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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
3章 モブキャラ、修行する

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第52話 変わりゆく、二人の公爵令嬢

 side:サーシャ


(勝った……)


 アタシが勝利した。あのお姉様相手に。

 

 信じられない。

 生まれてから一度もお姉様に勝ったことはないのに。


 努力が足りないとあれだけ責められて。周りの人間も便乗して追撃してくる日々。

 一生背負う十字架として半ば諦めていたのに……


 たった一人の男が、

 たった一ヶ月で全てを変えてしまった。


「サーシャ様ってあんなに強かったんだ!!」

「空を飛び回ってて凄い!!」

「ほんとほんと!! 見直したよ!!」


 夢みたいな歓声。見下すような者は誰一人としていない。

 これが全て、アタシに向けられたものだなんて。


(ここまでスッキリしたのは久しぶりだね……)


 胸の内で引っかかっていたものが一気に取れた。

 黒い闇でしか認識してなかった世界が、今では爽やかで心地よい空気を感じられる。


 気持ちがいい。まるで生まれ変わったみたい。

 新しい人生への一歩を踏み出したような感覚。


 それを与えてくれた、ワガママで欲深い伯爵貴族の存在……


「ゼクス……」


 堂々たる姿。規格外の発想と知識でアタシを導き、無償の愛を溢れるほど与えてくれた。

 ここまでアタシを愛してくれるなんて。

 今までは意地を張って認めないフリをしていたけど、もう無理。


 アタシもゼクスを愛しているんだ。

 たまらなく、狂おしいほどに……


「はぁ……はぁ……」


 戦いで残ったアドレナリンが全てゼクスへの愛に変換される。

 全身に血が駆けめぐり、心臓のドラムが強く叩き続ける。


 熱に従うように手を伸ばす。

 ゆっくり狙いを定めて、その頼りがいのある肩へとポンと置く。


「どうした?」

「っ……」


 置かれた手をゼクスはギュッと握りしめ、いたずらっ子のようにこちらへ振り返ってきた。

 その悪そうな表情が特に刺さる。手玉に取られてるんだ。


 彼の思うがままにアタシは動いてしまう。けど悪くない。

 操られている事をアタシは楽しんで……?


「っ……!!」


 瞬間、胸の奥を殴られたような衝撃がアタシを襲った。

 

「……なんでもない」


 特に話すこともなかったので、ぶっきらぼうに手を離す。

 だが、興奮は収まらない。


(もっと……)


 今のは何? 

 今まで味わったことの無い感情。

 だけど一番幸せだと実感してしまった。


 アタシはゼクスにどう愛されたい?

 どう愛したい?


 純粋な思いが徐々に欲望という影によって覆われていく。

 肌と肌のスキンシップでは収まらない、決定的な何かが…… 


「あ……」


 フィールドを抜けて売店コーナーへと着いた時。

 たまたまペット用具を売る露店が目に入った。


「……先に行ってて」

「ん? わかった」


 あれ……なんだろ……

 ゴツゴツした首輪がいっぱい置いてある。

 学園内で動物やモンスターを飼う人がそこそこいるからかな?


「……」


 首輪……首輪……

 アタシの首に……ゼクスが……


『俺の命令は絶対だ。いいな?』

「っ……!!」


 浮かんでしまった。

 ドスの聞いた低い声、相手を威圧するような強気な姿。

 アタシの奥がうずいた。


「あ、あのー……?」


 気づいてしまった。

 アタシが秘めていた”本当の欲望”に。

 これを……アタシは求めていたんだ……


「これ、ラッピングできる?」

「へ? は、はい……かしこまりました……」


 店員さんは困惑しつつも、横長い箱に首輪を入れて可愛らしいリボンでラッピングしていく。


「ふふっ……ふふふ……♡」


 大好きなゼクス。

 愛するゼクス。 

 好きにされたい。滅茶苦茶にされたい。

 

「”ダーリン”……はぁ……♡」 


 アタシの全てを支配して。

 アタシの全てを壊して。

 

 肉体も精神も。

 全てゼクスのモノ。

 

 アタシはゼクスの愛玩道具。

 嬉しい事も、悲しい事も、イライラすることも。

 その冷たい言葉と理不尽な暴力で、アタシにぶつけてほしい。


 むしろ味わいたい。

 ゼクスの全てを知りたいんだ!!


「……愛してるよ♡」


 アタシの運命の人。

 もう……手放さないからね。


 ◇◇◇


side:アリーシャ


「クソッ……クソクソクソォッ!!」


 沸き立つ感情のままに壁を殴り続ける。

 鈍い痛みや流れ出す血も気にせず、己の中でうごめく”ドロドロした何か”をひたすら吐き出した。


「何でサーシャに……何も出来ないあの子に負けるなんて……!!」


 私の努力は絶対だ。情けないサーシャに一度たりとも負けたことはない。

 圧勝、圧勝、圧勝……その連続。


 なのに、さっきの試合はなんだ?

 私が追い込まれた? 本気を出した?

 そして……勝利を逃した?


「あぁあああああああああああああ!!」


 ドカァアアアアアアアアアアアン!!

 魔力を込めた拳で目の前の壁を粉々に砕く。

 これは夢だと言ってくれ、と叫ぶように。


 しかし、現実は魔力切れで脳を痛め付け、虚しい感情だけを残していく。


「うわ、かなり荒れてる」

「あれだけイキってたのに、だっさいよねー」


 見下される態度に胸の内がキュッと押さえ付けられる。

 倒れる私を誰もがスルーし、ゴミでも見るような目で通りすぎる。


(なんで……なんでここまで……!!)


 誰もが私を認めていた。

 誰もが私を求めていた。


 公爵家の長女として、

 次世代の当主候補として、


 このイベントで生徒会と繋がりを作り、ゆくゆくは王家との関わりを深めようと思っていたのに。


 今の私には何も残っていない。

 あるのは虚しい孤独だけ。


「”弱者”の気分はどうだい? クラウン家のおねーさんっ♪」


 苦しみ悶える私の前に謎の少年が姿を現す。


「っ!? だ、誰ですか!!」

「そう警戒しなくてもいいのに。ただ試合後のプレゼントを持ってきただけさ」

「プレ……ゼント……?」

 

 状況が呑み込めない私の手元に、何かを置く少年。

 ニカッと笑う姿に寒気を感じつつ、恐る恐る置かれた物を見ると……


「君の努力……これで証明してみよっ♪」


 禍々しい光を放つ鉱石の姿。

 その怪しく恐ろしい力を前に、鼓動が徐々に速くなるのを感じた。

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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