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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
2章 モブキャラ、入学する

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第36話 モブキャラ、場をおさめる

「一体どこで手に入れたの!? 答えなさいっ!!」

「落ち着け、レア」

「これが落ち着いていられますの!? 彼女はデストレーダーと関わりがあるかもしれませんのよ!?」


 レアは素早く剣を抜き、サーシャの喉元に突きつけた。

 穏やかに見守っていた雰囲気から一転。

 歯ぎしりと共に殺気を放ち、鋭い目つきで場を威圧する。


 答え次第では本気で斬るつもりだな。

 レアはやる時はやる。相手が故郷を滅ぼしかけた魔装結晶を持っているのだから。


「ア、アタシは……」

「全部聞いてからだ。脅されたら話もできないだろ?」

「っ……わかりましたわ」


 刃を突きつけられたサーシャは震えながら固まっていた。

 そんな彼女の姿を見て、レアは苦虫を噛み潰したような顔で、ゆっくり剣を下ろす。


「大丈夫だ。いざとなったら俺がなんとかする……話してくれ」

「……」


 俺はサーシャの肩に手をポンと置く。

 原作の知識が正しければ、彼女は無実だ。レアの疑念は当然だが、俺には確信があった。


「……ある日、机の上に置かれてたんだ」


 サーシャは視線を逸らし、一言ずつ気を使いながら話す。

 やっぱり、原作通りだ。


「サーシャの作業場か?」

「あぁ……なぜあったのかはわからない。でも調べたらわかったよ。あのアイテムが存在してはならない物だって」

「デストレーダーだな。あいつらは自分らの考えに賛同しそうなヤツを狙っている」

「……また物騒な名前を聞いたね」


 原作でもサーシャはデストレーダーに利用された。

 姉に勝てず、負の感情を抱え続けた彼女に近づき、悪魔の力で心を揺さぶったんだ。


「で? デストレーダーが求めてる人間って何だい?」

「弱さを抱えた人間だ。ヤツらは“救済”と称して虐げられた者に暴走する力を与える」


 弱さ、と聞いたサーシャは自分の手を見つめ、苦笑を浮かべる。


「スカーレット領の前の当主もそこを突かれたのよ」

「スカーレット領? そういえば何か月か前に騒動があったって……」


 デストレーダーの目的は「弱さを抱えた人間を救済し、真の幸福をもたらす」こと。

 強者が支配する世界を壊す、という建前は聞こえがいい。

 だが実際は、利用できそうな者に身に余る力を与えて暴れさせているだけだ。


 救済ではなく、ただ自分たちに都合のいい世界に変えたいだけ。


「学園の教師に渡さなかったのは何故? 自分で使おうと思ってましたの?」

「……悩んでた」


 サーシャは指を強く絡め、祈るように顔を伏せる。


「使っちゃいけない。だけど力は手に入る。お姉様に勝てなくて、どうしようもない時は……って」

「ふぅん……」


 レアの視線は冷たいままだ。

 強さと誇りを信念とする彼女には、弱さに迷うサーシャの気持ちは理解できないのだろう。


「一か月後、お前はアリーシャと戦うことになっている」

「えっ!? な、なんで勝手に……」

「勝てるからだ」


 状況が呑み込めず口をポカンと開けるサーシャに、俺は確信を込めて話し続ける。


「まだ諦めるには早い。今回は俺という最高のアドバイザーがいるからな」

「だけどたった一ヶ月で……お姉様に勝てるわけがない」

「負けたら対策すればいい。それだけの話だ」


 俺は白いカーテンを開け、周りの物をどかしてスペースを作る。

 レアとサーシャが不思議そうにこちらを見ていた。


「例えば……」

「っ!? その動きは……!!」


 俺は演武を始めた。パワーに任せて突っ込み、目の前の盾を粉砕するイメージ。

 ナイフだから完全再現はできないが、大体は伝わるだろう。


 今のはアリーシャの動きだ。ゲームで見たモーションの真似でもある。


「なぜアンタがお姉様の動きを……正確すぎる……」

「アリーシャの動きを再現したの!? どんな記憶力してんのよ……」

「俺は生まれ変わったんだ。これくらい楽勝」


 脳裏に嫌というほど焼き付いたアリーシャの姿。

 それが俺を通して再現されたことに、二人は信じられないという顔をする。


「流石に魔法の完全再現は無理だが、アリーシャのパワーなら魔力充填で再現できる。盾の使い方も含めて、俺と実戦的な訓練を積めばいけるはずだ」

「……約束は取り消せないんだろう?」

「アリーシャもびっくりしてたぜ。サーシャが努力できるわけないって、余裕そうだった」


 俺がアリーシャを再現し、思考や癖までトレースして戦う。

 負ければ改善点を指摘し、いい所は褒める。


 サーシャにとって最高の環境を整えたつもりだが……


(選ぶのはサーシャ次第だ)


 どれだけ良い道があっても歩くかどうかは本人次第。

 サーシャはシーツを握りしめ、布のこすれる音だけが医務室に響く。

 やがて顔を上げ、ゆっくりと言った。


「最後の悪あがきだ……アンタの訓練に付き合うよ」


 俺は思わず彼女の手を握った。

 驚いた様子を見せたが、すぐに意図を理解し優しく握り返してくれる。


「これは俺が預かっておく。どうしようもない時は俺の所に来い」

「へっ? 教員に渡さないのかい?」

「選択肢は多い方がいいだろ。仮に暴走しても俺が止めてやるから安心しな」

「……変わってるね」


 サーシャの逃げ道を敢えて残したのは、俺にとっても奥の手になるからだ。

 レアは複雑な顔をしていたが、察したのか何も言わなかった。


 話は一段落した。

 俺は軽く手を振り、医務室を後にする。


「ちょっと城下町から外れた場所に美味しいケーキ屋さんがあってー」

「えー!! あそこケーキ屋さんだったんですねぇ……あ、ご主人様おかえりなさーい」

「相変わらずマイペースね……」


 外では三人が女子トークに花を咲かせていた。

 真剣な話をしていた身からすると、少し拍子抜けする。


「話は終わった。メイ、メル」

「「はい?」」

「学園で変わったやつを見たら俺に教えろ。些細なことでもいい」

「「わかりましたー♪」」

「よし、いい子だ」


 伯爵娘二人の頭を撫でると、彼女たちはスキップしながら医務室を去っていった。


「メディもだ。学園内にデストレーダーが潜伏してる」

「えぇっ!? それってヤバいんじゃないですか!?」

「激ヤバだ」


 俺としても動きが早いと感じる。

 原作ではもう少し後だったのに……俺が色々改変したせいか?


「一応マヤ先生に話は通すが……教師は何も動かないだろうな」

「動かない? どういうことよ?」

「自分のトラブルは自分で解決しろ。戦争レベルじゃなきゃ動かないらしい」

「呆れた……どこまでも実力主義なのね」


 教師たちは生徒を守るより、強い生徒を育てることを優先している。

 卒業後に名を上げれば、自分たちの立場も上がるからだ。


 学園というより研究場に近い。

 もちろん、度が過ぎれば処罰はあるし、最低限のことはしてくれるが。


「レアも調べるのはいいが、感づかれないようにな」

「わかってますわ」


 さて、俺もデストレーダーについて調べたいが……今は餌を撒いている段階か。

 なら、生徒が暴走するのを待った方がいい。


 少々気の毒だが、魔装結晶が使われた場所には必ずヤツらが現れる。

 問題は、いつどこで起きるかだ。


 修行しながら、気長に待つとしよう。


面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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