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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
2章 モブキャラ、入学する

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第34話 公爵令嬢、叩きのめされる

「はぁあああああああ!!」


 ドォオオオオオオオン!!

 轟音と共に何かが壁に激突し、周囲にとてつもない衝撃波を巻き起こす。


 あれがアリーシャとサーシャの試合か?

 試合というより、一方的にしか見えないが……


「ゲホッ……ゲホゲホ……」

「嘆くだけで何もしないからです! 私が強いのは才能ではなく、努力を重ねてきたからです!!」

「だ……まれ……」


 大剣を突きつけるアリーシャに対し、ボロボロの身体で壁にもたれかかるサーシャ。

 圧倒的だった。SクラスとAクラスでここまで差が出るものなのか。


「ぁあああああああ!!」

「シールドブレイクッ!!」

「っ……くぅ……!!」


 ヤケクソ気味にシールドビットを飛ばしたサーシャ。だがアリーシャの大剣はそれをいとも容易く斬り裂いた。


(アリーシャの得意魔法“シールドブレイク”。サーシャに対して相性が良すぎるな……)


 盾や防御系の魔法に対して特効を持つ……それがシールドブレイクだ。

 暴れ回るアリーシャの戦闘スタイルと噛み合い、並の防御では簡単に突破されてしまう。

 原作でも「守る」より「回避や先手必勝」に徹することでしか攻略できなかった。


 盾使いのサーシャに対し、盾を壊すことに特化したアリーシャ。

 どちらが有利かは言うまでもない。


「姉妹であそこまで差があるなんて……サーシャが拗ねるのも無理ないわね」

「それもあるが……アリーシャの性格にも問題がある」

「アリーシャ? あぁ……そうね」


 アリーシャの性格を話題にすると、レアも苦笑しながら頷いた。


「貴方は武器を作るばかりで、逃げているだけです! 努力しないサーシャに私が倒せるはずがありません!」


 努力すれば誰でも強くなれる。アリーシャはそう信じている。

 自分がそうだったから。Sクラスという称号がその信念をさらに極端にしてしまった。


 だが、それはあくまで結果論だ。

 努力だけでなく、才能や環境といった他の要因も関わることを彼女は理解していない。

 努力主義の押し付けはサーシャをさらに追い込み、迷走させるだけだった。

 原作のアリーシャルートも同じだ。


 努力ばかりの彼女に、主人公が「別の世界」を見せることで救う。

 結果的に考え方は変わるが……今は序盤。


 アリーシャはまだ変わっていない。


「やっぱアリーシャ様が一番だよなー!」

「サーシャ様ってあんなに情けなかったんだ」

「同じ公爵家なのにここまで差が出るなんて……才能の差だよねー」


 ここは貴族の多いグランヴァル学園。

 実力こそ全てだ。

 極端なアリーシャの理論も、その力が証明してしまった。


 だからサーシャを庇う者は一人もいない。

 向けられるのは冷たい視線と辛辣な言葉ばかり。

 逆にアリーシャには称賛の声しかあがらない。


「嫌な空気ー……」

「怖いよねー……」


 伯爵娘二人もその異様な空気に怯えていた。

 逆に言えば、これがグランヴァル学園という場所なのだ。


「ぐっ!!」


 ドガッ!!


 倒れるサーシャを、アリーシャが容赦なく蹴り飛ばす。

 おいおい、まだ続ける気か?

 サーシャにはもう戦う力なんて残っていない。辛うじて呼吸をしているだけだ。


 審判は……笑ってる?

 サーシャがいたぶられるのを楽しんでいるのか。悪趣味なヤツだ。


 ――キラッ。


「ん?」


 サーシャの胸ポケットから、一瞬だけ禍々しい光が漏れた。

 あの光……見覚えがある。

 初めて見た時のインパクトを、今でも忘れていない。


 “あの石”を持っているのか?

 どこで手に入れたんだ……いや、今はそれより。


「ゼクス? どうしたのよ?」


 俺は人混みをかき分け、二人の戦うフィールドへ向かう。

 極限まで追い詰められたサーシャがあの石を使ったら終わりだ。


 大勢の生徒が見ているこの場で、禁忌のアイテムを使えば一線を越えることになる。

 それだけはまだ許されない。


 もう勝負はついている。

 部外者が入ったところで結果は変わらない。


 ビュン!!


「なっ!?」


 ガキィン!!


 アリーシャの大剣を、俺は両手のナイフで受け止めた。


「……ちっ」


 その瞬間、左手に握っていた安物のナイフにひびが入り、粉々に砕け散った。

 これで五本目だ。たった一週間で使い潰してしまった。

 そろそろ素材集めにダンジョンへ潜る頃合いかもしれない。


「まだ模擬戦は終わっていませんよ?」

「勝負はついた。サーシャはもう動けない。アリーシャの強さは十分証明できただろ?」

「……そうですね」


 不満そうな顔をしながらも、アリーシャは大剣を背負った。

 本気で気絶するまでやるつもりだったのか……容赦なさすぎる。


「ん?」

「どうでしょう? サーシャよりも私の方が魅力的だと思いますが」


 差し伸べられた手。

 努力こそ正義のアリーシャが、他人を認めるのは珍しい。

 さっきのブーロンとの戦いを少し見ていたのだろう。


 俺も美少女に好かれるようになったものだ。


「ゼクス……」

「ご主人様……」


 レアもメディも、伯爵娘二人も。

 息を呑みながら俺の選択を見届けていた。


(さて……)


 手を取るのも悪くない。

 原作では楽しめたアリーシャルート。俺というイレギュラーが加われば、どう変わるのか気になる。

 彼女と交流を続ければ、努力主義を改善させることだってできるかもしれない。

 それでサーシャが救われるなら……


「行くぞ……サーシャ」

「なっ!?」


 だが、それは俺が求めるルートじゃない。

 差し伸べられた手に背を向け、俺は倒れるサーシャに両手を伸ばし身体を抱え上げた。


「なぜそこまでサーシャに肩入れするのです!? あの子は何も変わりませんよ!」

「いーや、変えてみせる。俺にとってはサーシャの幸せが大事だからな」

「愚かな……努力できないサーシャの、何を変えるというのです!?」


 例え茨の道でも。

 例え愚かな道でも。


 破滅するしかないヒロインを、俺は救う。

 誰も知らない「IFルート」を、俺が切り拓く。


「一ヶ月でアリーシャに勝つ、と言ったら?」

「私に……!?」


 俺の発言に、アリーシャはもちろん、周囲も大きく動揺した。

 無謀? そう思うだろう。だが俺には経験がある。


 この世界をやり込んだゲーマーだぞ?

 ジャイアントキリングはお手の物だ。

 証明してやる。

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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