第32話 モブキャラ、またSクラスと戦う
「らぁあああああああ!!」
「とりゃああああああ!!」
剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。
互いに全力を尽くし、勝利を掴んだのは。
「やたー!! 勝ったー!!」
「あ……がが……」
Aクラスの生徒だった。
Bクラスの挑戦者は敗北。残念。
「成り上がりは厳しそうだね」
「普通はな。けど何度もやるうちに双方強くなるんだ」
「ふーん……なるほど」
実際、序盤で勝ち続けるのは原作でも難しかった。
けれど戦うだけで経験値は多く手に入るし、新しい魔法に目覚めることもある。
ハードに見えて、実は初心者救済イベントでもあるのだ。
「あら、お二人そろって観戦中?」
「アンタは……レア・スカーレット侯爵令嬢?」
「わたくしの名を覚えていただけたのね。ありがとうございます♪」
スカートの裾を優雅に持ち上げ、丁寧にお辞儀するレア。
「印象に残った理由は?」
「パーティ会場でウチの従者を叱っていたからねぇ。あれが公爵家の代表する態度なのかって」
「わたくしの呼びかけを何度も無視しましたのよ? あの馬鹿にするような態度……許せませんわ」
「あぁー、そりゃ怒るな」
マナーや礼節に厳しいのは当然だ。
いくら下の貴族といえど、従者ごときが威張る理由はない。
パーティ会場で静かに怒りを燃やすレアの姿は容易に想像できた。
「一体どういう風の吹き回しだい? パーティの時はアタシよりもお姉様と話してたのに」
「ウチの婚約者がすごーーく興味を持ってましたの。だから今のうちに仲良くなりたいだけですわ」
「はん、アタシがこいつに惚れるとでも?」
「さぁ? そこはゼクス次第ですわ」
ウインクと共に、期待を含んだ視線を投げてくる。
サーシャもいずれ惚れる、とレアは信じているのだろう。
「お姫様二人に好かれるなんてな。俺は幸せ者だ」
「調子に乗らないことですわ」
「勝手に惚れたことにするな」
「おや?」
さっきまで好意的かと思いきや、同時に冷たい視線。
二人とも俺からそっぽを向いてしまった。
……ふむ、まだまだ好感度は足りないか。精進しないとな。
「さて、次は俺の番か……レアもだな?」
「そのようですわ。Aクラスに格の違いを思い知らせてあげます」
「なら、俺も格を見せつけないとな」
呼ばれた。
相手はAクラスの生徒らしいが……手を抜く気は一切ない。遠慮なく勝たせてもらおう。
「サーシャ、応援してくれよ。そうだなぁ……“ゼクスくん頑張ってぇ♡”みたいな感じで」
「そんな馬鹿あざといことするか!! さっさと行け!!」
えー、サーシャの全力エールが見たかったのに。
残念。
「「ゼクス様ぁ!! ファイトー!!」」
「ご主人様ー!! カッコイイところ見せてくださーい!!」
「ほら、馬鹿あざといのも悪くないだろ?」
「なぜこいつに……はぁ」
一方で、メイドと伯爵娘コンビは期待通りの声援を送ってくれた。
余談だが、この二人の名前はメイとメル。
似たような名前で覚えやすい。
「よ、よろしくお願いします……」
「ふむ……」
フィールドに立ち、相手と向き合う。
やけにビビっているな。
この男子生徒が誰かは知らないが、Aクラスならもう少し自信を持ってもいいのでは?
あっさり勝負が終わりそうだな。
そんなことを考えていた時だった。
「こんなひ弱そうなヤツとゼクスが戦うってか!? あっち行ってろ!!」
「へっ!? うわあああああああ!!」
ブォン!!
気弱な男子生徒がデカい男に掴まれ、遠くまで勢いよく投げ飛ばされた。
「ブーロン? 何の真似だ」
「合同だか何だか知らねぇが、圧勝ばっかの試合もつまんねぇだろ? 俺様と勝負しろ!!」
「ほぉ……」
そこまでして俺と戦いたいのか。
ブーロンのヤツ、拳をブンブン振り回してやる気満々だ。
「ギランの野郎をぶっ飛ばしたんだろ? いつまでも舐めた態度でうぜーし、ここで解らせてやる!!」
「俺を厄介者扱いか……お互い似た者同士だな」
「んだとぉ!?」
まぁいい。ブーロンにも俺の実力を思い知らせたかった。ここで決着をつけるのも悪くない。
むしろAランク相手より歯ごたえがありそうだ。
「それにいい女達を従えてる……ぐへへ、ペロペロされてぇなぁ」
「「「いやぁああああああああああああ!!」」」
舌なめずりしながらメディたちを見つめる姿は、マジでキモい。
三人仲良く肩を寄せ合い、震える足で距離を取る。
俺ですら背筋が寒くなった。
「ご主人様!! 遠慮なくやっちゃってください!!」
「Sランクだけど、アレに従うのは絶対イヤ!!」
「ゼクス様の方がいい!! かっこいい所も見たいしー♪」
……ウチの三人娘も困ってるんだ。
徹底的にボコボコにしてやる。こいつに手を出されるなんて想像もしたくない。
「ちょっと困りますよ!? 合同模擬戦なんですから!!」
「まあいいだろ? Sクラス同士の戦いもB〜Aクラスの参考になるはずだ」
「し、しかし……」
審判役の生徒は不満げだ。
本来なら同じクラス同士の戦いなんてルール違反だ。
だが、悪い提案でもない。
ブーロンの実力を見極めたいし……お、なにか始めやがったな。
「さぁさぁ寄った寄った!! Sクラス同士のガチバトル!! 見たいに決まってるよなぁ!?」
「「「おおおおおおおお!!」」」
「この盛り上がりを台無しにして、暴動を起こされたら困るだろ?」
「な、何煽ってるんですかぁ!? ……はぁ、わかりましたよ」
この大歓声を前に、審判も折れるしかなかった。
くく、やっぱりイレギュラーがあった方が面白いな。
「勝てるのかい?」
「半々くらいか? ギランとはまた違う強さだからな」
ギランも原作とは違う技を身につけていた。
ブーロンも俺が知らない技を持っているかもしれない。
想定通りの戦いになるとは思えない。
だが、負けるつもりは一切ない。
「……頑張りなよ」
「はいはい……お?」
俺の耳元でサーシャが囁いた。
赤くなった耳を見せたまま背を向け、観客席へ歩いていく。
……応援してくれたのか?
嬉しいねぇ。今のでさらにやる気が出た。
「手抜くなよ?」
「そっちこそ!! 俺様の実力を見せてやる!!」
大好きな美少女ヒロイン二人から発破をかけられたんだ。
この戦い、絶対に勝たせてもらう。
互いに武器を構え、向き合う。
「はじめぇ!!」
「「おおおおおおおおおおおおっ!!」」
審判の号令と共に、俺たちは激突した。
「サーシャさん、貴方の模擬戦相手は……アリーシャさんです」
「え?」
同時にサーシャの対戦相手が告げられる。
俺が戦いに集中している間に、彼女は別のフィールドへと歩いていった。
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