第39話 モブキャラ、再び出会う
「星が……見える……」
「まだ昼だぞー?」
あれから一週間。
サーシャは魂が抜けたような顔でベンチにもたれかかっていた。体力はまだ残っていそうだが、精神的にかなり参っている。
「今から散歩でも行かないか?」
「散歩? どうせダンジョンにでも行くんじゃ……」
「おぉ、大正解。冴えてきたな」
はぁ? と言いたげな顔。多分、適当に答えただけだろう。
「受け流しはもう十分。ここからはアドリブ力を鍛える。行くぞ」
「はーいはい……」
悪態をつきながらも立ち上がり、俺の後に続く。
「戦いは常に予想外の連続だ。冷静に立ち回るなら……ダンジョンが一番だ」
奇襲、突然変異、モンスター同士の連携。
イレギュラーが当たり前のダンジョンは最高の修行場だ。原作でも魔法強化や戦術の実験によく使われていた。
「おい、あれって……」
「サーシャ・クラウンじゃん。お姉さんにボコられたって噂の」
廊下を歩くだけで浴びせられる嘲笑。
Sクラスの姉に完敗したAクラスの妹。鼻で笑う下位クラスの生徒すらいる始末だ。
「どうせアタシなんか……」
反論もせず、ただ諦めたように視線を落とす。悲しむ余裕すらない。
(比較対象が悪すぎるんだ。優秀な素人がプロに勝てるわけがない。Aクラスにいる時点で十分凄いんだってこと、本人にわからせてやらなきゃな……)
そう考えた矢先――
ドォオオオオン!!
轟音と共に地面が揺れた。
庭に出てみると――
「なんだ、これだけか。大したことないね」
不満そうに財布を確認するキザな男子生徒。その足元には、殴られて伸びている生徒が転がっていた。
「落ちぶれたな、ギラン様。元Sクラスの看板が泣くぜ」
「お前は……ゼクス・バーザム!!」
ギランが歯ぎしりしながら睨みつけてくる。
なるほど、カツアゲか。家を壊して多額の賠償を負ったと聞いていたが……。
「お前に負けて、模擬戦でも負けて……僕はBクラスまで落ちたんだぞ!!」
「そんなに弱かったのか?」
「借金とストレスでコンディションが悪いだけだ!」
模擬戦でギランを倒したのは原作主人公のライト。序盤でSクラス撃破とは、さすがだ。
「お前だけは許さない……ここで殺す!!」
「おっと」
ギランが魔力を練り始めた瞬間、俺は脚に魔力を集中させ、一気に間合いを詰める。
「ゴフッ……!!」
鋭い右ストレートが胸に突き刺さり、ギランは足元をふらつかせた。動体視力が追いついていない。俺自身も成長しているのを実感する。
「てめぇ……!!」
「口調も荒れたな。――おい、サーシャ」
「へ? アタシ?」
「後は任せる」
「は、はぁっ!?」
盾を落としそうになるサーシャ。だがこれ以上の特訓はない。
「安心しろ。指示は俺が出す」
「結局アタシがやるんじゃないか……」
渋々シールドを構える彼女に、ギランは指を鳴らし不敵に笑った。
「前みたいにパンツ丸出しにしてやるよ!」
「相っ変わらず気持ち悪い男だねぇ……腹立つ!!」
ドォオオン!!
地面からツタが生え、左右からサーシャを襲う。
「前方にダッシュ。同時に空中と地面にシールドビット展開」
「はいよ!」
指示通りに動いたサーシャ。ツタは軌道修正できず壁に突き抜ける。
「なめるな! 僕のツタは地面だけじゃない!!」
「メインシールドで受け流せ。空中ビットも移動」
突き出されたツタを、サーシャは盾で受け止め、右へ流す。
「な、なに!?」
「後はサンドイッチ……わかるな?」
バランスを崩すギラン。勝負は決まった。
「シールドプレスッ!!」
前方の盾と、空中・地面に展開された計四枚のビット。
それらが一斉に襲いかかり、ギランを豪快に挟み込む。
「が、ががが……!」
特に頭上のビットが効いた。疲労で回避できず直撃したらひとたまりもない。
「ア、アタシが……元Sクラスを……?」
格上を倒したという事実に、サーシャは呆然と立ち尽くす。
「お前は戦えるんだ。行くぞ」
「あ、あぁ……」
肩を軽く叩き、再びダンジョンへ足を進める。
実力は確実についてきている。後はメンタル次第だ。
(よし、バグワープで中層まで行くか。多少難しい方が身になる)
「ギランが絶好調でも勝てるのか?」
「当然。少し時間はかかるけどな」
条件も満たしたし、素材もゲット。いい流れだ。




