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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
3章 モブキャラ、修行する

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第51話 モブキャラ、勝者を労わる

「しょ、勝者……サーシャ・クラウン!!」


 予想外の結末。

 審判が慌てて勝者の名を叫ぶと、フィールド内はさらに盛り上がった。

 力強い戦士の姿に、惜しみない拍手と歓声が降り注ぐ。


 だが、サーシャはもう限界だった。


「ゲボッ……ウェッ……!!」

「お疲れ様だ」

「ゼ……クス……」


 再び血を吐き、地面にうつ伏せに倒れ込む。

 俺は急いで駆け寄り、虚ろな目を浮かべるサーシャの手を優しく握った。

 同時に淡い光が彼女の身体を包み込む。


「いい根性してるじゃない。前よりずっと輝いてますわ」

「はは……必死だったからね……」


 光に癒されながら、レアからのエールにぎこちない笑みを返すサーシャ。


(予想以上だ……)


 俺が与えたのは、勝つためのコツと、ほんの少しの希望だけ。

 そこから立ち上がり、限界を超えて勝ち取った。

 サーシャ自身の執念と成長の証だ。


 今のサーシャを相手にしたら、俺でも苦戦する。

 シールドビットで飛び回られたら、さすがにキツい。


「メディ、アリーシャもこっちに」

「かしこまりましたー♪」


 この際ついでだ。

 目配せすると、メディがうんしょとアリーシャを抱え、俺の前にゆっくり降ろした。

 俺は彼女の手に触れ、魔力を少しずつ注いでいく。


「治すの?」

「勝負はついたんだ。もう変な気は起こさないだろ」


 仮に暴れても、俺とレアで抑え込める。

 完治させるつもりはない。最低限、動ければ十分だ。


「ほい、終わり」

「血まで吐いてたのに……相変わらずゼクスの治癒力はバケモノね」


 俺なんて、まだヒヨッ子だ。

 自信はあるが、自惚れる気はない。


 上級生や先生、そしてデストレーダー。

 この学園には、バケモノと呼んでも生ぬるい存在がゴロゴロしている。


「けど……大好きだよ」


 囁かれた愛の言葉に振り向くと、

 桜色に染まったサーシャの顔が迫ってきた。


「んっ……」


 そして、艶を取り戻した唇が俺のものと重なる。


「わぉ!! 大胆ですねぇ……!!」

「お返しだ。ありがと」

「ひゃっ……」


 何気ない仕草で、今度は俺がサーシャの額に口づけをする。

 思わぬ反撃に、サーシャは顔を隠すように俺の胸元へと身を倒した。


「愛してる、じゃないのね?」

「そ、それは! 愛も込めたつもりだよ……」

「わかってますわ。本当に可愛らしい♪」

「やーめーろっ……」


 うーん、可愛い。

 背が高いからか、大型犬を相手にしてるみたいだ。

 このままお持ち帰りしても……なんてやらしい考えが浮かんだ、その時。


「はっ!?」

「お、こっちのお姫様もお目覚めか」


 アリーシャが目をかっぴらき、勢いよく起き上がった。


「私は……戦いはどうなって……!?」

「お前の負けだ。アリーシャ」

「う、そ……」


 その場にぺたんと座り込み、震えながら首を横に振る。痛々しい姿だった。


「残念だよなぁ」

「アリーシャ様がAクラスに負けるなんてね」

「散々見下してたくせに……情けない」


 失望の声が次々と飛ぶ。

 かつてサーシャが浴びていた視線を、今は姉が受け止める。

 立場は完全に逆転した。


「すーっごい手のひら返しですねぇ」

「人間なんてそんなもんだ」


 誰もが強い方につく。結果しか信じない。

 大観衆はサーシャの勝利を証明し、絶対に勝つと思っていたアリーシャを切り捨てた。


「……ありえない」

「ん?」


 非情な現実を前に、アリーシャはさらに震える。


「私がサーシャに負けるなんてありえない! 努力で劣るわけがない!」

「おいおい……」

「負け惜しみが過ぎますわよ」


 現実から逃げるように荒声を張り上げる。

 ここまで脆いとは。

 

 今までが順調すぎたのだろう。

 成功しか知らない公爵令嬢は、初めての挫折に耐えられなかった。


「お姉様……いい加減、認めて」

「何を……」


 サーシャが鋭く睨みつける。


「アタシはお姉様に勝った! それでいいじゃないか!」


 威圧感のある声にアリーシャは一瞬怯む。

 サーシャの瞳には、どこか失望がにじんでいた。


「うるさいですね……!」


 それでも剣を抜こうとするが……

 パキンッ!


「がっ……!?」

「やっぱり治すべきじゃなかったわね。変なプライドを持つからこうなるんですのよ」


 レアの氷が、アリーシャを瞬時に凍りつかせた。

 完全に回復させなかったのは正解。

 少しはサーシャを見直すと思ったが……無駄だったようだ。


「頭を冷やせ。足掻いても見苦しいだけだ」

「っ……!! わ、かり……ました……」


 俺はアリーシャの顎をグイッと持ち上げ、鋭い視線をぶつける。


 敵わないと悟ったのだろう。

 アリーシャは驚いたような顔のまま、硬直した。


 レアが氷を解いた頃には、もう剣を抜く気力すらない。

 力のない背を向け、フィールドを後にする。


「……あんなお姉様、見たくなかった」

「ほう? 嫌ってたんじゃないのか?」

「苦手だよ……でも、何事にも堂々としてた姿は嫌いじゃないから」


 なるほど、それが失望の理由か。

 嫌っていても“お姉様”と呼び続けるのは、サーシャなりに尊敬していた部分があったからだ。


「落ち着いた時にまた話せばいい」

「……わかった」


 やけになる姉の姿。

 原作でも、あそこまで追い詰められてはいなかったのに。

 ……少々、未来を変えすぎたか?


「とりあえずここを……って、まだ傷があるぞ」

「え?」


 サーシャの右手を引き上げると、指先に斬り傷が残っていた。

 魔力充填で治しきれなかったのか? 

 これはいけない。急いで治療を……


「だ、大丈夫だよ。これくらい、貴重な魔力を使うこともないって」

「そうか? 気になるならいつでも言えよ」

「う、うん……」


 別に大した消費じゃないんだがな。

 気遣いのいたちごっこになるのも面倒だ、ここは甘えるとしよう。


 それより、一瞬だけ妙な雰囲気を感じたような。


「……いい傷♡」


 サーシャの声?

 振り返っても、ただ手を見つめているだけだった。

 ……気のせいだよな?

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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