第3話 モブキャラ、強さの秘訣を語る
side:レア
『え、ええと……今日はこんなのを用意したんだけど……』
彼は臆病だった。
何を決めるにも優柔不断でほわほわしている。
情けない。つまらない。
『ふんっ』
『あっ……』
渡された物をはたき落とす。
強さの欠片も感じない。
所詮は契約結婚の関係。
利用するには都合がいいけど、相手にするのは疲れる。
(けどスカーレット家が成り上がるには必要な事ですわ)
彼の家が所持している”お宝”。
それさえ手に入れば用はない。
この時までは利用する立場でいたのに。
「はぁ……はぁ……」
何故、私は倒れている?
何故、彼に圧倒されている?
(おかしい……今までのゼクスじゃない)
無駄に堂々としていて。
私に愛されたいと言い出して。
しかも滅茶苦茶強い。
「少しは証明できたか?」
生まれ変わったとか言い出して意味わかんない。
けど、戦ってみて実感した。
新しいゼクスがここにいる。
何もかも変わった。
貴方は……一体何者ですの?
◇◇◇
side:ゼクス
「まずはわからせ成功ってか?」
「す、凄かったです……まさかご主人様にあそこまで力が」
「何事も使い方が大事、ってことだ」
とりあえずレアに勝利。
悪役ヒロインの攻略として正しいルートかわからないが。
(ツイファンは悪役側の救済ルートが一切ないんだよな……改心展開とかあってもいいだろ)
救いようがないヤツもいるが、ビジュアルがどストライクな子もいるのが勿体ない。
ないなら俺が作るまでって事だな。
「今の冷たい目、いいですねぇ……ますますドキドキしますぅ♡」
「メディは何を言っているんだ?」
彼女はドMなのか?
ご褒美としてやってほしいプレイとか聞いた方がいいかもしれん。
「あれはなんなのですか? 全身を凍らせたのにあっさり砕いて、おまけに氷が刺さっても突っ込んでくる。不死身ですか?」
「そんな事はない。”魔力充填”の応用だ……ほら、傷も塞がった」
「え?」
”回復を促進させる”
俺の魔法に合わせたイメージを思い浮かべて集中。
すると血まみれに貫かれた身体が徐々に塞がっていった。
「あれだけの深い傷を……? 凍傷含めてかなりのものでしたのに」
「魔力充填で身体の再生力を上げただけだ」
「魔力充填? 待ってください。貴方の魔法は身体強化では?」
「ふむ……説明するより体験してもらった方が早いな」
口で説明するのがめんどくさい。
俺はレアに手を伸ばす。
「お腹、手を当てるぞ?」
「え? ちょ、ちょっと何を……」
「”魔力充填”」
再び身体の回復をイメージする。
「痛みが消えた? 疲労感もなくなって……というか他人に使用できますの!?」
「意外と使い道あるだろ?」
少しの時間で傷を塞いだ。
出血もなくなり、折れた骨も修復した。
その事実にレアは驚いた声と表情を浮かべる。
「氷もそうだ。魔力充填で体温を大幅に上げて砕きやすくした。ただそれだけ」
俺の魔法は身体強化ではない。
魔力充填だ。
効果は魔力を注ぎ込むことで、その物の効果や性能を飛躍的にあげるというもの。
身体能力を向上させたり、
無機物の硬度や魔力を付与したり、
固有武器や魔道具の効果を更に引き上げる事もできたな。
ツイファンだと玄人好みの性能で、上手いプレイヤーはこの魔力充填を使ってトンデモプレイを量産していた。
「……なるほど。驚異的な加速力も魔力充填で?」
「思ったより強い魔法だろ?」
だって色んな事ができるし。
DLCで追加された魔法だからか、プレイの幅がめちゃくちゃ広かったんだよなぁ。
一年経っても新しい戦法が開発されるくらいだ。
余りの幅広さに魔力充填劇場。なんて言われてたっけ。
懐かしい。
「つまりわたくしの認識していた身体強化ではない……という事ですわね」
「そういうこと。俺の使い方が上手いのもあるがな」
「見誤りにも程がありますわね……はぁ」
俺も魔力充填なんて面白い魔法を覚えてるなんて思わなかった。
前のゼクスは使い方がわからず身体強化っぽいものだと認識してたんだろ。
実際は上げるステータスを尖らせて、バカみたいな動きをしまくる魔法だけど。
「さてさて、楽しいお茶会に戻りましょうか」
「今更お茶を飲んで楽しくやれると?」
「だな。ここからは話し合いといこう」
魔法のタネ明かしは終わりだ。
俺もこの婚約関係に疑問を感じていた所だし。
(レアがウチみたいな貧乏伯爵と関わる理由……何だろうな?)
