第38話 モブキャラ、悪魔の修行をする
「まずは先入観をなくそう」
「先入観?」
訓練場にて、俺とサーシャの二人きりの修行が始まった。
ここは便利だ。職員に申請するだけで誰でも使え、広さもバスケットコートほどあって戦うにはちょうどいい。
「盾は防ぐもの。そう思ってないか?」
「思うも何も、それが盾の本来の役割だろう?」
「普通はな。だがサーシャの場合は、その役割から離れた方がいい」
首を傾げるサーシャ。まぁ普通は防御がメインだと思うよな。
だが俺は、彼女の盾にはもっと応用できる可能性を感じていた。
「シールド”ビット”だろ? 空中でも自在に操れる武器を、防御だけに使うなんてもったいない」
「ビットで多方向から殴れとでも?」
「いい線だ。が、それとは別に……」
「っ!?」
ビュンビュンビュン!
俺はクラッシュビーンズを軽く投げ、サーシャの足元に叩き込んだ。
バランスを崩したサーシャは尻もちをつき、驚きの声を上げる。
「な、何をするんだい!?」
「今の位置にシールドビットを飛ばしたらどうなる?」
「……相手が転ぶ?」
「パーフェクト。やっぱセンスいいな」
僅かなヒントで答えを導き出すとは。素晴らしい。
「転ばなくても、相手の動きを制限したり無駄な動きを増やせる……とか?」
「ほぉ……」
一つの答えで満足せず複数案を出す。応用力がある証拠だ。
やはりAクラスは伊達じゃない。
「サーシャ、お前は優秀だ。誰が何と言おうと俺が保証する」
「はいはい……アンタの褒め言葉は聞き飽きたよ」
だがこれはお世辞じゃない。
彼女は必ず伸びる。そう確信した。
「他にもシールドビットの活用法はある。例えば……」
「へっ!?」
例を挙げるフリをして、俺は大きく踏み込み、拳を突き出す。
ガァンッ!!
「もぉ! アンタは何もかも突然すぎるよ!!」
「いい反応速度だ。が、今の攻撃もアリーシャなら容易く砕いていた」
「っ……そうだね」
鈍い衝撃が盾にめり込み、ギリギリと震わせる。
ならば、より再現度を高めよう。
俺は光装剣を生成し、振り上げた。
「ちょっ!! 流石にやりすぎじゃないかい!?」
「シールドブレイクの再現だ! 死なないよう加減はするから安心しろ!」
「安心できるわけないだろ!?」
サーシャはシールドビットを操作し、正面に盾を張りつつ残りを俺の足元に突き立ててくる。
学んだことをすぐ試すのはいい傾向だ。だが、
「アリーシャなら、こうする!」
俺は大きく跳躍し、盾とビットをまとめて飛び越える。
頭上から光装剣を振り下ろす。
「もう、このままじゃ……!」
「考えろ! 盾は正面で受け止めるだけじゃない!」
次の瞬間サーシャは、
「ぁあああああああああ!!」
ドガァアアンッ!
原作でも見たことのない動きを見せた。
「ほぉ……」
剣は彼女の横を通り過ぎ、地面に突き刺さる。
盾を支点に、自ら体を流して衝撃を逃がしたのだ。
「見事な受け流しだ。それなら盾に負荷をかけず、強大な攻撃も防げる」
「……受け流し?」
無我夢中だったのか、サーシャは実感できず盾をぎこちなく動かすだけ。
「よーし、もう一回いくぞー」
「はぁっ!?」
新しい戦法は、繰り返してこそ身につく。
しかし体力には限界があった。
◇◇◇
「ゲホッ……ゲホゲホ……」
咳き込みながら立ち上がるサーシャ。
さっきの蹴りを受け流せず、衝撃をもろに受けていた。
(限界か……)
思考も鈍り、身体も動かない。
もう入れ物のようだ。
「もう……限界……」
「大丈夫だ。すぐ元気にしてやる」
「へ……?」
俺は彼女の手を握り、魔力を流し込む。
血色が戻り、瞳に再び光が宿る。
「これは……」
「アリーシャに倒された時も治したろ? もう動けるはずだ」
重い身体が一気に軽くなり、サーシャは何度も手を握り直す。
「アンタって本当に凄いんだね……」
「魔力充填だ。この程度の怪我や疲労なら一瞬で治せる」
外傷も疲労も、魔力がある限り何度でも回復できる。
精神的な部分は別だが……少なくとも動けるようになった。
「じゃ、続きしようか」
「ひっ!?」
サーシャは盾で顔を隠し、震え上がる。
この訓練には体力の限界など存在しない。
俺の魔力と彼女の心が折れない限り、永遠に続けられるのだ。
「安心しろ。俺は愛する人には優しくしたい」
「優しさの欠片もないだろ!? 助けてええええ!!」
日が落ちる前には切り上げる。
ブラック企業みたいな時間労働はごめんだからな。
そうして……地獄の受け流し特訓が再開された。
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m(_ _)m




