第29話 モブキャラ、キザなクラスメイトと戦う
「君とは一度やりあってみたかったんだ。オーディエンスもいるし、ちょうどいい」
「俺もだ。お前の恥ずかしい姿を見たくてな」
「勝つこと以外見えてないのか? 愚かな伯爵だ」
杖の先端を撫でながら、余裕の笑みを浮かべるギラン。
随分と挑発してくれるじゃないか。……なら、本気でわからせてやる。
「君の隣にいるレディ……誰かと思えばクラウン家の次女じゃないか。姉より下のクラスにいるって噂の」
「っ!! アンタこそ生意気な口を閉じた方が良さそうだねぇ?」
「おいおい、公爵家のAクラスが何か言ってる。侯爵家の僕に負けたら、口だけの情けない女ってことだ」
「ちっ……」
一クラス違うだけで、そこまで差があるのか?
馬鹿にされてもサーシャは反論できず、苦々しい顔をして目を逸らすばかりだった。
「やらないのか?」
「……どうせ勝てないよ。アタシなんてお姉様より弱いんだから」
「なるほど、諦めモード突入か」
「説教かい? アンタが惚れた女が、こんなにも情けないなんて思わなかっただろう?」
自信がないのだ。
実力も人気も地位も、すべて姉に劣る彼女。
負け続けの人生。偏見を植え付けられるのも無理はない。
「いや? むしろ守りたいほど可愛らしいって思ったが?」
「はぁ?」
どちらにせよ、サーシャのことは救う。
ダメな子ほど愛おしくなるってやつだ……別にサーシャはダメじゃないけどな。
後で彼女の価値をたっぷり教えてやらないと。
「ギランさまぁ、あんなヤツ倒しちゃってくださいよぉ♡」
「私もギラン様のかっこいいとこ見たーい♪」
「ふふ、たっぷり見せてあげるから。そこで見学しているといい」
「「きゃー!!」」
すげぇバカみたいな取り巻き女子二人。
名前も知らんってことは、俺と同じモブか。
「お前の連れも中々可愛いな。欲しくなってきた」
「ふふ、君に惚れることはないさ。彼女達の目は案外、肥えてるからね」
「肥えてる? 見誤っただけだろ?」
「……まずはその口から消し飛ばそうか」
俺の挑発に、ギランの顔が不機嫌に歪む。
杖に魔力を込めると、地面から植物が次々と芽吹いた。
「なんだいこれは!?」
「自然系統の魔法使いか。まるで生き物のよう……見事だ」
「鑑賞動物じゃないよ? ここからもっと美しくなる」
大木のような植物に、グロテスクな口が付いていた。
ホラーゲームに出てきそうな代物だ。
「爆ぜろ……大地の種達よ!!」
ギランの号令とともに、植物の口から種が一斉に射出された。
「……ここか」
「ちょっと!? なぜ動かないんだい!?」
「いや、この位置なら避けられるだろ?」
「意味がわからない! 弾は何発もあるのに……」
派手な回避なんて不要だ。
俺は一歩前に進み、さらに三歩だけ左へ。
それで十分だった。
種の弾道、落下地点……すべてが“見えて”いる。
ドドドドドドドドッ!!
「ほらな」
「え……?」
弾丸は俺をかすめることなく、すべて地面へと突き刺さった。
「僕の攻撃を、動かずにかわしただと!?」
「まるで予知していたような……どうやって」
「目を強化した。それだけだ」
「「は?」」
驚いたろ?
魔力充填は、肉体のあらゆる部位を強化できる。
目を強化すれば、弾道計算や軌道予測なんて造作もない。
しかも今回は速度の遅い弾が、素直に一直線に飛んでくれた。
「身体強化の応用……? 聞いたこともない!!」
「正確には魔力充填……って、次も来るか」
「ま、まぐれだ! 今度は攻撃を混ぜれば!!」
ギランは焦り、種の弾に加えてツタの鞭を操る。
「くそっ! くそぉ!」
「やはり自然系は火力偏重だな。その分、速度では劣る。レアの方がよほど速いぞ」
どの攻撃も単純すぎる。
変化も特異性もない。
魔力充填というシンプルな強化に、手数や力押しで勝てると思うな。
「……ならば範囲攻撃だ」
「ほう?」
ギランが一旦攻撃を止め、周囲のツタを大きく広げる。
「また同じ手か? 弾丸を増やしたところで……」
「い、家にツタが!? まさか……!!」
おいおい、他人の家だろ?