ハッキリ言ってスカーレット家にメリットがない。
相手は力を持った侯爵家。
こっちは何にもない伯爵家。
バーザム家が金持ちなら狙う理由もわかるが。
「あぁ、そういえば」
頭の中にあったウチの領地に関する情報。
この位置って確かゲームだと……
「どうしましたの?」
「いや、こっちの話だ」
なーるほどね。
レアがウチを狙う理由がわかった。
「実力は認めます。だからといっていきなり親密な関係になるのは」
「ウチの鉱山、興味あるだろ?」
「っ!? 気付いていましたのね……」
何周もしてるからな。
ゲームで使えそうなスポットは大体把握している。
「ついさっきな。前のゼクスが教えてくれた」
「生まれ変わった、というのが誇張ではなさそうですね」
レアの表情が曇る。
恐らく価値に気づいてないと踏んで、鉱山の権利をゲットしようとしてたか?
前のゼクス相手なら上手くいっただろうが、運が悪かったな。
「一儲けしたいんだろ? ウチは立地が悪くて人も寄らない。わざわざ鉱山に行く冒険家もいないからな」
「……バーザム家保有の鉱山には誰も手を付けていないお宝があります。それが」
「マナ鉱石だろ?」
レアが狙っていたドロップアイテム。
彼女の黙り込む姿が正解だと教えてくれる。
「モンスターからドロップする小さいやつじゃない。自然が生み出した高純度で大きい鉱石だ。市場に出したら相当値が付くだろうな」
マナ鉱石はゲームでもかなり重宝された。
武器や魔導具の製造。
特殊な魔法を起動するための素材。
マナ鉱石はモンスターと発掘の二種類でゲットできるが、発掘で入手可能なやつはとにかく質がいい。
モンスタードロップだと(小)、よくて(中)。
だけど発掘なら最低でも(中)が確定。運が良ければ(特大)がドロップする。
マナ鉱石はデカければデカいほど質がいいし、高いレベルの武器や魔導具の生成には必要不可欠だ。
「今まで手を付けなかった理由はありますの?」
「単なる人手不足だ。鉱石も奥にあるだろうし、調査する人員も金もない」
「なるほど……」
ゲームだと数時間くらいかけてマナ鉱石発掘の周回とかやってたなぁ。
バーザム家保有の鉱山も優良スポットの一つだ。
未だに価値に気づいてないのはびっくりしたが。
「まともに調査してない鉱山に何故鉱石があると?」
「言っただろ? 生まれ変わった俺は知っている事も多い」
「ふぅん?」
全てはゲーム知識。
時間と経験のおかげだ。
「それで? バーザム家としてはどのような取引を?」
「そうだなぁ……」
単に稼ぐだけならレアのことを忘れて市場に売ればいい。それなりにお金が手に入るし、ウチの家計もかなり潤うだろう。
けど、
「市場の平均相場より三~四割安く提供する……とか?」
「はいっ!?」
今回は敢えてスルー。
貴重な交渉材料なんだ。レアとの関係構築に利用させてもらおう。
面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。
m(_ _)m




