第42話 モブキャラ、新しい武器を手に入れる
「なぁサーシャ。時間がある時に俺の武器を……」
「いいよ」
「ん?」
話の途中だったのに即答された。
「いいのか? 結構手間かかるぞ」
「修行とか悩みとか聞いてくれたし、そろそろアタシも恩返しする番だと思ってね。作れるかはまた別だけど……」
マジか。しばらく安物ナイフで我慢だと覚悟してたのに。
あまりに話がトントン拍子で進んで、思わず「何か取り憑いてないか?」と疑ってしまう。
(中盤でしか入手できないサーシャの武器を? しかもオーダーメイドで?)
原作では武器の種類は限られていた。
あんな武器、こんな武器、
サーシャが作ったらどうなるだろうと想像していた。
なのに途中で彼女が退場し、性能も中盤レベルで止まってしまう。
あの時点では十分優秀だったのに。
「……ははっ」
妄想が、今まさに現実になろうとしている。
大観衆のステージに立ったかのように、心臓が高鳴った。
「サーシャ!!」
「へっ!? は、はいっ!」
興奮のまま、彼女の手をガシッと掴む。
「是非作ってくれ。サーシャの武器を俺は使いたい」
「わ、わかったから……顔近いってば……」
憧れの武器にテンションが上がる俺と、茹でダコみたいに顔を真っ赤にするサーシャ。
迫られるのが好きなくせに恥ずかしがり屋だ。
ゴーストナイトに襲われた時の悲鳴もそうだが、ふとした時に出る乙女な部分こそサーシャの本質かもしれない。
「で? どんな武器が欲しいんだい?」
「えーと……ブーメランになるナイフ」
「……はい?」
欲しい武器を告げた瞬間、サーシャの熱は一気に冷めた。
「折りたたみ式で伸ばせばナイフ。曲げればブーメランとして使える。屍の霊魂があれば、使用者の魔力操作で軌道を自由に曲げられる……」
結論から言うと、今のサーシャには作れない。
俺が口にした“ブーメランナイフ”は、終盤でしか手に入らない武器だからだ。
必要素材を集め、ギデオン工務店の特別サブクエストをクリアして……ようやく完成する代物。
つまり技術的にもフラグ的にも、現時点での入手は不可能と言い切れる。
屍の霊魂だって、手に入ればラッキー程度の素材。
本来はそれナシで発注するつもりだった。
「……はぁ」
そんな無茶振りを前にサーシャは……
「その程度でいいのかい?」
「えっ」
まるで大したことないように即答した。
「ど、どれくらいかかりそうだ?」
「作ったことないから正確には言えないけど……調整込みで明後日にはいけるんじゃないかい?」
「明後日!? 二日で!?」
「きゃあっ!?」
オタクじみた声を上げてしまった。
早い。早すぎる。作れること自体驚きだが、制作期間の短さにもビビる。
(ってことは、他の武器も……?)
脳裏によぎる、終盤に登場する最強クラスの武器たち。
まさか素材さえあれば何でも作れるのか?
今の俺でも、ダンジョンに潜れば素材くらいはいくらでも確保できる。
バランスブレイカーなんて言葉じゃ足りない。
サーシャは、俺の想定を軽々と超えていた。
「珍しく驚いて、どうしたんだい?」
「……すまん。欲しいものを前に浮かれすぎてた」
「アンタにも子供みたいな一面があるんだねぇ。ふふっ♪」
確かにはしゃぎすぎた。
武器はまだ完成してないんだ。深呼吸して落ち着け、俺。
「じゃ、早速作ってもらっていいか?」
「はーいよっ♪」
サーシャは腰に手を回し、あざとく笑った。
まるで憑き物が落ちたみたいに自然な笑顔で、その瞳には強い意志が宿っている。
俺の知らない顔を見せてくれるなら……それでいい。
サーシャの救済は、俺にとって武器よりも優先だ。
(……でも二日ってのはやっぱ気になるな)
些細な動きも可能にするシールドビットを作ったのもサーシャだ。雑な仕事をするとは思えない。
理想にどこまで近づくか……気になる。
◇◇◇
「できたよ」
「……」
二日後……ではなく、“翌日”。
サーシャの研究所を訪れた俺の前にあったのは。
刃の付いたブーメラン。
原作で見たあの”ブーメランナイフ”そのものだった。
「二日かかる想定じゃなかったのか?」
「思ってた以上に簡略化できてね。可変機構も魔法制御も、シールドビットの応用で作りやすかったんだよ」
疲れてる様子はない。
軽いあくびをしながらジュースを飲み、余裕そうにビットをいじっている。
シールドビットは本来かなり複雑だ。
メインシールドとビットに分かれて動き、一つ一つがサーシャの魔力に反応する特殊設計。
……その応用で終盤武器をあっさり作れるものなのか?
「あ、テストはもう終わってるから。好きに使ってみな」
「おお……」
恐る恐るブーメランナイフに触れる。
塗装はシンプルな黒。
外側は鋭いナイフ状で、紙を軽くなぞるだけでスパッと切れる。
内側には大きめの穴があり、グリップ加工もされていて握りやすい。
そして肝心の可変機構。
中心部がギギッと折れ曲がり、少し力を加えるだけでナイフがブーメランに変形する。
折り曲げを繰り返すのが妙に楽しい。まるでDX玩具みたいだ。
(……試すか)
胸の高鳴りを抑えきれず、グラウンドへ。
ちょうど的になりそうな太い木が目の前にある。
ブーメランモードにして、腰まで腕を引き、
しなりをつけて勢いよく……
「えっ」
ブォンッ!!
ブーメランナイフは直線軌道を保ったまま、一気に加速。
木にぶつかった瞬間、豆腐のようにスパッと両断した。
だが速度は落ちない。
「うわぁっ!?」
「な、なんだぁ!?」
ズバァン!!
そのまま校舎の壁に突き刺さった。
周囲の生徒は謎の飛行物体に腰を抜かし、呆然と見守るばかり。
確かに魔力充填はしたが、この切れ味と飛行速度は……
「サーシャ……お前、やっぱ天才だわ」
これで自信を持てない方がおかしい。
姉の影に潰されるなんてくだらない。
俺はそう思いながら、ブーメランナイフの回収に向かった。
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