第30話 モブキャラ、新たな技を生み出す
「ふんっ!!」
「なるほど、ツルの太さも範囲もケタ違いだな」
俺を囲うようにツルが集まる。
地面にもツタが生え始め、逃げ場を奪っていった。
逃げても逃げても植物は増えるばかり。
だが俺は、ツタが集まる瞬間を待ち続けた。
「ここだな」
ズァン!!
まとまったツタを一気に斬り裂く。
光装剣は攻撃範囲こそ広いが、所詮はただの剣だ。
こうして狭い箇所で戦うほうが、光装剣の真価は発揮しやすい。
「“ブリンク”!!」
「くっ!! なんて速さだ!!」
魔力充填で脚力を強化し、高速で突撃する。
襲い掛かるツルはすべて斬り裂き、防いだ。
あれを食らったらまずい――そう感じたのか、ギランも本能的に警戒して防御を固めている。
だが、その生成速度では俺のスピードについて来られない。
スバァ!!
「外したか」
「僕もSクラスだ。多少の攻撃ならかわせる!!」
「レアもそうだけど、この速度を見切れるってすげーな」
脳筋戦法が通じないのは、ツイファンの上位ランカー達と同じだ。
ギランも考えながら戦略を変えている。俺も柔軟に対応しなくては。
「背中がガラ空きだよ!!」
「っ!!」
再びツルが襲い掛かる。
今度はツルを重ねて、一度斬っただけでは対処できないようにしていた。
斬っても斬っても、またツルが現れる。
このまま防御しているだけでは押し切られる。
俺は牽制用にクラッシュビーンズを取り出した。
「無駄だねぇ」
「マジ?」
今度はギランの周りをツルが覆う。
まるでカイコの繭のように。
しかもご丁寧に、サーシャを俺の正面に持ってきて下手な大技を出せないようにしている。
あの分厚い繭を突破するのは少し骨が折れそうだ。
ていうか、その技……
(まだ未解禁のはずだろ? どうなってやがる)
見覚えはある。だが、ギランが使うのは中盤以降だった。
序盤であんな技はなかったはずだ。
色々変わりすぎじゃねえか……?
俺がフラグを改変しまくったせいで、キャラ達の技まで変化してるのか?
「君の位置はツルを通して伝わってくる……そこだね!!」
「やっば!!」
速度まで上がってる!?
この戦いだけで強くなったってのか!!
成長率まで狂ってる……レアがSクラスになるわけだ。
「しまっ……」
「そこぉ!!」
「ぐああああああああ!!」
ドゴォオオオオオオオオン!!
避け切れなかったツタが俺を打ち据える。
強烈な一撃が身体に叩き込まれ、宙を舞って壁に叩きつけられた。
「重みも感じるな……面白い」
骨折れたか?
とりあえず魔力充填で回復しながら対策を考えるか。
「僕の魅力を伝えるためには、これで済ますわけにはいかないねぇ」
「女の子達にキャーキャー言われたいんだろ?」
「当たり前だ!! 彼女達の声援こそ、僕にとって生きがいだ!!」
気が合うな。俺だって美少女から応援されたら、そりゃあやる気が出る。
こんな時にサーシャから「がーんばれっ♡」なんて言われたら……
「落ちる、落ちるぅううううううう!!」
向こうはそんな余裕どころじゃないようだ。
可愛らしい下着を晒しながら、シールドビットや手足を使って必死に抵抗している。
絶え間なく襲いかかるツタに翻弄されて、素のサーシャがむき出しになっていた。
「さぁ、ショーはたっぷり楽しまないと!!」
ギランが巨大な塊となり、再び動き出す。
「ゲイルウェスパァアアアアアア!!」
「はぁ!? それ飛べんのかよ!!」
「自然の力は偉大だからね!!」
なんと、あの塊が回転しながら宙に浮き上がった。
正確には、何本ものツルで持ち上げたうえ、さらに外側から回転を加えている状態だ。
原作でも見たことがない、とんでも戦術をやりやがったな!?
