第50話 モブキャラ、活躍を見守る
「はぁああああああああっ!!」
「っ!! くぅ……!!」
アリーシャが果敢に攻める。
空中から襲い掛かるビットを粉々に破壊し、自慢の大剣を豪快に振るい続ける。
「努力すらできない貴方に私は倒せません!!」
「それでも……アタシだってやれるだけやった!!」
「それは幻想!! ただの強がりである事を証明しますっ!!」
対するサーシャは攻撃を避けたり、ビットでアリーシャの動きを封じる一方。
攻めには一切転じていない。
必死で喰らいつこうとするサーシャに、アリーシャは軽蔑の視線を送る。
「ちょ、ちょっとぉ!! サーシャ様押されてませんかぁ!?」
「防戦一方……流れは完全にアリーシャが掴んでいるわね」
今回もアリーシャが勝つ。
出来レース気味な試合展開に誰もがそう確信し、大観衆からアリーシャに対する声援が強まる一方だ。
「そう思うだろ?」
「「え?」」
だが、長期的に見れば……サーシャは追い込まれていない。
むしろ罠にかかったのはアリーシャの方だ。
「くっ……はぁっ……」
「妙ですわね……息を上げるのが早い?」
大ぶりな動きに粗が見え始める。
額からは汗を流し、呼吸のテンポが速くなる。
加えて大きく動いた後に一度、深呼吸をして休憩を挟む姿まで。
「はっ……ほっ……!!」
サーシャは真剣ながらも、冷静に対処し続けていた。
シールドビットや身体の動きで致命傷を避け、無駄なエネルギー消費を抑える。
リズムも悪くない。シールドビットもアリーシャを囲うように配置されていく。
「そこっ!!」
「くっ……小賢しいですね!!」
大剣を地面に叩きつけた瞬間、アリーシャが足元のバランスを崩した。
その隙を狙って、回り込むように配置されたシールドビットが勢いよく突っ込み、確かなダメージを与えていく。
「アリーシャは攻撃し続けないといけない。シールドブレイクを始めとした魔法は長期戦に向いてないからな」
「ゼクスと違って回復手段もありませんしね」
破壊力のある大剣の一撃は、俺ですらまともに受け止めるのを躊躇する。
大火力に任せてひたすら奇襲を行い、相手を一気に追い詰める。
理にかなっている戦い方だ。
「一方サーシャはどうだ? 突破されたらおしまいだが……逆に耐え切れば?」
変わりゆく戦況。焦りが見え隠れするアリーシャの姿に思わず頬が緩んでしまう。
「ゲホゲホッ!? 何ですかこれは……!!」
「アタシだって色々考えてるんだよっ!!」
「くっ……!!」
雑に破壊したシールドビットから謎の煙が放出される。
うっとおしいギミックを前に、アリーシャがさらに動きを乱す。
「はぁ……はぁ……」
「シールドビット!! 突撃しろ!!」
「距離が詰めきれない……何故、こんな事に……!!」
攻めても攻めきれない。
なのに、自身はダメージを食らい続け、無駄な体力を消耗し続ける一方。
「長期戦でじわじわ削るタイプかしら? 面白い戦い方を教えましたわね」
「誰にでも適性はある、ということだ」
これがサーシャの戦い。
相手の猛攻を防ぎつつ、地味でも確実な攻撃で相手を追い詰める。
まさに”タンク”。この鉄壁の防御を突破するのは至難の業だ。
「おいおい、アリーシャ様やばくね?」
「まさか負けるんじゃ……」
Sクラス、公爵家の長女。
絶対的な地位に君臨していたアリーシャというブランドにひびが入る瞬間。
大観衆から徐々に心配の声が上がり始める。
「サーシャごときに切り札を使うとは……」
そのアウェーな空気を前に、アリーシャは大きく出る。
大剣をザンッ!!と地面に突き刺し、身体中から真っ赤なオーラを放つ。
そして力強く足を踏み込み、大剣を引き抜いた瞬間……
「っ!? なんだいこの速さ……!!」
新幹線が通り過ぎたかのような圧倒的な速さ。
かわす事も防ぐこともできず、サーシャはモロに攻撃を食らい地面をバウンドしながら倒れる。
「あわわわ!! アリーシャ様がご主人様みたいに素早くなりましたよぉ!?」
「魔力充填を更にスピード特化させた感じか……シンプルだが強い魔法だ」
”鬼人化”だったか……?
自らのHPを犠牲にスピードを大幅に上昇させる。
スピードだけならあの魔力充填よりも高いバフ効果を発揮できる。
環境でもたまに使われた強力な魔法だ。
「面倒な羽虫も、全部叩き壊せばいいんですよっ!!」
「……かなりヤバそうね」
サーシャも負けじとシールドビットを宙に展開する。
しかし、アリーシャは一切臆せず全てを薙ぎ払い、鬼気迫る表情で再び距離を詰める。
「きゃああああああっ!!」
振り払われた大剣の腹が、サーシャを豪快に吹き飛ばす。
ドォオオオオオン!!という轟音がフィールド内に響き渡る。
やがて砂煙が晴れると共に、壁にもたれかかるサーシャの姿が現れる。
「オェッ……はぁ、はぁ……」
「わかりましたか? 貴方は私に勝てない」
形勢逆転。
余裕を失い、血走った眼をサーシャに向けながら、荒々しく剣を振り上げる。
「このアリーシャ・クラウンが、公爵家をより高みのある存在へと導く!! 貴方は惨めにくたばっていればいいんですよ!!」
「ああああああああああっ!!」
グサァッ!!
