンのこと……ぐちゃぐちゃに潰すから」


 さっきまでの幸せそうな声色から一転、低いトーンで威圧する。

 殺意のこもった瞳でじっと見据えられ、数十秒が過ぎる。


「「「サーシャ様が怖い……!!」」」


 奥で会食していた三人が震え上がっている。

 まぁ、傍から見れば当然か……情緒不安定すぎる。


「クラウン家に、どう説明するのよ……」

「姉もメンタル壊れてるしな……やっべー……」


 レアですら顔を覆い、頭を抱える。

 原作ファンでも予想できなかっただろう。

 

 悪役ヒロインのサーシャが、こんな形で恐怖を振りまくなんてな。

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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