ツタで屋根ごと引き剥がすのは豪快だが、どうやって弁償するつもりだ?
「きゃあああああ!!」
「お、俺の店がぁ!!」
「力ってのは、こうやって使うんだよっ!!」
完全に俺を倒すことしか考えていない。
……まあ、後先考えないのは俺も似たようなもんだが。
「だから避けられる……って、その方向は!!」
やばい。
崩れた家屋の破片が、サーシャの頭上に落ちる軌道だ。
「サーシャ!」
「ちっ!! アタシを巻き込むんじゃないよ!!」
蹴り壊すか……?
俺は足に魔力を込めかけて――いや、必要ないな。
サーシャの魔法なら防げるはずだ。
「集合しな!! シールドビット!!」
ガァンッ!!
小型の盾が次々と彼女の前に集まり、巨大な盾となって崩落を受け止める。
相当な質量だったはずだが、サーシャの表情は微動だにしない。
「ふん、Sクラスってのは意外と大したことないのかい?」
「い、家を防いだだと……Aクラスの分際で!!」
やるじゃないか、サーシャ。
彼女の固有武器である盾を生かした魔法。
普段は複数の小さな盾だが、意思次第で巨大な盾に変形可能。
さらに小型盾一つひとつを飛ばして遠隔操作することもできる。
それぞれが高い防御力を持ち、彼女の防御網を突破するにはかなりの実力が必要だ。
「どうだ? 少しは自信ついたか?」
「……少しはね」
「そうか。それならよかった」
やはり、彼女を変えるにはやって見せるのが一番だ。
「やるしかないようだねぇ……大合体を!!」
「大合体?」
「僕の切り札さ――おおおおおおおおおおおおお!!」
ギランが咆哮する。
それに応じて植物たちが一斉にうねり、絡まり、融合していく。
やがて巨大な一本の木へと姿を変えた。
「きゃあああああああ!!」
「な、なんだありゃあ!!」
凄まじい迫力に、観客たちも我先にと逃げ出す。
喧嘩の域をとうに越えている。
こいつ、戦争でも始める気か?
「まるで怪獣みたいだな」
「怪獣? 何のことかわからないが、迫力は十分だろう?」
そうか、この世界には怪獣の概念がないか。
さて、この化け物をどう仕留めるかーー
「おまけに動きも……ねっ!!」
「っ!? きゃああああああ!!」
「サーシャ!」
地面から伸びたツタがサーシャの足を絡め取り、そのまま宙へ吊り上げる。
逆さまの状態で、彼女は情け容赦なくぶら下げられてしまった。
「へへ……いい盾を手に入れたよ」
「くっ!! このツタを離せ……そ、そこはやめろぉ!!」
ギランは器用にツタを操り、サーシャのスカートをつまむ。
そして容赦なく持ち上げ――
「おおぉぉ……」
「見るんじゃないよ!! 変態どもが!!」
露わになったのは、ピンク色のショーツ。
しかもフリル付きの可愛らしいデザインだ。
「ギラン……素晴らしいご褒美だ、感謝する」
「レディの下着は何度見ても飽きないね」
「変態共……後でぶっ殺してやるからな!!」
怒りに震えるサーシャはシールドビットを操り、巨大植物へ攻撃を仕掛ける。
だが、かすり傷ひとつ付けられない。
物理耐性が相当高いな……原作でもギランの最終形態はちょっと厄介だった。
「だが、盾にするのは趣味じゃない」
「ん?」
倒せない相手ではない。
それに、美少女を盾にするなんて趣味は俺にはない。
俺はナイフの刃を撫でる。
そこから光が溢れ、剣の形を成し始めた。
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