第28話 モブキャラ、武器を見る
「待たせたな」
「ほ、本当に来るんだね……」
「貴重なサーシャとの時間だぞ? 俺がこの日をどれほど待ちわびていたことか」
「アタシとの時間を……ふぅん」
何だかんだ楽しみにしてたのか?
サーシャの表情が、前よりも少し穏やかに見える。
約束より十分前に来たのが良かったのかもしれない。
「さてと……まずサーシャは、どこに行きたい?」
「アタシ?」
「誘ったのは俺だ。この時点で俺のワガママは叶った。次はサーシャの番だろ?」
正直、サーシャとならどこでもいい。
行き先そのものよりも、彼女と話す時間が欲しかった。デートはその手段にすぎない。
「本当にどこでもいいのかい?」
「どこまでも。世界の裏側だって付き合うぜ」
「それは帰れなくなるだろう……じゃあ」
サーシャが口にした場所は――
「城下町に行きたい」
ルシオン王国で一番、人が集まる場所だった。
◇◇◇
「ほー、すげぇ賑わってるな」
「ルシオンで一番大きい所だからね。世界中から人が集まるのさ」
平日だってのに、この人混み。
見渡す限りの人の波。その熱気に負けないように、通りには無数の店が軒を連ねていた。
「ウォオオオオオオ!! 俺は最強だぁああ!!」
「やんのかゴラァ!! ぶっ飛ばしてやるぜぇ!!」
「治安の悪さも世界一、と」
「色んな人が集まるからねぇ」
道端で大の男が殴り合い、それを群衆が熱狂して見物している。
この世界の人間は、戦いを娯楽のように求めるのかもしれない。
喧嘩や人混みをすり抜けながら、サーシャの案内で前へ進んだ。
「着いたよ」
「ギデオン工務店……あぁ、武器で有名なところだ」
「よく知ってるじゃないか。時間がある時に一度見てみたかったんだよ」
ゲームでは大いに世話になった場所だ。
進行度に応じて武器が解放され、序盤から終盤まで何度も通った思い出がある。
「らっしゃーい!! なんでもあるよー!!」
「……こんな感じだったなぁ」
「来たことがあるのかい?」
「いや、ちょっとした縁があって」
その挨拶、何百回聞いたことか。
周回プレイのたびに耳にして、担当声優がネタにしていたほどだ。
「うわ、すっげぇ。本物の魔剣だ……」
「珍しいのか? そんなのアタシの家にいくらでも転がってるよ」
「このゴツさはリアルだからこそ……うーん、かっこいい」
「何を当たり前のことを……?」
この厨二心をくすぐる武器が実在するのが堪らない。
現地人には分からないロマンだろうが。
「……アンタ、変わった武器を持ってるね」
「あぁこれ? 打撃武器として使えて便利なんだよ」
ほう、俺の武器に目をつけるとは。
さすがは武器作りを趣味にするだけのことはある。
「柄の部分がガントレットに……どこで手に入れたんだい?」
「どこで……どこなんだろうなぁ……」
「知らないのかい?」
実は、入手経緯をよく覚えていない。
ゲーム内では特別でもない武器なのに、前のゼクスがどうやって手に入れたかは記憶になかった。
ある日突然、手にしていたのか?
