第31話 モブキャラ、女の子達にモテる
「ゼクスさまぁ、なんであんなに強いんですかー♡」
「私たち、本当にびっくりしましたー。ギランをコテンパンにやっつけちゃうなんて♡」
寮内にて。ギランが連れていた女子二名が、なぜか俺のもとへやってきた。
二人とも目を輝かせながら、俺の両腕に抱きついてくる。
あざとく媚びるような声だが……悪い気分ではない。
「俺に惹かれていいのか? ヤツより手荒いかもしれんぞ」
「「全然!! むしろ大歓迎ー♡」」
身体をくねらせながら、胸元や下着をわざと見せるように視線を誘導してくる。
女子からチヤホヤされるって、なんでこんなに気持ちいいんだろう。
キャバクラにハマる人ってこんな感じなのか?
「……サーシャとのデートよね? なんで知らない女の子が増えてるのかしら?」
「デート中にギランから喧嘩を売られてな。返り討ちにしたら取り巻きに懐かれてしまった」
「取り巻きじゃないですー」
「強そうだから寄生してただけー」
「図々しいですわね……」
二人も女の子を引き連れた俺を、レアが呆れた目で見ている。
レアもこっちに来いと手招きしたが、逆に距離を取られてしまった……残念。
「って、あなたたち。ウチのパーティに来たことがありましたわよね?」
「「ぎくっ」」
指摘された途端、二人はわざとらしく顔を逸らした。
「知り合いか?」
「伯爵家の娘ですわね。これといって特徴はありませんが、二人一緒に貴族の男へアピールしていたので」
「え、えっと……」
「あははー、お世話になりましたー……」
男を渡り歩くのは相変わらずってことか。
……尻軽女ってやつ?
「わたくしは一切気にしていませんわ。というかビビりすぎよ」
「だ、だってぇ!!」
「スカーレット家って、貴族社会じゃ怖いって評判なのにぃ!!」
「……バカ正直に本人の前で言うか」
この素直さは褒めてもいい。
強い異性を求めるのは生存戦略として間違ってはいないのだろう。
俺は二人を知らないし、ゲーム内でどんな役割だったかもわからない。
――だが、この二人。結構しぶとく生き残りそうだ。
「で? ギランは強かったの?」
「強いが、倒せないレベルじゃない。次にやる時は……もう少し余裕で勝ちたい」
「あなたならできるでしょう? スカーレット領を救った英雄さん♪」
「英雄? あれはレアの功績だったような……」
「表向きはね」
全部レアに押しつけて、俺は好意だけ頂くつもりだったのに。
余計な責任はごめんだ。
「英雄で思い出した。そろそろヤツらが動くかもしれんぞ」
「ヤツらって……まさか」
「デストレーダーだ」
その名を口にした瞬間、レアの表情が一気に冷たくなる。
「ギデオン工務店に違法な武器が置いてあってな。多分、デストレーダーがこっそり仕込んだんだろ」
「違法な武器!? あそこは規模も質も一流ですわよ!?」
「メアリ様の毒を誤魔化したんだ。武器だって上手く隠せる……俺以外にはな」
ヤツらに感づかれないため、あえて放置してある。
だが、表の武器商店に流通しているということは、デストレーダーの影響力が城下町にまで及んでいる証拠だ。
近いうちに、グランヴァル学園も狙われるだろう。
「デストレーダーは許せませんわ。アイツらはわたくしの領も両親も、何もかも……」
「落ち着け。こちらが警戒していると悟られたら、逆に追い込まれる」
「……情報収集は必要ですわね」
アイツらは序盤に登場する。
確か二章の後半だったか。
一章は生徒たちとの揉め事と成り上がりがメインで、デストレーダーの影はほとんど語られなかった。
「な、なんかヤバそうな話ー?」
「とんでもない所に来ちゃった……?」
「残念ね。もう逃げられませんわよ?」
「「ひぃいいいい!!」」
怖がっているのに離れない……俺の近くにいた方が安全だと考えたか? 中々図太い。
「アイツらは人の弱みに漬け込む……だから待てばいい」
「待つ?」
デストレーダーの目的や行動パターンは、ほぼ把握している。
「弱さを抱えた人間なんて、いくらでもいるからな」
誰に喰いつくか。
原作通りの展開は、ギランの変化からして期待できない。
だが、目的までは変わらないはずだ。
待っていれば、デストレーダーの方から姿を現すだろう。
◇◇◇
「これより、B~Sクラスの合同模擬戦を行う!! 成り上がりたいヤツは全力で勝ち抜けぇえええええ!!」
「「「おおおおおおおおおおお!!」」」
一週間後。
巨大なフィールドに大勢の生徒が集まり、司会の煽りと共に熱気に包まれていた。
「まだ一週間しか経ってないだろ」
「本当に戦い好きですわね、この学園は」
「シンプルなのは嫌いじゃない。勝てばいいだけだ」
「……貴方もすっかり染まってますわね」
今日は合同模擬戦。
簡単に言えば、クラス別に一対一で戦い続けるイベントだ。
実戦経験を積む狙いもあるが、格上の生徒を倒せばクラスアップの可能性が一気に高まる。
Aクラス以下の人間にとって、燃えないはずがない。
「お、サーシャじゃん!」
「げっ……わざわざこっちに来るなよ」
「げ、とは何だ。最近会えなくて寂しかったぞ?」
「嘘だね。遊び相手ならいくらでもいるだろう?」
Aクラスの集合場所で、サーシャを見つける。
あれから何度か会話する関係にはなったが、親愛度に大きな変化はない。
色々試したいことはあるが……結局はサーシャ次第か。
「でも、サーシャは一人しかいない……だろ?」
「相変わらず心をかき乱すことばっかり言うねぇ」
関係は確実に進んでいる。
――だが、この合同模擬戦でちょっとしたトラブルが起きるとは。
俺ですら予想できなかった。
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