刃先がサーシャの肩へと深く刺し込まれる。
ドクドクと赤い血が刃を伝い、悲痛な叫びが場内を駆け巡った。
「んなもの……アタシは興味ない……」
「はい?」
「地位とか、名誉とか、努力とか……どうだっていい」
しかし、サーシャの目から光は消えない。
「アタシは!! ただゼクスに恩返ししたいだけなんだよっ!!」
「っ!? まだシールドビットを!!」
サーシャの右手がバッと開かれた瞬間。
スカートに覆われるように隠れていたシールドビットが飛び出し、アリーシャへと重い一撃を食らわせる。
「あら、前よりも根性あるじゃない」
「根性だけじゃないぞ。ちゃーんと実力もある」
己の無力さに嘆く乙女は、もういない。
あるのはただ、勝利を追い求める戦士の姿だ。
「集結しろっ!!」
メインシールドを持った右手を天高く掲げる。
地面や木の後ろなどあらゆる場所に隠れていたシールドビットが一点に集まった。
そして、
「……超加速!!」
「っ!?」
メインシールドの後方からジェット機のエンジンみたいな機構が飛び出し、豪快な噴射と共にサーシャの身体を宙へと飛ばした。
「ど、どうなってるんですかぁ!?」
「これがサーシャの技術……才能ありすぎよ」
びっくりギミックを前にレアも素直に感心している。
俺も一昨日見せてもらったのだが……あまりのオーバーテクノロジーっぷりに乾いた笑いしか出なかった。
「飛行したくらいで!! 私からは逃げられませんよ!!」
ギリッと歯を食いしばり、アリーシャも負けじと空へ飛びあがる。
「アリーシャのやつ、しくじったな」
「えぇ。もう少し冷静に立ち回るべきでしたわね」
……自らの判断ミスに、彼女は気づいていない。
「なっ!?」
一瞬で距離を詰めたものの、アリーシャの大剣は標的に届かず宙を斬るのみ。
「突撃しな!!」
「ぐっ!! ああああああああっ!!」
一方、サーシャは空中を自由に飛び回りながら、アリーシャの全身へ一斉にシールドビットを攻め込ませる。
シールドビットの猛攻がアリーシャの身体へ何度も叩きつけられ、生傷を徐々に増やしていく。
(少し深呼吸でもしておくべきだったな……)
メインシールドのジェットで飛び回れるサーシャ。
一方、脚力はあっても空中では自由に動けないアリーシャ。
どちらが有利かは……火を見るより明らかだ。
「まだっ……まだぁああああああああ!!」
「なっ!?」
だが、アリーシャにも意地はある。
宙を飛び回り続ける一機のシールドビットに狙いを定め、近づいた瞬間に脚で思いっきり踏んづけた。
そして、足場として利用し、突き出した大剣と共に突進。
「ガフッ……!!」
「はぁ、はぁ……残念でしたね」
サーシャの腹部に大剣が突き刺さる。
傷口だけでなく、口元からも痛々しく血が吐き出されていく。
勝った。そう確信したかのようにアリーシャの顔に余裕が戻る。
「そうだね……お姉様が負けるなんてさ……!!」
「ぐっ!? は、離しなさい!!」
だが、舐め過ぎていた。
サーシャは最後の力を振り絞り、アリーシャの身体へと力強く絡みつく。
後追いするようにシールドビットも貼り付いた。
「無茶苦茶ですよ!! 何が貴方をそこまで!!」
「かっこいい姿も見せたくてねぇ……!!」
メインシールドから再び勢いよくジェットが真下に向けて噴出される。
何をされるかアリーシャは一瞬で察し、顔を青ざめさせる。
だが、もう遅い。
「はぁあああああああああああ!!」
「うわあああああああああああ!!」
本能のままに叫ぶ声と共に、二人の身体が地上へと急速落下。
流れ星のごとく落ちていく物体が勢いよく地面へ激突し、轟音と共に周囲に砂埃を舞わせる。
「……恐るべき執念ね」
「その辺も姉妹そっくりだ」
勝ち負けじゃない。
必死に何かを成し遂げようとした、その振る舞いが美しい。
一か月前のサーシャとは明らかに違う。
「はぁ……はぁ……」
「……」
ふらつく足で立ち上がるサーシャ。
アリーシャは地面で倒れたまま。
二秒……三秒……四秒……
ピクリとも動かない姉の姿に確信を得て、なけなしの力で天へガッツポーズする。
「アタシの……勝ちだぁあああああああ!!」
その魂の叫びに、会場の熱気が最高潮に達したのは言うまでもない。
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