いや、聖剣じゃあるまいし……
ま、呪われてるわけでもないし、気にすることはないか。
「それで? サーシャは盾を探しに来たのか?」
「盾も大事だけど補助アイテムを……待て、アタシが盾使いだって何故知っている?」
「生まれ変わった俺は何でも知っている、ということだ」
「またワケのわからないことを……」
サーシャは原作でも盾使いだった。
タンク性能は高く、彼女の防御を突破するのには苦労させられた記憶がある。
しかもサーシャの盾は特殊で、余計に強力だった。
「……盾なんか、いくら強くてもお姉様には勝てないよ」
だが、そんな盾もアリーシャの前では無力。
戦闘の相性が最悪なのだ。
「そうか? 盾は十分戦える武器だ。クセはあるが使いこなせば……」
「うるさい!!」
説明しかけたところで、サーシャが胸ぐらを掴んできた。
「殴ってもいいぞ?」
「なんで……そこまで自信が……」
「自信があるからに決まってるだろ?」
「っ……アタシはアンタが怖いよ」
気持ちが晴れるなら、遠慮なくぶつけてくればいい。
お前の心が救われるなら、サンドバッグにだってなる。
「取り乱したね。すまない」
「全然。むしろ俺にぶつけてくれて構わない」
「……ドM?」
「正確には両方だ。サーシャのスパンキングなら歓迎だな」
「え、キモい……」
失礼な。
俺は素直に気持ちを伝えているだけなのに。
さて、俺も武器を物色するか。序盤だから大したものはないが――
「ん?」
この武器……原作だと闇商店で売られていたはず。
”あの組織”が動いているのか? 俺の固有武器じゃないし、頭の片隅に留めておこう。
「お、これは……」
他の武器を見回していた時、ふと手が止まる。
「買った」
「ナイフ十本セット? 固有武器とはいえ多すぎじゃないかい?」
「全部使うわけじゃない。お目当てのナイフもなかったし、あくまで繋ぎ用だ」
「へぇ、欲しいナイフがあるんだね」
投げてもいいし、両手に構えてもいい。
理想の一本を手に入れるまでは、こいつらで凌ぐとしよう。折れるだろうけど。
「作れるのはお前だけだ……サーシャ」
「へ? ア、アタシ?」
俺が満足できる武器を作れる存在。
彼女の肩にそっと手を回す。
「素材はまだ足りないけどな。いつか依頼するつもりだ」
「なんでアタシ? 腕のいい職人なら他にもいるだろう?」
「いーや、お前じゃないとダメだ」
サーシャの技術はトップクラスだ。
今後さらに成長する見込みもあるし、個人だからこその細かい調整も利く。
そして――
「愛する人のお手製武器って最高だと思わないか?」
「は、はぁ!?」
サーシャの武器が欲しい。
それが一番の理由だ。
「な、ななななななんでアタシを!? アンタ狂ってるよ!!」
「俺は素直に伝えてるだけだが……会計よろしく」
「はいよー」
「ああもう、アンタのペースに狂わされっぱなしだよ……」
片手間でナイフを購入する。
ふむ、もう少し押しが必要か?
心の扉は閉ざされているが、開けられないわけではない。
「どうせアタシを見捨てるんだろう? アンタはお姉様と話していないだけだ」
「アリーシャ? あいつとはもう……」
だって主人公がいるし。
どう伝えるか考えていたその時――
「うおっ!!」
「っ!? なんだいこれは!!」
ドォオオオオオン!!
突如、店に人が吹っ飛んできた。
さっきの喧嘩の続きか?
「やれやれ、僕に逆らうとは愚か者だ」
「流石ですギランさまぁ♡」
「すてきぃ♡」
……あー、こいつか。
Sクラスの生徒、ギラン。
キザったらしい態度を崩さない、王子様気取りのやつだ。
取り巻きの女子を連れて、喧嘩でいい気になっているらしい。
入学早々、実に騒がしい。
「サーシャも、あれくらい甘えていいぞ?」
「ぜ、絶対やらないからな!! 誰があんなバカみたいなことを!!」
……キザなところは俺と似てるのかもしれん。
レアやサーシャがあんな風に甘えてきたら――
「ん? これはこれは……」
妄想に浸っていた俺に、ギランの視線が向く。
「お調子者の伯爵じゃないか。こんな所でデートかい?」
「素敵なレディに出会ってな。仲良く楽しんでいたところだ」
デート中に喧嘩はごめんだが……
少しくらいなら、わからせてやるのも悪くない。
面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。
m(_ _)m




