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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
3章 モブキャラ、修行する

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第47話 モブキャラ、スライムを育成する

「まずは適当なゴミを用意する」


 ポケットから取り出したのは、チリ紙や食べ物の包装紙。

 ここへ来るまでに出た小さなゴミだ。

 それをスライムの前に置くと、ぴょんぴょん跳ねながら飛びついていく。


「……食べましたわね」

「よーし、どんどん食え」


 ゴミはスライムの体に吸収され、謎の消化液によって跡形もなく消えた。

 すべてを食べ終えると、小刻みに震えだし、


「えっ、分裂した?」


 体をぐいっと横に伸ばし、二つに割れる。

 両方とも元気そうに動いており、正直どちらが元のスライムか判別できない。


「スライムは一定量食べると勝手に増える。しかも何でも食べるしな」

「あれだけ倒されやすいのに数が減らない理由はそれでしたのね……」


 スライムは弱い。酷いときは踏みつけられただけで死ぬ。

 それでも絶滅しないのは、何でも食べてすぐ分裂するからだ。


 低コストで増殖するこの生態こそ、スライムが生き残る秘密。

 もっとも、人間と共存するには厄介すぎるが。

 何でも食べるから、ネズミやシロアリみたいに被害を出すのだとか。


「契約モンスターから分裂した個体も自動的に俺の支配下に入る。ただし召喚時の魔力消費は増えるが……」

「スライム二体程度なら大したことありませんわ」

「実際、召喚魔法を試しても全然減らない。むしろ気づかないレベルだ」


 強力なモンスターほど維持に魔力を食うが、スライムは例外的に安い。

 指先に魔力を込めたほうがよほど消費を実感できるくらいだ。


「つまり、強いモンスターではなくスライムを数で押そうとしているのですね?」

「その通り」


 数は力だ。

 いくら弱くても、群れでまとわりつかれれば相手からすれば厄介極まりない。


「でも倒されたら意味がありませんわ。スライムなんて一瞬で消し飛びますし」


 確かに、一体も残らなければ全てが水の泡。

 最低でも一匹は安全に確保しておかねばならない。


「こっちだ」


 安全地帯の場所は原作知識で把握している。

 首をかしげるレアを連れて、一階層を進む。


「……あった」


 五分ほど歩くと、洞窟の隅に小部屋を見つけた。

 扉を開けると、中には空っぽの宝箱が一つ。


「空の宝箱?」


 少し広いだけの空間。

 レアがため息をついたそのとき、


「えーと……上を叩いて、側面を撫でて、三回蹴って、水をかけて……」

「なにをしてますの……?」


 奇妙な動作を一つひとつ入力する。 

 複雑で間抜けな手順をすべて終えると……


 シュンッ!


「よし来た」

「はいっ!?」


 小部屋の床が光り、空間全体が切り替わった。

 宝箱はそのまま。

 内部は広大に拡張され、周囲は暗闇に包まれている。


「ここは……?」

「ざっくり言えば“謎の部屋”だな」


 本来はスタッフの実験用に作られたテストルーム。

 完成後に削除予定だったが、遊び心で裏技として残され、プレイヤーも侵入できるようになった。

 そのせいでゲームバランスは少々おかしくなったが。


「何もないけど、広さは十分だ。ここにスライムたちを放して」


 召喚した二匹のスライムを、謎の部屋へと解き放つ。

 異様な空間に戸惑いながらも、やがて自由に散策を始めた。


「モンスターの気配もありませんわね。つまり、スライムにとっては安全な環境ということ?」

「ここなら外敵を気にせず暮らせる。スライム同士は喧嘩もしないし、極端に数が減ることもないだろう」


 この部屋にはモンスターが出現しない。

 つまり、スライムを安定して増やすには格好の場所というわけだ。


「けど、肝心のエサがありませんわよ」

「あっ」


 しまった。一番大事なものを忘れていた。


「エサか……もっと増やすには一気に用意しないと……」


 学園内のゴミ箱を拝借?

 それもいいが効率が悪い。とくにSクラス周辺は清掃員が常に片付けているからピカピカだ。


 なら学園外に出る? それも手間かかるからなぁ。

 スライム育成に時間を割きたくはない。

 サーシャのこともあるし、俺には他にやりたいことがある。


 片手間に集められるゴミの山といえば……


「あそこがあるじゃん」

「ん?」


 そうだ。最近、大量のゴミを見た。

 地面に好き放題に投げ捨てられ、衛生面が最悪なあの場所。

 学園の闇も、意外と役に立つものだ。


◇◇◇


「よいしょっと」


 翌日。

 俺は地面に落ちているゴミを拾っては、指輪で開いたポータルに放り込んでいた。

 両手に抱える必要がないから、これが意外と楽しい。


「ありがとうー。Dクラス校舎のゴミ掃除なんて、だーれもやりたがらないから」


 清掃ボランティアをしていた生徒に、素直に感謝される。


 Dクラスの校舎は治安が最悪で、衛生管理もゼロに等しい。

 ゴミはそこら中に捨てられ、腐臭が漂う始末。


 俺はそこに目を付けた。

 ここなら、近場でタダ同然にゴミを大量に仕入れられる。


「俺としてはゴミが欲しいだけなので。気にしなくていいですよ」

「ゴミを活用するなんて……さすがSクラス、発想が変わってるねー」


 ……というか、掃除するやつなんていたんだな。

 それでもここまで汚いってことは、


 また殺気を感じた。

 反射的にナイフを投げる。


 ブンッ!!


「ひいっ!?」

「盗みをするなら、まず敵意を隠すところからだな」


 まったく、Dクラスは相変わらずだ。

 そのしぶとさを学びに活かせばいいものを。


「よーし、これを中に入れて……」


 一か所に集めたゴミを、まとめてポータルへ放り込む。

 これで今日の分は片付いた。


「いやー、便利だねー。ここに入れるだけでゴミが消えちゃうんだから」

「いいアイテムを拾いましたよ」


 ただ、ポータルからモンスター以外を出せないのは少々不便だ。

 昔はできたが……さすがにぶっ壊れすぎて修正された。


 面白ギミックを入れるくせに抜け穴が多いというか。

 本当に、このゲームの制作陣はどうかしてる。


面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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