「完成形となったゲイルウェスパーは無敵だ!! 全てを貫くがいい!!」
「きゃあああああああああ!? な、何が起きてるんだい!?」
相変わらずサーシャは逆さ吊りのまま、ギランの動きに振り回されて悲鳴を上げている。
「まるでロケットだな……っと!!」
回転しながら突進してくるギラン。
あれをまともに食らえば、魔力充填しても回復に相当な時間がかかる。
ツルの攻撃ならまだしも、このゲイルウェスパーだけは何としても避けねばならない。
Sクラスなだけあって、次から次へと新鮮な戦術を繰り出してくる。
面白い反面、突破口を見つけるのは容易じゃない。
「……サーシャの周りは最高なんだけどなぁ」
「見るなぁ!! 気持ち悪い!!」
避けながら、ついサーシャのショーツに視線を向けてしまう。
ああ、癒される……女性の下着とは本当に偉大だ。
変態じみた楽しみを挟みつつ、俺はギランに対抗する手を探り続けた。
「そうだ。俺も真似しよう」
原作にない技だが、イメージ次第でなんとかなるはず。
魔法で一番大切なのは――イメージだ。
「サーシャ!! 盾をいっぱい飛ばしてくれ!!」
「はぁ!? と、飛ばすってどこに!?」
「上だ!! とにかく上!!」
「ああもう!! なんとかなれぇええええええ!!」
俺の指示通り、サーシャは上空にいくつもの盾を展開する。
「そんな貧弱な盾じゃ雨すら防げない!!」
「なら今から晴らしてやるよ!!」
合図と同時に、俺はギランへ突撃。
ツルを避け、弾丸をかわしながら、徐々に距離を詰めていく。
「また正面突破か!! 少しは学んだら……」
「今だぁ!!」
「っ!?」
本体が迫るその瞬間、俺は跳躍し、サーシャの展開した盾を踏みつけた。
「ア、アタシの盾を踏み台に!?」
「どこまで登るつもりだ!?」
「ここでいいか……よしっ!!」
思った以上に高くまで来られたな。
空中という不安定な場所でありながら、余裕で足場になるほどの安定性。
流石サーシャ、盾の精度は一級品だ。
「ギラン!! 回転がお前の専売特許だと思うなよ!!」
「な、なんだ!? 何をしようとしている!?」
光装剣を構え、本体を狙う。
全身の魔力をさらに溜め込み、勢いよく身体を回転させる――。
「ぉおおおおおおおお!!」
「頭上から高出力の魔力……!? まさか――」
ドリルのように回転しながら落下。
それは落下の勢いと魔力充填の力を重ねた、渾身の一撃だった。
「”一刀穿通”!!」
ズゴォオオオオオオオン!!
光の刃が大量のツタを突き破り、本体を貫く。
「よっと、お疲れ様」
「なんて無茶苦茶なヤツなんだい……」
降ってきたサーシャをキャッチ。
もちろん、お姫様抱っこで。
「ば、かな……伯爵家の猿に、この僕が……!!」
「これが現実だ。受け止めろ」
ボロボロになったギランが瓦礫の中から現れ、最後の力で突っ込んでくる。
「まぐれに……決まってるだろおおおおおお!!」
だが、その拳は――
ゴッ!!
「が、はっ……」
蹴り飛ばされ、地面に沈むギラン。
そのまま気絶した。
「……アタシのパンツ、何回見た?」
「最高だった。レースの位置までバッチリわかった」
「潰していいかい? 盾って結構重いんだよ?」
「俺達の人生に比べりゃ軽いもんだ。支えてみせるさ」
「無理やり良い話にしないでよね?」
殺伐とした戦闘の中で、思わぬ癒しを堪能できた。
次はどんな色を見せてくれるんだろうか……
「今日はここまでだな。これ以上は巻き込まれたくない」
「ああ。ぜーんぶギランに押し付けよう」
喧嘩を売ってきたくせに、この有様。
周囲に隠れていた連中へ「全部こいつに言ってくださーい」と押し付けて、その場を後にする。
「「ま、まってくださーい!!」」
「ん?」
俺を呼び止める黄色い声。
振り向けば、ギランの取り巻きだった二人の女子生徒がこちらを見ていた。
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