第37話 モブキャラ、ご褒美を楽しむ
「ご主人様ー!! どうですか~♡」
「……素晴らしい」
純粋な笑顔を浮かべながら、フローリングの上で軽やかに踊るメディ。
ヒールの歯切れよい音が響き、際どい衣装も相まって、否応なく劣情を煽る。
(これがバニースーツ……)
身体にぴったり密着する黒いハイレグスーツ。肉感を強調する胸元と脚線美。
黒と肌色を際立たせる網タイツ。
お尻には謎のポンポン、そして長いウサ耳カチューシャがセクシーさに可愛さを添えていた。
「今日はいっぱい頑張りましたからね! メイドからのご褒美です♪」
「俺はなんて素晴らしいメイドに好かれたのだろう……幸せという言葉だけじゃ足りん」
「ふふっ、喜んでくださるだけで十分ですよっ」
俺が幸福を噛みしめると、メディの手が優しく肩に添えられた。
合同模擬戦を勝ち抜いたご褒美らしい。サーシャの件もあり、心身ともに疲れていた俺を癒したかったのだろう。
大好きなコーラで疲れを吹き飛ばすつもりだったが……もうジュースじゃ足りない。
(エロの塊だ……いつも以上に頭が馬鹿になる)
ラバーが擦れ合う音。果実のように甘い香り。
そして張りのある脂肪を包む、傷ひとつない白い肌。
五感を立て続けに刺激され、喉が勝手に鳴った。
「ご主人さまぁ♡」
吐息混じりの声が心臓を暴れさせる。
今日はこのまま……そう決意しかけ、メディの肩を掴んで立ち上がろうとした瞬間。
「……ふん」
「レア? 随分と遅かった……」
愛しい声に我に返る。導かれるまま視線を向けると、
「な……」
欲情を吹き飛ばす衝撃が視界を支配した。
「こういうのが好きなんでしょう? 今日くらいはハメを外そうと思って」
レアまでもがバニー姿。色は情熱的な赤。
布は胸をかろうじて覆う程度で、彼女が動くたびに揺れが強調される。
下半身は何も履いておらず、鍛え抜かれた脚線美が惜しみなく晒されていた。
それだけでも限界だが、何より……
「まさかのイメチェン……やらしいですねぇ」
「ちょっと! ただの気分転換になんてことを言いますの!」
普段は丁寧に巻かれたドリルツインテが解かれ、腰まで真っ直ぐに伸びる黄金の髪へ。
赤のスーツを背景に、光り輝くその髪が一層映える。
さらに目元には細いフレームの眼鏡。伊達だろうが関係ない。
その一点がレアを知的に見せ、まるで禁断の授業を受けるような背徳感を与える。
「で、どうなのよ? 黙ってないで何か……」
「レア」
「へ? ちょ、ちょっと……きゃっ!?」
理性は完全に弾け飛んだ。
レアだけを見据え、一直線に歩み寄り、彼女の身体を抱え上げる。
そのまま寝室へと運び、勢いのままベッドに倒れ込んだ。
「愛してるぞ」
「な、何これ!? 予想外すぎ……!」
「ずるーい!! 私も混ざりますー!!」
今夜は欲望を出し切るまで終わらない。
暴れるレアの口を塞ぎ、俺は自分の服へ手をかけた。
覚えているのは、そこまでだ。
レア達の乱れる姿や声が断片的に残っているが、どうやら想像以上に楽しんだらしい。
◇◇◇
side:???
「弱いやつ、いないかなー」
下層クラスの敷地を堂々と歩く。
ガラの悪い生徒ばかりで、楽しそうな俺の姿に敵意を剥き出しにする。
ここは治安が悪い。奇襲は日常茶飯事、殺人すらあるという噂もある。
怖いねー。
「げふっ!」
「ちっ、これだけかよ」
「しけてんなぁ!」
あれ、この声? 向こうの寮だ。
こっそり近づいて覗き込む。
「お前ごときが成り上がれるかよ」
「一生俺らのサンドバッグだ! ハハハ!」
ガラの悪い二人に、ひ弱そうな眼鏡くんが一方的に殴られていた。
顔は腫れ上がり、血を吐き、服はボロボロ。見るに堪えない。
「おめでとうございまーす♪」
「へ?」
二人が去ったあと、俺は笑顔で彼に駆け寄った。
「君はこのアイテムの被験体に選ばれました!」
「アイテム……被験体……?」
「じゃじゃーん!」
取り出したのは禍々しい鉱石。
表向きには“魔装結晶”で括られているが、実際はもっと細かく分類されている。
今、俺が持つのは試作の特別品だ。
「虐げられてばかりの人生、嫌だよね?」
「っ……」
心を揺さぶる。
「いつまであいつらに殴られてるつもり? 成り上がりたいだろ?」
「そんなの……できるわけが……」
あぁ、いい。
弱さに囚われている。だからこそ適合する。
「じゃあ試してみよっ♪」
「あ……」
眼鏡くんは言われるまま結晶を握る。
光を放つ鉱石を、不思議そうに見つめながら。
「準備ができたら、自分の身体に刺してみて。君の人生が変わるから」
そう言い残し、その場を去る。
候補者の近くに置くのもいいが、直接言葉をかけた方が確実だ。
Aクラスの病んでる奴らは結局手を出さず、苛立ったものだ。
「グォオオオオオオオオオオ!!」
ほら、この通り。
いい声だ。弱さを抱えた悲鳴こそが適合の証。
その心が世界を壊す。強さだけで成り立つこの世界を。
デストレーダーは、君のような人を求めているのさ。
頑張ってね。
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m(_ _)m




