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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
3章 モブキャラ、修行する

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第49話 モブキャラ、観戦する

「ウォオオオオオ!!」

「はぁあああああ!!」


 青空の下、二人の男が拳を交える。

 汗を流し、血を吐き、気力と本能だけで殴り合う。


「いけー!!」

「ぶっとばせー!!」

「そこだ!! 早く動け!!」


 本気のぶつかり合いに、大観衆は罵声混じりの声援を浴びせる。

 アリーシャが開催した模擬戦。

 思惑にまみれたイベントだが、この人だかりを見る限り成功だと言えるだろう。


「大盛況ですわね」

「かなり宣伝してたみたいだしな……露店も多い」


 周囲には飲食の売店が軒を連ね、賑わいはまるで祭りのよう。

 一か月以上前から準備していたに違いない。


「ご主人様ー! フランクフルトありますよー!」

「ついでにポテトも頼む!」

「はーい! かしこまりましたー!」


 祭りの空気にメディもすっかり浮かれていた。

 両手に食べ物を抱え、つまみ食いしながら駆け回っている姿は、見ていて少し不安になるほどだ。


「いやぁ、大盛り上がりですね! まるでお祭りみたいです!」

「ん?」


 今の台詞――どこかで聞いた覚えがある。


「あっ!」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない……はは……」


 原作のセリフだ!!

 確か三、四か月後の大運動会で遭遇するNPCの!!


 メイドも運動会を見るんだなー、くらいに思ってたけど……まさかメディだったとは。

 シルエットの立ち絵だから気づかなかった。


(面白いなぁ)


 こういう小ネタを見つけると妙に嬉しくなる。

 ゲームオタクは細かい部分に弱いんだ。

 そう思っていると、さらに気になる光景が目に入った。


「いい商売してるな、アリーシャは」

「ん?」


 視線の先では、生徒たちが謎の紙束を手に握っていた。


「へへ……勝ち確だ」

「俺なんか金貨賭けたぜ?」

「当たれ当たれ当たれぇ……!!」


 しわくちゃになるのも構わずこすり続けるその姿は異様だ。

 誰もが口角を上げ、震える手で勝負の行く末を見守っていた。


「まさか勝敗で賭け事を?」

「模擬戦じゃ味わえないスリルだ。食いつく生徒も多いだろ」


 ただの模擬戦に金を絡めることで、興味のない生徒すら引き込んだ。

 アリーシャは本当に上手いことを考える。

 公爵家の娘という恵まれた資金を活かした面白い試みだ。


 そして……俺も稼がせてもらった。


「おーっと!? まさかBクラスの下克上! これは大番狂わせだぁ!!」

「ふふ、アイツに魔力充填を仕込んで正解だった」

「……貴方、詐欺師の才能がありますわよ」


 持続効果のある魔力充填をBクラスの生徒にこっそり付与しておいた。

 そのおかげで大穴を突け、賭け金も倍になって戻ってきた。

 最高だな。イカサマも案外アリじゃないか。


「お、あれを見ろ」


 紙束を大事にしまい、視線を遠くの豪華な席へと向ける。


「生徒会のメンバーかしら? Sクラスでも特に優秀な者しか入れないってウワサの」

「実力だけじゃなく“総合力”が求められる。アリーシャも、このイベントをアピールに使ってるんだろう」


 豪華な装飾の施された椅子に並んで座る二人の生徒。

 サーシャをわからせたい気持ちもあるだろうが、本命は生徒会だ。


 生徒会は実質的に学校を運営し、教師以上の権限を持つ。

 経験者は貴族社会でも特に重宝され、王家に近い立場すら約束されるという。


「わたくしも生徒会を目指しておりますが……こういう陰湿なイベントには賛同できませんわね」

「ほう? レアならどう立ち回る?」

「上級生を含めたお茶会ですわ。無礼者が現れたら……わたくし自ら斬ればいいので」


 無難な企画。だが、地道さこそ成り上がる近道だとレアは知っている。

 この口ぶりからすると敢えて一人を招いて、トラブルさえ演出に変えそうだ。

 本当にそこまで考えてるかは分からんが。


「後は格上に勝つまで挑むのもありですわね。弱い者いじめをするお姉さんとは違って」


 ウインクと共に毒を吐く。

 流石だ。執念深く、強さで証明する姿がレア・スカーレットを現わしている。


「まもなく! Sクラスのアリーシャ様とAクラスのサーシャ様の一騎打ちです! 一ヶ月越しのリベンジマッチを見られるのは今だけですよー!!」


 元気なアナウンスが会場に響き渡る。

 大目玉の対決とあって、大観衆が一斉にフィールドへと流れていく。

 賭けチケット売り場には長蛇の列ができ、熱気がさらに高まっているのを肌で感じた。


(俺も行くか)


 決戦の舞台……ではなく、少し離れたテントへ。

 人混みを避けてたどり着くと、


「はぁ……不安だ……」


 椅子に座り、頭を抱えているサーシャの姿があった。


「今さら固まってどうした? サーシャなら大丈夫だ」

「簡単に言わないでよ。本番前なんだから……」


 決戦の日を迎えても、彼女の不安症は消えていなかった。

 まぁ、むしろ本番だからこそ緊張するのだろう。


「サーシャ」

「へっ……!?」


 その身体を抱き寄せ、両腕を腰に回す。

 さすさすと背を撫でながら、耳元でささやいた。


「どうだ? 落ち着いたか?」


 子供を寝かしつけるように優しく声をかける。

 だが、サーシャの身体はさらに硬直し、熱が伝わるほどに体温が上がっていく。


「こ、これじゃ逆効果だよ……ばか……」

「キスも欲しいのか? 欲張りだなぁ」

「そういう意味じゃない!!」


 バッと押しのけられる。

 それでも感情を高ぶらせたおかげで、緊張は少しほぐれたようだ。


「ま、結果がどうあれ俺はサーシャを見捨てない」

「えっ? こ、この戦いで負けたら、失望するんじゃ……」

「なぜ失望する? 一生懸命戦ってくれたらそれでいい」


 アリーシャに負けるから魅力がないんじゃない。

 アリーシャに縛られない幸せを、俺はサーシャに与えたいだけだ。


「ま、俺は勝つと思ってるけどな」


 もちろんエールは送る。

 サーシャのプレッシャーにならないよう、軽く肩を叩く。

 返事も聞かず、そのままテントを後にした。


「……頑張る」


 小さく漏れた決意の言葉。

 それを聞いて俺は安心した。


 サーシャはもう大丈夫だ、と。


「これより試合を開始します!! 両者、前へ!!」

「ご主人様ー!! こっちですよー!!」

「早くしないと始まりますわよー」


 メディとレアに呼ばれるまま、観客席へと向かう。

 さて、試合の行く末を見守るとしよう。


「逃げずに来たことは褒めますよ。もっとも、結果は変わりませんが」

「アタシは自分と……ゼクスのために戦う。こんなアタシを信じて、見捨てなかったから」

「あの男に惚れたんですか? ふふっ」


 アリーシャが挑発するように言葉を投げかけるが、サーシャは淡々と返すだけ。

 その冷静さにアリーシャは舌打ちし、不満げに顔を歪めた。


「それでは……はじめぇ!!」


 こうして、決戦の幕が上がった。

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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