第4話 モブキャラ、交渉を進める
「マナ鉱石を!? 貴方、今の需要を知らないの!?」
「よくわかってるよ。一大産業として成立するからな」
「……わたくしに好かれたいからって、ここまでしますの?」
「当たり前の事を今更どうした?」
好かれたいんだから貢ぐのは当たり前だろ?
それでベタ惚れするとは思わんがキッカケに繋がる。
マナ鉱石を求めていたレアは何故か呆れているけど。
「と、言いたいが実はもう一つ理由がある」
「もう一つ?」
「スカーレット家に恩を売れる」
それは横の繋がりが大切な貴族社会に置いてかなり重要な事だ。
「ただでさえ貧相な家だ。俺達が市場に卸した所で、他貴族に鉱山を狙われて崩壊するのは目に見えている」
「欲しい物なら奪ってでも手に入れる。貴族社会は実力主義ですからね」
ツイファンの世界はとにかく殺伐としている。
他人を蹴落としてでも成り上がる。
例え殺してでも。
貴族には知識だけでなく武術や魔法の実力さえも評価基準にあげられるくらい。
文武両道を求められる厳しい世界だ。
「短期的に稼ぐならそれでもいい。が、スカーレット家に色目を使えば?」
「……なるほど」
「失いたくないだろ? せっかくの稼ぎを」
スカーレット家にとって重要な稼ぎ柱となるかもしれないバーザム家保有の鉱山。
破格の価格で手に入るマナ鉱石なんて、目の前に現れたら絶対に手に入れたいし守りたい。
「ウチにバーザム家の鉱山を守ってもらいたいと?」
「そこまで過保護じゃなくていい。ただ、スカーレット家の目が付いた鉱山に手を出したらどうなるか? 他の貴族や盗賊はわかるだろ?」
「敵は少ないに越したことはありませんからね」
狙うなら弱いやつからだ。
今は貧乏伯爵のものでも、侯爵家がバックについてるとわかれば手を引く連中は増える。
「しかし、貴方はまだ当主候補。バーザム家にはどう話を通すつもりで?」
「黙る」
「えっ」
面倒なのは父親だが……黙っておけばいい。
「何も言わずに取引は進める。途中でバレたら……気付かなかったお前が悪いと言い返してやる」
「そ、それで良いのです? ここまで反抗的な息子、中々見ませんわよ……」
「問題ないだろ。契約書さえ書いてしまえばこっちのものだ」
侯爵家との契約だ。
後から気づいて取り消せ、なんて無理だからな。
レアとの関係構築のためだ。実家に金は入れるから大目に見てくれ。
「メディ、契約書の準備を……」
「そう言われると思ってここに!!」
「早っ」
俺の行動を読んでいたのか?
用意された契約書にザッと目を通したが不備はない。
メイドってすげー。
「ゼクスの専属メイドですわよね? ゼクスはまだしも当主に逆らうのは……」
「大丈夫ですっ!! 今のご主人様は凄くイキイキしてるので!!」
「あああああ……頭がおかしい」
メディも味方についてくれた。
諦めろ。
「それで? この取引は受け入れるのか?」
「受け入れるも何も破格すぎますわ。無視する方が損です」
「決まりだな」
よしっ!!
これで一歩前進だ!!
「ほいっ。ここにサインしてくれ」
「は、はぁ……」
手渡した書類に首を傾げながらサインをしていくレア。
「契約成立。いい取引ができてよかったよ」
「これでマナ鉱石が……信じられませんわね」
後はマナ鉱石を掘るだけだ。
具体的な場所もゲームで記憶してるし手間はかからない。
いやぁ、素晴らしいお宝が眠ってたものだ。
転生した時はどうなるかと思ったけど、諦めないことって大事だな。
「一つ」
「ん?」
「貴方のワガママを叶えますわ」
そんな俺にちょっとしたご褒美。
危うくティーカップを落としかけた。
「どういう風の吹きまわしだ?」
「わたくしに勝利し、破格の取引を受けた。これで何もしない方がおかしいですわ」
「ほぉー……ワガママ……」
ワガママ……ワガママ……
何でもいいって事だよな?
レアに関するお願いかぁ。
ぷるん……ぷるん……
(おっぱい揉みたい)
身体を小刻みに動かす度に揺れる大きな果実。
あの胸を手の内に収めることができたら……
「っ!? え、えっちな事はダメですわよ!?」
「やべ、バレた」
俺の視線に気づいたレアが胸元を腕で隠す。
「バレたじゃありませんわ!! わたくしの身体はお高いんですの!!」
「何を当然のことを。ここまで美しく凛々しい侯爵令嬢の身体が安くてたまるか」
「お、お世辞を連発しても無駄ですからね!!」
ベタ褒めに決まってるだろ。
レア並の美少女から悪い所を探す方が難しい。
……あれ?
(ゲームの時と全然違うな?)
正規ルートだともっと尖っていて毒の強いキャラだったはず。なのに目の前にいる彼女は喜怒哀楽に溢れた素直な女性だ。
転生直後に蹴り飛ばしたり、すぐに勝負を仕掛けてくる所は原作っぽいけど……
「んー、じゃあ胸は諦めるとして」
「そんなもの最初から考えないでくださいまし……」
俺が色々介入したから?
今の時点で”あのイベント”って発生してたか?
……まぁいいや。
とりあえず別のワガママを言ってみよう。
「スカーレット家の領地に行きたい」
「……ウチに?」
普通のお願いをされた事に驚いたのか、少し反応が遅れるレア。
「お茶会以外で行った事ないからな。レアと領内を歩いてみたいんだ」
「まぁ……それくらいなら……」
「決まりだな」
ちょうどスカーレット家の領地を見たかったんだ。
メインストーリーだと立ち寄る機会なんて無いし、せいぜいモンスター狩りのスポットとして利用してたくらい。
前世のゼクスくんも来たことないみたいだし……
ってお見合いとか全部ウチで済ませてたのかよ。
大丈夫かこいつ。
「やりましたねご主人様!! デートですよデート!!」
「確かにデートだ……やったぜ」
「ふぇっ!?」
言われてみれば。
顔をニヤつかせる俺に対して、乙女のように顔を赤くするレア。
やっぱり原作と違うな?
この辺もスカーレット家の領地でわかるといいが。
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